揺れる陰影 昼間の喧騒が嘘のように引いた閉館後の水族館は、薄暗い静寂に包まれていた。メインの照明はほとんど落とされ、水槽の中を照らす淡い光だけが、通路にぼんやりとした陰影を落とす。どこからともなく聞こえてくる浄水器の低い稼働音が、ひっそりとした館内に規則的なリズムを刻んでいた。
日中は多くの来場者の視線を集めていた魚たちも、今は岩陰で身を寄せ合うように休んでいたり、あるいは昼間はあまり姿を見せなかった夜行性の魚が、ゆらゆらと水槽の中を泳ぎ始めている。ジャックはそんな、昼間とはまるで違う顔を見せる夜の水族館の雰囲気が好きだった。生き物たちの本来の姿が垣間見えるようで、心が落ち着くのだ。
館内の見回りを終え、スタッフルームのソファに深く身を沈めたジャックは、ようやく訪れた一息つく時間に、無意識に深く息を吐き出した。
1873