かくん、かくん。
綺麗に切り揃えられた蜂楽の前髪が揺れる。ぱっちりとした大きな目はときどき薄く開いたり、かと思えば閉じたり。睡魔に負けそうなのか、蜂楽の意識は今にも飛びそうだ。いつもは自分と変わらない上背の蜂楽だが、いまはひどく小さく見える。
そんな恋人の様子に「もう寝る?」と小声で尋ねてみたが、蜂楽は「んー……」と煮えきらない返事をするだけで動こうとはしなかった。
「おい、蜂楽……。寝るなら寝室に行こう」
体が痛くなっちゃうから。
そう訴えるも、蜂楽は首を縦に振らない。両膝を抱えていたはずの手からは力が抜け、ずるりとソファの下に足が投げ出されているというのに、それでも蜂楽はイヤイヤと駄々をこねる子どものように首を振った。
「……寝たくない」
「なんで?」
「なんでも……」
蜂楽が、ふわ、っと大きなあくびをして、甘えるように寄りかかってくる。
どうしよう。まだ眠くないんだけど。でもこのままじゃ、体が痛くなっちゃうよな……という気持ちの方が勝ち、潔は仕方なく蜂楽の体を抱えた。
「ほら、行くぞ」
「うん……」
蜂楽の肩を抱き、なんとか寝室まで歩かせる。
寝室はすぐそこだった。過去に数回、入ったことのある蜂楽の寝室は、廊下を出てすぐのところにある扉の向こうだ。
実を言うと、付き合ってまだ片手で数えるほどしか蜂楽と夜を過ごしていない。だから今日、『お互いオフだからおうちデートしよ♪』と蜂楽に誘われたとき、少しだけ期待していた。期待していたからこそ、なかなか眠気が来ないというのもあるのだが、当の本人がこれじゃあなぁ……と小さくため息をつく。
「ほら、蜂楽」
「ん、ありがと」
「ばか、そっちじゃなくてこっち……って、うわっ!」
ふらふらと壁沿いを歩こうとする蜂楽を引っ張り、寝室のベッドに下ろした瞬間、ぐるんと視界が回った。何が起こったのか分からず、目をぱちぱちと瞬かせる潔をよそに、蜂楽がマウントをとってくる。さっきまでの眠そうな目も、今はぱっちりと開いていた。
「お、お前……! 眠いんじゃ、」
「にゃはは♪ 眠くないよ〜ん」
「はぁ!?」
なんだそれ。じゃあ、さっきの船を漕ぐ仕草も嘘だったのかよ!? という言葉は蜂楽によってせき止められた。軽いリップ音を立てて離れた唇が弧を描く。
「何もしないで寝るわけないでしょ♪ 潔だって、期待した目で見てたじゃん」
「み、見てない! っていうか、それなら普通に誘えよ……」
「んー、でもさ、潔とえっちしたいって正直に言ったら、潔、照れちゃうでしょ?」
蜂楽からのストレートな物言いに、ぶわっと頬に熱が集まる。それを見た蜂楽が楽しそうに笑った。
「うにゃ、でもこの反応を見るに、素直に誘った方がよかった?」
「は、いや、」
「じゃあ、素直に誘うね」
蜂楽の綺麗な指先が、潔の乱れた髪を丁寧に耳にかける。蜂楽は赤く色づく耳たぶに唇を寄せると、吐息混じりに囁いた。
「これから潔とえっちしたいんだけど……いい?」