ほしいもの、ふたつ 梅雨の気配の色濃い6月半ば。病院の中庭に咲く紫陽花が手鞠のような花を可憐に咲かせ、その葉の上を蝸牛が光の迷路を編む様子を、外来診療を終えた神宮寺寂雷は微笑ましく見守っていた。
窓の外は雨。しとしとと降り続ける雨は、再来週には止むだろうか。壁に掛かったカレンダーを見つめ、ふ、と頬が緩んだ。
再来週には、愛しい人に会える。
その予定だけが、激務の寂雷を支える太い柱となっていた。
「あら、先生。なんだかご機嫌ですね」
「ふふ……そう見える?」
「ええ、とっても」
看護師にもバレてしまうほど、寂雷は浮かれていた。
「じゃあ、私はそろそろ上がりますね」
「はい、お疲れ様です」
腰まで伸びる菫色の髪を靡かせ、ヒールの音も高らかに寂雷は病院を後にした。
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