く 洞の天井はディミトリがまっすぐ立とうとすると頭をぶつける程度の高さだが、横幅は寮室と同じくらいあり、奥行きもそれくらいあった。川べりのわりに湿気はあまりなく、息苦しさを払うようなすっと爽やかな匂いが漂っているのは、近くで拾い集めた針葉樹の葉を匂い消しに持ち込んだおかげだろう。
思った以上にその香気が強いことに驚きながら、ディミトリは外の焚火の明かりを頼りに腰を下ろして岩壁に背を預けて息を吐いた。吸い込んだ空気は入り口に比べて、香気がより濃くなった。
体が火照って汗ばんでいるぶん、すっきりした香りが心地いい。もとから緩めてあった襟元をさらに寛げさせながら息を深く吸い込めば、爽やかな香りが鼻腔をくすぐり――なにか別の香りがあることにも気が付いて、ディミトリはなんだろうと顔を上げた。以前も感じたことの香りだ。葉の香りでもなく、花の甘い香りともまた違う。だがなんともいい香りだとディミトリは思った。
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