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    アキナ

    onionion8

    CAN’T MAKE今さらバレンタインのケイアキな話
     甘い予感というものが、アキレウスには分からない。ふんわり漂う甘いにおいを嗅ぎとることはできるものの、それは予感と呼ぶのはきっと違う。予感というのはそうした五感で確かに捉えられるものではなく、首筋がぞわぞわとする感覚だとか、踵がずくりと疼く感覚だとか、そんなものだとアキレウスは思っている。
     それは戦いの予感や死の予感、もっと大雑把に言ってしまえば嫌な予感を基準に考えているせいではあるが、それを指摘する者はいない。長く続くカルデアの廊下はしんとして、戦闘用にシミュレータを起動するまでの道のりにはアキレウスひとりが通るだけだった。
     何もない空間が指先ひとつで変化して、怪物が叫ぶ声がする。すぐさま槍を手にすれば、そこからは殺るか殺られるかだけに思考が研ぎ澄まされていく。蹴り上げる土、飛び散る血。すべては機械が生み出した幻想であると分かっていても、懐かしい戦場のにおいにアキレウスは昂ぶった。マスターがいない今魔力を馬鹿喰いする宝具を出すことは出来ないが、それでも身体ひとつで敵を蹂躙するのが英雄だ。かつてトロイアの兵を恐れさせ、今なおその名を語り継がれる戦士としての血が騒ぐ。
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