無題 藤丸立香は、気がつくと秋色の森の中にいた。
あたりを見渡すと、虫の姿をした妖精たちが飛び出してきて、嬉しそうに立香の周囲を飛び回る。相変わらず何を言っているのかはわからないが、歓迎されていることはわかった。しばらく妖精たちと戯れてから、立香は尋ねる。
「オベロンはどこ?」
それに答えるように、妖精たちは立香を彼らの王様の元へと導いた。
辿り着いた場所は、木々に囲まれた中にある小さな陽だまりだ。そこに、オベロンはいた。木にもたれて足を投げ出して座っている。灰暗色の前髪の下で、その瞳は閉じられていた。立香を導いていた妖精たちが、ふわりと彼の頭や肩に寄り添って、ゆるやかな歌を口ずさむ。その様子は、絵本の一頁のようで、立香は自然と微笑んだ。オベロンの側面に歩み寄ると、その場にしゃがんで至近距離から彼の顔を眺める。思えば、こうやって近くからその顔を見つめたことはなかった。ほんのり血色のある頬に触れてみたくなって、手を伸ばそうとした自分に気付いて、立香は苦笑いする。そうして、そのまま手を下ろし、その場に腰を下ろすと膝を立てて座った。
1886