放課後レストタイム ドン、と紫と白のセパレートカラーのドリンクが呼続スオウの目の前に置かれた。カランと氷の涼し気な音が耳に届く。
「なにこれ」
視線だけを動かし、スオウは無理やり自分をこんなところに連れ込んだ明導アキナに向かって口を開いた。
「何って、俺特製ブレンドジュース…! 妹のヒカリにも評判いいんだぜ」
ファミレスの制服に身を包んだアキナはプラスチックのトレイを小脇に抱え胸を張る。
「いらない」
「遠慮しなくていいぞ。俺の私物で作ってるからさ」
「見逃してあげてる先輩に感謝しろよ〜」
ポニーテールを軽やかに揺らした店員がアキナの背後を通り過ぎた。
「感謝してますって。でも、こうして急なシフトに入ってるからチャラじゃないんですか、ナオ先輩。俺、買い物帰りだったんですけど」
アキナはチラリと近くに置いたマイバッグに視線を送る。袋の中には今しがた使った水玉柄の容器が見えた。
「あはは、それはそれ、これはこれ。普通バックヤードにお客さん入れないから」
アキナのバイト先の先輩である員弁ナオは「早く来てね」と言って部屋を出る。アキナがテーブルに視線を戻すとスオウは勝手口から外に出ようとしていた。慌ててスオウの肩を掴み椅子に座らせる。
「待て待て呼続。せめて一口だけでも飲んでけって。乳酸菌は体に良いんだぞ」
「どうでもいい」
「そんな顔色でこの陽射しのなか突っ立ってた奴ほっとけないだろ。水分補給だけでもしろって」
味は保証するし、とアキナは無理やりグラスをスオウに持たせる。
「…………」
スオウは観念したのかグラスを掴み、ストローに手を添え無造作にガラガラと液体をかき混ぜた。ジュースが淡い紫に変化するがスオウの表情は相変わらず無感動だ。ヒカリは楽しんでくれるけど、まぁ、男子ならこんなもんだよな、とアキナは心の中でひとりごちる。
スオウがストローに口をつけようとしたその瞬間、
「アキくーん…! そろそろ来てくれないとナオさん大変なんだけど〜!」
「うわ、やべっ! 今行きま〜す! 呼続、俺ちょっと行ってくるわ」
アキナは慌ただしく部屋を出ていく。
「…………」
それを無言で見送ったスオウはグラスをテーブルに戻し部屋を去ろうとするが、一瞬手を止め、もう一度それを手に取った。
数分後、再び扉が慌ただしく開いた。
「悪りぃ、呼続! それでさ、乳酸菌は体に平和が──、ってあれ? いない?」
帰っちゃったかぁ……。とアキナは肩を落とす。
「ん?」
テーブルの上には空になったグラスがぽつんと残されていた。
「──気に入ってくれたんならまた作ってやるか」
アキナは小さく微笑む。次は野菜ジュースもブレンドしよう、と拳を握り人知れず意気込むのであった。