抜けた底 さくらんぼのように薄皮に覆われた、戦うために使う指よりもたくさんの神経が集う器官を、ただ触れあわせる。それだけで、これ以上なく幸せだった。指を絡ませあいながら、抱きしめあいながら、土のにおいのする家で、無機質な部屋で。さまざまな場面でするたったひとつの動作が、何よりも互いの気持ちを伝え確かめあえるものになっていた。
それで十分じゃなくなるなんて知らなかった。
ある日「それ」をしてみると、なんだか離れ難かった。普段の何倍もの回数、触れたり離れたり、触れたまま擦りあわせてみたり。俺の気が済むまで繰り返してから顔を離すと、茫然とした総士のくちびるの端にはよだれが滲んでいた。あふれ出た果汁のように思われて、なんとなく、それを舐めてみた。甘いような気がして、やっぱりな、とか思った瞬間、
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