恋も二度目なら「言いたいことあんなら言えよ」
研究所の廊下ですれ違い様、声を掛けられる。
発した本人は声を掛けるという響きとは全く無縁の剣呑な雰囲気で、喧嘩を売られる筋合いなどない隼人にとっては面倒でしかなく、スルーしたかった。
しかし、無視を決め込んだところで諦めるような相手ではない。問われたことには答えないと五月蠅いだろう。
「言いたいことだぁ?」
ねぇな、とひとこと言って視線を向けることなく立ち去ろうとすると、肩を掴んでこようとする気配がするので、すかさず避けた。
「なんなんだよ、てめぇ」
「あぁ?」
隼人に避けられた竜馬は、不満そうに口を尖らせているが、何だというのか。隼人自身には全く心当たりなどない。
勝手に因縁を付けられて正面から睨み上げられて、ひとり真剣な様子に笑ってしまいそうになる。
「俺が何かしたか?」
本当にいったい、自分が何をしたというのか。
「何かしたかじゃねぇ!」
「俺に言いたいことあんなら、言えっつってんだよ!」
「だから何のことだ」
正直、竜馬が何を言いたいのかわからない。
竜馬に言いたいことなど、本当になかった。
いや、あるとすれば自分の研究の邪魔をするな、勝手なことをするな、食堂や格納庫で弁慶と見境なく喧嘩をするななど、どちらかというと小言に近い。
「そっか?」
「なんかおめーいっつも何か言いたさそうな顔してるからよ」
文句でもあんのかと思ったけど、お前元々そういう顔だもんな。
ようやく納得したようだが、その内容にこちらが納得できかねる気がしている。
本当にわからないといった隼人の様子に納得したのかしないのか。竜馬は拍子抜けしたような顔で一歩引くと「悪かったな」と言ってバツが悪そうに頭を掻いている。
こいつに言いたいことなど、あるのか。
(あるわけがない)
言っても聞くわけがない。
それでも、言うべきことがあるのか。それは自分でなければならないのか。
(一人で行くな)
口をついて出ようとした言葉はあまりにも自分らしくないように思えて。
腹減ったから飯食いに行こうぜ! と、今のやり取りをすっかり忘れたように食堂へと向かう竜馬の背を眺めながら。
喉に引っかかった言葉を、そのまま飲み込んだ。