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    sasa

    @19th_zatsuon

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    sasa

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    【カイアサ】
    吸血鬼パロのようなもの。カイン12〜14歳、アーサーはそれより少し年下くらいのイメージです。

    ネトフリの真夜中のミサというドラマに大大大ハマりして連続2周した勢いだけで書きました。パロとかではないけど観た人が読んだら影響受けてるな〜とわかるくらい。

    Holy, Holy, Holy聖なるかな、
    聖なるかな、
    聖なるかな。
    聖致命者ファウスト様、
    どうかお救いください。
    彼を悪よりお救いください。

    *

     少年の肌は透き通るように白く、まるで肌の内から光を放っているかのようだった。少年の寝室は常に分厚いカーテンによって外界から完全に閉ざされており、日中でも太陽の光は全く入ってこない。暗闇の中で蝋燭の炎が仄かに灯るばかりの室内は、まさに彼のための常夜の国であった。
     カインは生来活発な質で、部屋で本を読むよりも外を駆け回るほうが好きだった。それでも少年の待つ小さな部屋へと、カインは足繁く通った。少年は決して外へ出ない。大人たちから落ち着きがないと評されることも多いカインだったが、少年と共にいるときにはただ静かに本を読むことが苦ではなかった。ここにいる限りは、ふたりきり。ふたりのための、常夜の国。

    「痛、」
    「カイン、どうした」

     いつものように少年の部屋で、蝋燭の少ない灯りを頼りに本を読んでいるときのことだった。ページをめくった拍子に指先を切ってしまった。切り口にじわじわと血が溜まる。

    「……血が、カイン、」
    「ああ、たいしたことないよ。これくらい」

     その時、流れ出した血の一滴を見た瞬間、少年の目の色が変わった。比喩ではなく、常であれば蝋燭の赤い炎の中にあってなお晴れ渡る空のような瞳が、どろりと色濃く渦巻いた。深い、深い、深い海の底のような青。一歩でも間違えたら、引きずり込まれてしまいそうな青。底なし沼の青。

    「血が、カイン、血が出ている」

     少年がカインに手をのばす。昏い瞳は一心にカインの傷口を見つめている。ふたりきり、ふたりきり。ここはふたりきりの、常夜の国。今、この世界には、少年とカインのふたりきり。瞬間、全身が心臓になってしまったかのように、どくり、体が震える。腹の裡が焼け付くほど熱くなる。なのに肌は極寒の地に放り出されたかのように粟立った。
     恐ろしい。───恐ろしい?いったいなにが恐ろしいというのか。ここには恐ろしいものなんてなにもない。脳裏をよぎった理解のできない感情に首をふる。わからない、わからないが、本能的な恐怖に叫びだしそうだった。炎が揺らめく。影が蠢く。

    「怖がらないで、カイン」

     たくさんの蝋燭の炎たちが風もないのにまたたいて、そして、一斉に消えた。暗闇の中で痛いほどの静寂が逆巻いている。何もかもが死んでしまったかのような空間の中で、指先の傷口だけがただじくじくと痛い。
     痛みの中で、あるひとつの考えが浮かぶ。すなわち、流れ出した血の滴ごと、この指先を彼に捧げてしまいたい、と。
     そう思った瞬間、体中に流れる全ての血液が、その存在を主張するかのように強く強く強く脈打った。彼のために、心臓はここだと教えているようだった。心臓とは、カイン自身だ。心臓とは、贄のことだ。

     この血によって、はばかることなくあなたの一部となれるのならば、今、これを捧げよう。

     気配もなく、音もなく、頬に手が添えられる。不思議ともう恐ろしくはなかった。ひとつ、ふたつ、みっつ、蝋燭が灯る。薄闇に現れた青い瞳はその奥に隠しきれない欲望を湛えていた。その目が、欲しいと言っている。この身に流れる赤い血を、カインの血を。何でもいい、どんな理由でもいい、これ以上の喜びはない。そう思ってカインからも手をのばした瞬間のことだった。
     少年がはっと何かに気付いたような顔をした。先程までの陶然とした空気がまるでまばたきの間であったかのように、全ての蝋燭に灯りが戻る。ふと気が付くと、少年の瞳もいつもの聡明な晴天の色に戻っていた。

    「……カイン、すまない、今日は気分がよくないみたいだ、すまないが今日は、今日は帰って」
    「えっ、大丈夫か?なあ、俺、」
    「カイン、本当に……」

     今日は帰って。聞いたこともないような強い口調で、それでいて切実な声で少年が言う。このままにしてはいけないと思うのに、この日、カインは半ば追い出されるように少年の部屋を後にした。
     だけど、どうしても忘れられない。あの瞳が。あの欲望が。そして、自身が抱いた、彼のものになりたいと、強く、強く、強く思ったこの願望が、胸を焦がしてやまない。いずれこの熱の正体を知る日が来るのだろうか。いずれ、彼の身の裡にこの身をうずめる日が来るのだろうか。

    *
     すると主の御使が現れて、香壇の右に立った。
     ザカリヤはこれを見て、おじ惑い、恐怖の念に襲われた。
     そこで御使が彼に言った。「恐れるな」

    (『ルカによる福音書』 1章11-13節)

    *

    ───おぞましい、おぞましい、おぞましい。
     今日、私はカインに何をしようとした。何をさせようとした。なんて汚らわしい。欲求を抑えることができないのでは獣と同じだ。人でありたい、人でありたい、まだカインと同じ、人でありたい。
     どうか、どうか、どうか、お願いします、昔いまし、今いまし、のち来たりたもう聖致命者ファウスト様、どうか、彼を悪よりお救いください。彼を私からお救いください。
     愛しい、愛しい、おまえが愛して仕方ない。だから、どうか、愛しい人。いつかその日が来たのなら、カイン、どうか、どうかお願い、私を、拒んで。
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