Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yaginoura0811

    @yaginoura0811

    キショウタニヤマボイスの世界で13年くらい生かされてます。

    雑多なものの基本は総じて右側。推しの移り変わり激しい人間。推しの右側エロ大好き!!!!!!性癖色々。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 58

    yaginoura0811

    ☆quiet follow

    情報屋×ショウ

    ※シリアス
    ※死ネタ

    蒼い空が継ぐもの雲ひとつない晴天だった。
    こんなにも晴れやかなのに気持ちは一切優れない。
    すっかり檻の中で燻っていた自分が外の世界に還れた恩人に会いにいく足取りはどこか重い。
    会えるのは嬉しい。

    だけれどその喜びを無情に奪うように日々は過ぎて行く。
    すっかり通い慣れてしまった病院に着くたびに胸が痛く締め付けられる。
    それでも暗い顔を彼の前に晒したくなかった情報屋は喝を入れて自然な笑顔を顔に張り付かせた。



    緑の多い広場を抜けて病院の中に入ると右往左往人が行き交っている。
    最初は違和感だらけだった薬品の匂いも今は気にならない。

    エレベーターを使っていつもの階、いつもの曲がり角を曲がってとある病室の前に立って改めて笑顔を作る。


    (俺は上手く笑える。笑える。)

    呪文のように唱えながら病室のドアを開ければ、外の空と何ら変わりない蒼い瞳がこちらを向き微笑む。

    「もうclean活動は終わったのか?情報屋」
    「ああバッチリよ!俺の心も晴れやかってもんよ!」
    「そうか」
    「これ、果物適当に買ってきたから食べようぜ」

    籠いっぱいに詰めたフルーツを見せてやれば、ショウは嬉しそうに微笑んだ。
    比較的元気な様子に情報屋は胸を撫で下ろす。
    それでも、日に日に痩せていく姿にその安心感は掻き消されていく。

    情報屋は出来るだけ見えないところで唇を噛み締めてフルーツの皮を丁寧に剥いていく。
    柑橘系の爽やかな香りが鼻を抜けて少し落ち着きを取り戻したように思う。
    切り分けたフルーツをお皿に盛ってショウの目の前に差し出すと、痩せ細った指先で爪楊枝を摘んでフルーツに差し口元に運ぶ。
    口に合ったのか美味しそうに二つ三つと食べる様子を見ながら近況を報告した。

    新しい固有種を育てている事だとか、巾着切の手際の良さとか、光華師の相変わらず天然な言動だとかとにかく明るく話をした。
    一つ一つ相槌をうって聞いてくれるショウの顔を確かめるように情報屋も目を見つめながら笑った。


    かれこれ30分ほど話をしたところで情報屋はハッとして時計を見る。

    「あ…悪い…少し喋りすぎたよな!俺ってばつい夢中になっちまって」
    「かまわねぇさ。お前達の話は奇想天外で飽きないからな」
    「はは、確かに」


    4人が出会ってからの今までの時間はどれも鮮明で色鮮やかに目に映っている。
    付き合いはどちらかといえば浅い方だが、過ごした思い出の濃さは付き合いの長いという事よりも断然誇らしく思う。

    日も沈みかけた頃、オレンジ色の光が病室に差し込み始める。


    「…明日、手術だったっけか?」
    「ああ」
    「俺、時間作って駆けつけようかと思ってるんだけど…」
    「Don't worry.そんなに長い手術じゃないさ」
    「……そっ、か…」
    「それに親父も時間を取って来るんだから情報屋は気にせずclean活動に専念してくれ」
    「…KINGがそう言うなら」


    ショウにとって3度目の手術を明日に控えていた事を知っていた情報屋はやり場のない気持ちを奥に押し込めた。
    切って治るならこんなにショウは苦しまないで済んでいただろう。
    心の病なら寄り添ってあげることは出来ても、生き地獄のような心─しん─の病では寄り添っただけじゃ治療薬にもなりやしない。
    せめて自分がその苦痛をかぶることができたなら。

    人目につかない所でいつ死ぬかも分からない苦しみを独りで抱えるショウの姿に勝手に蓋をして目を塞ごうとする自分が浅ましく思う。
    駆け付けることが罪滅ぼしだなんて思いたくはない。

    一分一秒でもショウの側にいたいと思うことは罪ではないと自分に言い聞かせる。



    「じゃあ…帰るわ」
    「ああ。またな」
    「……ん。また…」


    こうして握った手の温もりが明日も明後日も何十年も続けばどれだけ世界は美しく映るだろう。
    そして、その美しい光景が過去の思い出にならないようになったらどれだけ幸せなのだろう。

    同じ想いでいてくれる事を願いながら情報屋は病室を後にするのだった。













    ショウの手術の日。
    言う通り奉仕活動に精を出していた情報屋は駆けつけたい思いを振り払い作業を続ける。

    今頃無機質な部屋の中でショウは戦っているのだと思うと自分も弱音を吐かず目の前の作業に専念すべきだと判断し、手を止めずテキパキと作業をこなしていく。
    その様子を見ていた二人は目を見合わせ、大きな声で愚痴を漏らした。

    「あーあ!しんどい!こんなクソ暑いのに作業すんの無理!」
    「僕もだよー!少し休憩しようよ」
    「そうだな!それがいい!な、情報屋もそう思うだろ?」
    「え?だってお前らさっき作業し始めたばっかりだろ?」
    「暑いもんは暑いんだよ!休憩休憩!」

    光華師はどかりと豪快に地面に腰を下ろし手で顔を仰ぐ。
    巾着切も同じように隣に座り項垂れる。

    「…あ、言っとくけど休憩時間はっきりと決めてねぇからな」
    「…え?」
    「もう今日これで終わりにしない?」
    「そうだな…そうしよう!いいこと言うじゃねぇか!」
    「おい…お前ら……」

    なんとか二人のやる気を出そうと言葉に強さを加えかけた情報屋は、はっと察したように二人を見た。

    「……行けよ、情報屋」
    「じれったいんだよね、ホント。嫌になっちゃうよ」
    「………わりぃ……ありがとう」

    情報屋は二人を背に走った。
    感謝の気持ちを抱えながら振り向かずに心の向かう場所へとひたすら走った。
    足を止めずにがむしゃらにショウの元へと駆け出した足は止まらなかった。

    自分の想いに応えるように。



    息を切らせながらいつもの階、いつもの曲がり角を曲がると、情報屋はショウの病室の前で座り込む父親の姿が目に入った。
    側にはかかりつけの医者達がいて、情報屋の存在に気づき目線を移す。
    その目は何かを訴える様子で情報屋に注がれ、部屋の向こう側を次いで見る。

    息を切らしながらふらつく足で前へと踏み出すも、妙に騒つく胸は激しく鼓動を続けた。


    「……後は、お父様にお任せします」

    そう言い残して医者がその場を去った後、頭を抱え蹲るショウの父親の元に歩み寄ると、情報屋は深刻そうに眉を顰めた。
    何もかも勘のいい自分を呪いたくなる。


    「…あの……初めまして。俺、きん…ショウ君と色々活動やったりしてる者なんですけど…」
    「……君か。話は聞いてる」
    「……あの、それでき……ショウ君は?」
    「ちょうど麻酔が切れた頃だと思う。目覚めているかは、分からないがね」
    「…そう、ですか」
    「…もし目覚めてなかったら、入って待っていてもいいが、どうする?」

    父親の問いに情報屋は少し困惑した様子で答える。

    「え…でも俺…ここで」
    「……いいや。君には待っていて欲しい」



    その父親の迷いのない言葉に情報屋はぐっと息を呑み込んで精一杯頭を下げて病室に入っていった。
    後ろで啜り泣くショウの父親の声を聞きながら。








    静かに開いたドアはゆっくりと二人の空間を包むように優しく閉じられる。
    一定のリズムを刻む心電図の音を耳にしながら、穏やかな息遣いを繰り返し眠るショウの側の椅子に座りその寝顔を眺める。
    その穏やかな寝顔とは相反して指でなぞれば分かるほど骨々しい手を握り、これまでの事を思い出しながらショウに語りかける。

    「…KINGとの出会いは今思い出しても漏らしそうになるぜ。いきなり殴られるし。いや、俺達がふっかけた喧嘩だけどよ…モロに急所狙ってきたよな。
    流石にあれは仕掛けた俺もどうかと思ったよ。でも、逆にあれがきっかけで俺達KINGの言いなりになってさ、それでも色々やってくうちにKINGの凄さに気付いて、俺達本当に救われたんだぜ?」

    情報屋は一つ一つ言葉を大切にショウに伝える。
    寝ていようが、丁寧に一つずつ。


    「だから、今度は、俺達がKINGの助けになりてぇなって真面目に語ってたんだぜ?勿論KINGの前じゃ言えなかったけどね、照れ臭くて。…でも、マジな話…KINGとなら死ぬまで一緒にいてもいいなって思えたんだぜ?…なーんてな!ははっ!なんなら、KINGがヘロヘロのジジイになったら俺が汚れたパンツ洗ってやってもいいけどな!」
    「………ふっ…どこまでcrazy boyなんだ情報屋」

    笑い飛ばす勢いの冗談をかました情報屋を他所に、寝ているはずのショウの口から笑いが溢れた。
    あまりの出来事に情報屋は目を見開かせ驚いた。

    「…KING…起きてたのかよ!?」
    「…ああ、今起きた」
    「なんだよ…早く言ってくれよ!めちゃ一人で愛語っちゃったみたいになったじゃんか!!」
    「……違うのか?」
    「ぅ……それ聞かれるともっと恥ずかしくなるからやめてくれ」
    「そうか。じゃあそうだと捉える事にしようじゃないか」
    「……相変わらず意地悪だよなKINGは……」


    変わらずわざとらしくマウントを取ってくるショウに苦笑しながら情報屋が窓の外を見た。

    「…見ろよ、すげぇ蒼空」
    「…そうだな」
    「KINGの瞳みたいだな」
    「……そうか?」
    「そうだよ……澄んでて…淀みがなくて…」

    空の色と共鳴するように情報屋の脳裏にショウとの思い出がまた蘇る。
    同じように思い出しているのか、ショウの瞳は情報屋を映している。
    ここにいない親友達の事も、今部屋の外で悲しんでる父親の事も。

    「俺は…そんな…KINGの瞳が…好きだった…。いいや…だったじゃなくて……今も…俺は…今も…っ、言わせんな…ばか…」
    「………sorry」
    「謝んな…アホ」
    「……thank you」
    「っ…それはこっちのセリフだろ……」


    伝え足りない感謝の言葉が情報屋の脳内をいくつも過ぎる。
    どうしてだか上手く言葉にできない。
    こんなに言葉が溢れるのに。
    それでも、本当に伝えたいことは決まっている。

    「…KING……ありがとう……」
    「…me…too」
    「……ありがとう……俺…KINGと出会えて、本当に良かった」


    広く澄んだ空のようにショウの表情は清く澄んでいた。


    「…keep loving ……
    each other…forever……」
    「…何言ってっか…わかんねぇよ…ショウ……」
    「………all time…with…you……」


    心地の良い風に乗ったショウの言葉が情報屋の頬を優しく撫でる。
    最期の瞬間を愛おしむように、ショウはゆっくりと情報屋の手を握り返した。

    「……good night……ショウ………」



    子守唄を歌われて眠くなった子供みたいな表情を浮かべて、ショウは暖かな世界に誘われ目を閉じた。
    みんなといた証を置いて、ショウは蒼空高く舞い上がって行ったのだった。


























    「あちー!もう無理だ〜!」

    炎天下の下。光華師は道具を放り投げ土の上に倒れ込んだ。
    ショウが亡くなった後も商人を続けている三人は未開拓地をひたすら平地にする仕事を請け負っていた。
    ショウに変わって依頼を請け負うのはツテの広い情報屋の役目になっていた。勿論、お目付役も。


    「おいおいまだ30分しか働いてないだろ!」
    「だって暑いもんは暑いんだよー!」
    「いつまで経ってもだらしないな光華師!」
    「ぼ、僕も今回は真面目に暑くて…無理」
    「ったく……それ以上のネガティブな発言は手が出るぜ??」
    「……え、今のKINGの真似したのもしかして」
    「そうだけど?」
    「微塵も似てないよ」
    「はぁ!?激似だろ!!なぁ光華師!」
    「KINGはもっとクールだった」
    「ぅぐっ…」

    二人から指摘され、薄々感じていた情報屋も激しく否定は出来なかった。
    改めて説得力かつ正当な理由を持つ言葉を口にする難しさを実感する。

    「まぁ…でもKINGに似てきたところはあるよね」
    「は?どこ?」
    「…自覚ないの?大変だねこりゃ」
    「あ?」
    「可哀想になぁ…」
    「なんだよ!教えろよ!!」
    「さー仕事仕事ー!」
    「おい!無視かよ!教えろーーー!!!」


    情報屋の叫び声がこだまする広く蒼い空は、ショウが微笑んでいるような澄み渡りきった蒼だった。

    最期に残した言葉通り、ショウがいつもそこにいる事を感じながら、今日も明るい世界を生きていく彼らは未来へと走り出すのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    yaginoura0811

    DONEラカアオに幸がありますように。
    愛を奏でるシンフォニー。
    俺は、一台決心した。

    ずっと踏ん切りがつかなかった事にケジメを付けるために。
    それはアオイドスとの関係に一区切りをつけるための準備。

    思えばアオイドスと出会って2年近くになる。
    操舵士とミュージシャンという全く違うフィールドにいた俺達がこの広い世界を、団長を通じて出会った事は奇跡と言っても大袈裟じゃ無い筈だ。

    最初アイツと会った時、名前を名乗るよりも先にバンドを組もう!とか言われるし、今では呼び慣れたアカイドスという変なあだ名まで付けられちまったのが今では懐かしい。

    何もかも分からない状態でアオイドスと旅をする事になって、弾いたこともないベースを持って慣れないパフォーマンスに明け暮れて、気がつけば年月は経ってた。
    勿論、楽な道じゃなかったしアオイドス自身も自らの無くした記憶との葛藤もあってお互いに過去を受け入れて成長したというか、そうやって一緒に旅をしてアオイドスの事を知るきっかけにもなっていった。

    何処を切り取っても思い返せばいい思い出だったと思う。

    そして、いつしかそれが当たり前になっていった。
    その当たり前がふと無くなった時、俺はなんだか物足りない気持ちになった。
    4413