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    カイン

    コウヤツ

    DONE一周年の話のあと、カインとオーエンの話
    傷跡と焦情 カインとオーエン 1
    「傷跡、残しとく?」
     フィガロの言葉に体を起こしたカインは片眉をひょいと跳ね上げた。
     柔らかな陽光は窓の外を充していたが、直接日差しが当たっているわけではない部屋の中は少しだけ青く薄暗い。カインが横たわるベッドの横、木製の、背もたれのある椅子に座ってフィガロは優しい南の国の魔法使い然とした笑みを浮かべていた。穏やかな午後のことである。
     フィガロは腕の良い医者だ。傷跡を残さず傷を治すことなんていとも容易くやってのけてしまう。とても、容易いことに違いなかった。そんなフィガロが問うている。
     傷跡を、残しておくかどうか。同じく賢者の魔法使いである北のブラッドリーは顔に古傷の跡を残している。人間が自然治癒で傷を治した時に残るような跡。実力にもよるが、魔法使いは綺麗に傷を治すことができる。生存競争激しい北の国で生まれ、短くない時の中を今の今まで生き延びているブラッドリーは力の強い魔法使いであるから、カインは詳しく聞いたことがなかったけれど、おそらくあの傷の跡は自分で選択して残しているものなのだろうと予想している。
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