時計の針は止まらない「説明は、これで終いや」
二人きりの夜の談話室で、ジュードさんの指先が、とん、と煙草を叩く。その粗雑と繊細が共存する仕草は不思議な魅力があった。任務の打ち合わせの最中に、彼の指先に視線を奪われたことに悟られないように視線を外す。
「明日、10時。遅れたら承知せんから」
煙草を灰皿に押しつけると、ジュードさんは立ち上がって背中を向けた。
「……ジュードさん」
「あ?なんや。ちっさい脳みそは、一回の説明じゃ覚えられへんて?」
「いえ、任務のことじゃなくて、伝えたいことがあるんです」
「はぁ?」
体の前で手を合わせた彼と向き合うと、妙な緊張が走って、外套の襟を手繰り寄せる。
この外套が肩にかけられたのはつい先程のこと。二人での潜入捜査先を終えて、クラウン城に到着した馬車から降りた瞬間だった。彼は迷うことなく露出した肩に紫煙の香るそれをそっと掛けた。「あいつらに食われたいなら脱ぎよったら」なんて相変わらずの皮肉を投げつけながら。
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