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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    何回も同じ夢を見る宜野座さんのお話。
    ハッピーエンドです。

    #PSYCHO-PASS

    沈めても沈めても浮かび上がるのは 眠り入る寸前の時に、うたた寝をする時に、必ずと言っていいほど見る夢がある。俺はそこでは花屋をしていて、狡噛はその店の客として現れる。季節の花を頼みたいのですが、そうですね、ではこちらはいかがでしょうか? 会話はいつも違うが、ありふれた感触でそれは始まる。俺は花を束ねながら、これは嘘だと勘づいている。嘘じゃないな、夢だと気づいている。狡噛は花束を愛でるような男ではないし、俺も花屋にはならなかった。しかしそれは平和な夢で、俺はそれが好きだった。ごっこ遊びのようで、とても好きだった。けれどそれは眠り入ればすぐに消えてしまって、うたた寝が終わればすぐに消えてしまって、俺はそれを悲しく思う。しかし俺は何度もその夢を見て幸せな気持ちになる。心地いい夢、温かい夢。俺はそんな夢に、何度も何度も沈んでゆく。
     
    「へぇ、同じ夢をな」
    「カウンセリングでもうけるべきか悩んでいるんだよな。お前ってそういうの詳しいだろう? 夢診断とかさ。だから聞いてみようと思って」
     朝食のコーンフレークを食べながら言うと、狡噛は首をひねって不思議そうな顔をした。繰り返される夢、幸せな夢、別に誰かが苦しむこともなく、ただ俺が幸せになる夢。
    「カウンセリングまではいかないんじゃないか? 睡眠のルーティンってところだろう。それで、幸せな夢ってどんな夢なんだ?」
     狡噛に尋ねられて、かといって彼が登場するのは言えなくて、俺は適当にいなしてコーヒーを飲んだ。俺が花屋を開いていて、そこにお前が登場する夢。そう言ったら頭がイカれていると思われるだろうか? あまりにも少女趣味で、もしもにしても可愛らしすぎる夢。
    「繰り返し見るってことは違う世界線なのかもな。お前がもしかしたら選んでいたかもしれない未来。それがどんなのかは俺は教えてもらえないけど?」
     タブレットで新聞を読みながら狡噛が言う。俺は悪いことをしたかと思って、彼の髪を撫で、こめかみにキスをしてやった。違う世界線、SFによくある設定。そこでは俺が違う選択をしていて、狡噛も違う選択をしている。登場人物は同じだけど、設定は微妙に違う。詳しくは知らないからきっとそう言う意味なんだろう。でも、俺が公安局を選ばなかったら、は簡単に思いつくのに、狡噛が公安局を選ばなかったらを簡単に思いつけないのいは何故なのだろうか? 交差で一位を取るほどの成績だから、彼は官僚になったろうか? それともさらなる知識を求めて、学者にでもなったのだろうか。
    「そんなに気になるんならカウンセリングを止めないが、あれは万能じゃないから期待はするなよ。何か分かったら教えてくれよ。お前の考えてること、俺も知りたい」
     狡噛はそう言ってキッチンから立って煙草を吸った。俺もその副流煙を吸って、朝が来たなと思った。
     
     俺はまたうとうとしていた。今度は職場だ。昼寝をするにはふさわしくない場所。けれど仕事はなく心地良く、俺はうつらうつらと船を漕いでいた。俺はまた花屋をやっていた。そこには珍しい天然物の観葉植物や花があふれ、甘い匂いがし、サボテンはそんなに水はいらないと主張していた。美しい光景だった。いつ狡噛が来るのだろう。そう思っていた時、店のドアが開いた。そこにいたのは須郷だった。俺が戸惑いつつ挨拶をすると、彼は自分が狡噛の同僚であることを言い、狡噛が任務で怪我を負ったと言った。危ない状況だとも。恋人のあなたには伝えてくれと言われたとも。夢は覚めない。須郷は頭を抱えつつ、一人で突っ走っていくから、と苦しそうに言った。俺は必死に夢から醒めようとする。しかし上手くいかない。醒めろ、醒めろ、醒めろ。俺は唇を噛む。手のひらを指で捻る。そしてその時、聞きなれた声がどこからかした。
     
    「ちょっと寝てるの? 宜野座? 宜野座?」
    「あ、あぁ、少しうたた寝を……すまない気をつけるよ」
    「いいのよ、最近忙しかったしね。コーヒーでも飲んだら?」
     俺はそう勧められて、甘いばかりのコーヒーを飲んだ。咄嗟に狡噛を見たが、彼はいつもと変わらず冷静な目でディスプレイを見ていた。俺はもうどうしていいか分からず、仮眠室に向かった。そこでまた夢を見た。そこには狡噛がいて、肩から包帯を巻いた手をぶら下げていた。彼は無事生還したらしい。俺はそれに安堵して、彼に祝いの花を贈った。夢はそれから何度か見た。職場で寝ない限り話は展開せず、俺は決して職場で寝ないことにした。だが見てしまった。指輪を持って現れる狡噛の夢を。どうも付き合っているらしい夢の中の俺たちは結婚するらしい。怪我をして、何かを思ったのかもしれない。
     
     カウンセリングはどうなった? そう尋ねられた時、ハッピーエンドだから受けないことにした。そう言うと、狡噛は不思議な顔をした。でもそれは真実だ。本当の。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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