風邪ウィ(前編) ふと書類から顔を上げると、見慣れた探偵社のオフィスがくらりと歪んだ。
まずいな、と思う。
朝からあったぼんやりとした違和感はいつしか明確な頭痛に変わり、こめかみから目の奥にかけてずきずきと不調を訴える。いやに渇く喉も、捉えようによっては痛みともとれた。
同じ部屋にいる面々を見回しても、この晴れた日に三つ揃いを着込んでいる者は他にいない。その上で不自然に寒いのだから、これはもう言い訳のしようがないだろう。
まごうことなく、風邪である。
自覚すると、途端に体が重くなるのはどうしてか。細く息を吐いてから、慎重に腰を浮かす。
「ごめんビリー君。もしシャーリーが来たら、仮眠室にいると伝えてくれるかな」
簡単にデスクを片付けて、今いる中で一番馴染みの相手に伝言を頼む。当のシャーリーは調査に出ているので、そのうち帰ってくるはずだ。
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