レトのオフィスには、一区画だけ仕事から切り離された空間がある。
そこには一つの棚があり、そこには何十という紅茶缶と、いくつかのティーポットとティーカップがしまわれている。
レトは仕事に区切りがついた時、あるいは逆に仕事が煮詰まった時は、そこから自分の体調や気分に合わせて茶葉を選び、紅茶を淹れるのだ。
その時、部下がいれば一緒に彼あるいは彼女の分も淹れてやるし、レトのオフィスに来客があった時にもそれらの茶葉はふるまわれる。
レトの部下にも紅茶を淹れられる人間はいるし、ある程度の、最低限のものでいいのであればその人数はもっと増えるだろう。
しかし、レトは茶葉を選び、ティーポットにそれを入れ、お湯を注ぎ、蒸らし、出来上がったものをカップに注ぐという一連の動作を、自ら行うのが好きだった。
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