あくあ
まろんじ
PROGRESSアクアマリンの割れる音4あっ、と思ったときには、足が石畳から離れていた。そして、マリーは水溜まりの中へ飛び込み、膝を突いていた。髪から顔から手足から、全身に泥水を浴びた。幾度か咳をして、口に入った泥水を出したものの、マリーはそこへ座り込んで動けなくなった。周囲が、邪魔そうにマリーの横を通り抜けて行った。唇の泥水を拭う。――そうだ。彼もまた、こうして泥水を啜るような思いで、芸能界という過酷な業界を生き抜いて来た。言わば戦友だった。痛みを分かち合えると思った。思いが通じて、仲間にも同志にも恋人にもなった。けれど――。
体は雨で冷え切っているのに、こみ上げて来る涙は未だ温かい。温かいのに、冷たい。冷たいのに、温かい。二人でいられた頃は、温かさも冷たさも、矛盾せず訪れるものだったのに。
そのまましばらく俯いていた後、やっと手足の力が戻り、立ち上がろうと顔を上げたときだった。
「セニョリータ……マリー! マリーじゃないか!」
聞き覚えのある声に目を瞠る。
傘を差してレインコートを着た、背の高い男が、こちらへ駆け寄って来るのが見えた。 458
まろんじ
PROGRESS【ブルマリ】アクアマリンの割れる音1「海が見たいわ」マリーの淡い金の髪が、雨上がりの夜の風にそよいでいた。
「美しい海。寄せては返す波や、遠くのぼんやりした水平線をじっと眺めるの」
「行くかい? 今から……車なら出すぜ」
ブルーノが言うのへ、彼女は苦笑して首を振った。
「アナタの運転で? 海に行くつもりが、山に着いちゃうんじゃないかしら。気持ちだけ、もらっておくわ」
でも、と彼女は髪を押さえた。
「それも悪くないかもね。迷って、迷って……見たかったのとは違うけど、でも美しい、掛け替えのない景色を見るの。それもハッピー、かもしれないわね」
エッフェル塔越しに遠くの空を眺める横顔を、ブルーノは暫し見つめ続けた。 294
kakuto1212
MEMO◆アクアヴィット・アリア【魔法っ子】元海賊のNoirの一員
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