『MAVでなくても手は取れる』 第2話『エグザべ・オリベ死亡説』水をたっぷり吸った布は重たくまとわりついて動きを妨げる。布の中身、つまり意識を失った人間の体はさらに重い。つまるところ、入院着を着て気絶している成人男性というのは水中で抱えるには最悪の荷物の一つであった。それでもエグザべは一度掴んだ体を手放しはしなかった。川岸へとどうにか辿り着いた時には随分と流されてしまっていたし、体力も殆ど使い果たしていたが、どうにか橋の下の暗がりへと身を隠すことに成功した。きっと、最後のほうは溺死体が流されているようにしか見えなかっただろう。
夜の闇に紛れて身を潜めて、引きずるようにして川から引き揚げてきた金髪の男の身体を横たえる。長く水中にいた体は冷え切っていて、かろうじて生きているという有様で浅い呼吸を繰り返していた。その入院着は今や見落としようがないほど赤く染まっている。そっと脱がせてみれば、そこにあったのはやはり複数の銃創であった。運がいいのか勘がいいのか掠める程度のものが多かったようだが、いかんせん出血量が馬鹿にならない。加えてほとんど溺れかけの状態だったのだ。放っておけばこのニュータイプの同胞は今夜ここで死ぬだろう。それは勘を使うまでもなく明らかな事実だった。
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