忘却願望(不完全版) 意識が少しずつ浮き上がっていく。僕は目覚めたくなんか無くて必死に底の方にしがみ付いたのだけど、もがけばもがくほど急速に覚醒へと引き上げられていく。仕方なく重い瞼を開くと、傑が僕の顔を覗き込んでいた。
「春だからって油断するからだよ。全く、寝るならきちんとベッドで寝な」
僕の目が覚めたことに気づいた傑が呆れた声で小言を言う。傑の顔の後ろ側に見える天井が以前傑と一緒に住んでいた安アパートのものだった。僕はすぐにこれが夢であることに気づいた。
養成所時代、僕と傑は一緒に暮らしていた。理由は単純に生活費の節約と、いつでもネタ合わせが出来るように。芸人として収入が安定してきた辺りで傑がお互い一人暮らしをすることを提案してきたので、一緒に暮らした時間は二年くらいだったけど。
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