『相棒セラピー』「とうや」
普段はしっかりと芯を持った声が、今は甘ったるく蕩けて俺を誘惑する。ああ、これは重症だなと当たりをつけて湿った頭をそのままに、肩にタオルを引っ掛けてリビングへと顔を出す。
先に風呂をすませてラフなスウェット姿の彰人の片手には、あとはスイッチを入れるだけになったドライヤーが握られている。俺がシャワーを浴びている間に脱衣所で物音を立てていたのは、やはりこれを持ち出したときの音のようだ。
ソファに腰掛けながら手招く彰人の両足の間に挟まり、床へと腰を落ち着けた。首を反らして見上げると、甘ったるい視線と目が合った。
「おら、前向け」
頬と頭に優しく手を添えられ、促されたとおりに正面を向く。テレビも消えて無音のリビングは、俺と彰人がたてる音だけで構成されていた。
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