想い出の曲を君と 午後の光に満たされるリビングで、ふと耳に入ってきたのは、きらきらとした懐かしい金属音。懐かしさに引き寄せられて、その音がする方向に向かえば、懐かしいものを引っ張りだしてきたらしい娘の姿。幼稚園に行く前に目敏く見つけてきたその箱を離さないままに家を出ようとしたのを慌てて取り上げて幼稚園へ送り出せば、帰ってきてから一目散に、それこそ着替えもしないで箱を開いて見つめている。私の耳に入ってきた金属音の音源はその箱の中だと言うのを私は知っている。そう言えば、これを貰ったのは10年近く前の今日だったか。とカレンダーを見て思い出す。カレンダーの今日の項目には夫による「圭子さん」の文字と簡単なケーキのイラスト。子供達の誕生日にも同じような文字とイラストが踊り、夫の欄だけは私の文字で同じ事が書かれている。誕生日以外にも、チラホラとカレンダーに夫の手で文字が書き込まれているのは、あの人が意外にもイベント事が好きだという事実が関係している。
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