幽明境を”同じく”す冥界に日の光は差さない。こと最奥部である冥王の館など、篝火から離れればいつでも薄暗く、地上からは陰鬱だと敬遠されている。
だがそこで生じた者には──死の神タナトスにとっては、逆に地上の光の方が眩しくて煩わしい。生き物とは喧しく、死者や霊魂の静けさがいかにも好ましかった。
例え亡者が牙を剥こうが、鎌の一振りでいくらでも沈黙させられることも含めて。
そしてこの度も己の務めの間を縫い、地上を目指す王子に襲い掛かる死者たちを沈黙させ、タナトスは館に戻っていた。
ケルベロスやザグレウスが暴れさえしなければこの館は落ち着いたものだ。
以前はそれでよいと思っていたが、新たに加わった騒々しさも華々しさも、今は悪いものとは思わなかった。メガイラも冥王の手前口には出さないが煌びやかになった酒場に賞賛を送り、西館の入口を守る亡霊もザグレウスが設置した調度品に心を慰められている。
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