稀代の天才。サッカーに愛された男。
そう持て囃された凪誠士郎の引退会見は、ふたつの意味で世間を騒がせた。
「突然ですが、今日を持ちまして現役のサッカー選手を引退します」
そう淡々とした表情で話す凪に、玲王は目を丸くする。その引退会見は中継されていたこともあり、SNSでは阿鼻叫喚の嵐だった。『早すぎる』『もっと凪のプレーが見たかった』『日本は失ってはいけないものを失った……。それは凪誠士郎だ』そんな言葉が濁流のようにタイムライン上を駆け抜けていく。
サッカー選手としてのプレイヤー寿命は年々上がり、三十歳を超えても現役でプレーする選手がいる中、凪は二十八歳にしてその輝かしいサッカー人生に幕を閉じた。それも、なんの前触れもなく突然に。ちょうど、在籍しているチームの契約が切れようかというタイミングで、次は何処へ行くのかとみんなが期待しているときだった。
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