PN利き小説 エントリー作品⑨夜明けにはまだ少し早い時刻。
薄暗い寝室で控えめに時を告げるアラームの電子音が、男の意識を覚醒させた。
隣にいる恋人の眠りを妨げないよう、ネコ科動物のようなしなやかな動きでするりとベッドから起き上がる。
ものの10分足らずで身支度を整えた男は、日課のジョギングをこなすべく家をあとにした。
現在、男とニールが居を構えるセーフハウスはロンドン郊外の閑静な住宅地にある。
近辺の住人はすでにリタイアしている世代が比較的多いようで、余暇を過ごす人々が醸し出す穏やかな時の流れは二人にとっても心地よいものだった。
休日の明け方、まだ人の少ない静かな街並みを男はひとり駆けてゆく。
10月にもなると朝晩の冷え込みは吐く息を白くするほどだが、外気の寒さに反して体が温まってくる感覚を男は楽しんでいた。血液が、酸素が体の隅々まで送り届けられ、細胞レベルで覚醒していくようだ。
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