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    ぐり

    2BH

    MOURNINGレグリ初書きのもの。🟥が🏔️を降りて1年くらい経った頃の話。ナチュラルに半同棲のようなことをしています。
    外の風が、少しだけ涼しくなってきた。窓を開けておいたせいで、薄いカーテンがふわりと膨らみまた静かに元に戻る。その柔らかな揺れが、今日のアパートで聞こえる数少ない「動き」だった。テレビもつけていないし、音楽も流れていない。キッチンの蛇口はきちんと閉まっていて、時計の針はどこかの誰かの鼓動みたいに淡々と回っている。
    グリーンはソファの端に浅く腰かけて、手元の資料をぼんやりと眺めていた。視線だけは文字を追っているが、内容なんてひとつも入ってきちゃいない。暇潰し、手慰めのようなものだ。
    ちら、と斜めの位置に目を向ければ、ピカチュウを撫でるレッドが視界に入る。粗雑に物事を片付けるようでいて、その手付きが存外優しい事をオレは知っていた。どうせポケモンの事しか考えていないだろう男だが、その存在感はいつだって言葉にならない。静かで、重たくなくて、けれど確かにそこに在る。……変わってねえな、と思う。昔も今も、余計なことは言わないし、聞いてもこない。マサラにいたとき――旅に出る前から、そういうところは変わっていなかった。なぜか、自分の言葉はレッドの前では特別よくこぼれる。
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    2BH

    TRAININGレグリ習作 アローラのすがた
    湿度を孕んだ風は昼よりも穏やかに、一定のリズムで耳を撫でていく。手に持った冷たいグラスは小さく汗をかき、琥珀色の液体が溶け始めた氷のぶつかる音と共に少し甘い香りを放った。波の音だけが遠くに聞こえるバルコニーで、夜の帳が降りた向う側の景色をぼんやりと眺める。すっかりあかるさを忘れた海は水平線と空の境目が曖昧で、見慣れたカントーの風景とはまるで違う。そう嘆息しては、琥珀をまた飲み下した。

    「……グリーン、お酒弱いのに。」
    「弱かねぇよ、ちょっと酔いやすいだけ。」
    「同じじゃん。」

    背後からふいに、咎めるような声色が飛んできた事に少し笑いそうになった。おまえはそういう事を指摘するタイプじゃないだろ、なんて。振り向くよりも先に、言葉数の少ない恋人はぴったりと隣に陣取ってきたので仕方なし、此方はじっと顔を見つめてやる事とする。いつもの無表情が、アローラの陽気に当てられてほんの少しだけ緩んでいた。目の前の男がいつもよりも僅かに饒舌で、浮かれているように見えるのは恐らく気の所為ではない。観光客達の例に違わず常夏の陽射しに灼かれていた所為――なんてのは、レッドが浮かれて見えるひとつの要因としてあるかもしれないが。
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