誰かが夜闇を駆け抜ける音がする。
朽ちた木の香り、震える吐息、深まる黒い霧。
──これは、俺か?自覚した途端、バチンと意識と身体が繋がった。鼓動が高鳴り、全力疾走の気だるさが一気に襲ってくる。
こんなに汗を垂らして、俺は一体何を探している?
目まぐるしく回る視界。けれど屋敷の中は代わり映えしない景色ばかりで、そこに俺の求めるものは存在しない。あぁ、そうだ、俺は──あいつを。
ただひたすら、追い求めて。扉を開いて、開いて、開いて。繰り返し汗を拭って駆け抜ける。
丘の上の、古い屋敷のその最奥。
黒い霧の発生源は、小さな少女だった。どうやら、この少女が屋敷の主らしい。けれど少女は迷子の子供のように泣きじゃくるばかりだった。
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