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    呂布

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    DOODLE青天霹靂だったトールと藪蛇な呂布の雷飛。 ある日、呂布は気がついた。もしかして、トールは自分のことが好きなのではないか、と。戦いの最中はそうでもないのだが、頻繁に自邸に誘ってくるし、その誘いに乗ってやれば表情が和らぐし、飲んでいる最中に意味もなくくっついてくるし、なにもないのに見つめてはよく微笑んでくる。これは……そういうサインなのではあるまいか。そう思った呂布は飲みの席、直球でトールに尋ねた。
    「お前、もしや我のことが好きなのか?」
     トールはそれを聞いてぽかんとして、手に持っていた杯から酒をこぼしそうになったので、呂布はそれを空になった自らの杯で受けた。あまりにもトールが驚いているのを見て、呂布は違ったか? と首を傾げた。
     数秒後、硬直を解いたトールは言った。
    「……私は、貴様のことが好きなのか?」
    「それを我が聞いているのだが……」
     呂布はトールのこぼした酒に口をつける。頭を抱え、悩む様子のトールに、呂布はもしや余計なことをしてしまったのだろうかと思ったが、言ってしまったものは取り消せない。
    「まあ、我の気のせいだったら、それでいい。変なことを言い出して悪かった。忘れてくれ」
     トールは呂布のその言葉に曖昧に頷いた 2079

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    DOODLE転生した呂布と見に来たトールの雷飛 雷とともに、地上に降りる。
     トールが地上に出るのはいつぶりだろうか。転生した呂布が健やかに育っているかどうかが確認したくなったトールは、久しぶりに地上に降りることに決めた。地上に降りる許可が出るまで、すぐに、とはいかなかったが、数年かかって許可が下りた。命がある内に出れば、と思っていたがこんなに早くに出るとは
     鉄塔の上に降り立ったトールは、早速呂布を見つけに行こう、と思っていたが、自らを見上げる小さな存在を見かけて、その手間が省けたことを知った。
     トールを見上げて雨が入るのも気にすることなく、ぽかんとしている少年が、いた。
     どこでつけたのか。今世でも右半分の顔を割るように傷が入っている。栄養状態は悪くなく、着ている服も今世では平均的な水準だ。ならば虐待ではなく事故でついた傷なのだろう。体はまだ小さいが手足が大きく、骨ばっている。身長もだんだんと伸びていくだろう。成長が楽しみな子供だ。
     トールは子供を見た。子供もトールを見た。視線が交じり合う。先に口を開いたのは、子供の方だった。
    「お前はっ!!」
     興奮を耐え切れない様子の子供は、目を輝かせながら、言う。
    「お前は、いかづち 1169

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    DOODLE告白するトールと回避する呂布の雷飛 好きだ、と。武器を交わしたその一瞬に、トールの頭にその三文字が過ぎった。
     呂布との手合せ、あるいは死合い、または殺し合いとも呼べるそれの最中に、舞い降りた言葉だった。あまりにも、その言葉はあまりにも、その瞬間に似つかわしくないものであったが、何故かトールの中ではそれがしっくりときた。空いた形にすっきりと収まったような心地がしたのだ。これが一刻も早く伝えなければならぬ、とそう決意させるだけの力を持っていた。
     がきん、と。同じくらいの力で合わさった互いの武器が火花を散らし、音をたてぶつかる。ぐっと踏み出そうとするも、相手の力に押されてそれが叶わない状況。顔が近付いた一瞬に、トールは呂布に言った。
    「呂布――好きだ」
     それを伝えると呂布はぱちりと瞬きをしてにた、と獰猛に笑った。
    「ああ、我も好きだぞ」
     通じた、と思ったトールだったが、そのあとの呂布の言葉で通じてないことがわかった。
    「まっこと、お前とのこれは――心が躍る」
     再び襲い来る方天戟をミョルニルで受け止めながら、トールは少し気落ちした。まあこんな中で唐突に告白などをする自分の方が間違っていたのだろう。多少力を込めてなぎ払 1550

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    DOODLE惜しむ呂布と語るトールの雷飛「ここでは雨が降らんのか」
     呂布はそう言いながら空を見上げる。今日は中庭で月見酒だ。いつも部屋の中だけでは飽きてくるのではないかと使用人が勧めてきたので、その意見を採用した形である。
    「まあ天上だからな。血の雨ならば降らせることなら可能だが?」
    「いらん」
    「そうか」
     下界にいるよりも少し近くなった月と星をみながらの酒は、いつもと何も変わらない味だ。それでも、周囲が変わればいつもよりは口数が多くなるらしい。杯を煽りながら、細々と会話が続いていく。何回目かの酒の席。そう口数が多いわけでも話題があるわけでもない二人の会話は低迷していた。それをみかねたこともあったのだろう。珍しく使用人が口を挟んできたことを、トールは許した。
    「雨が好きなのか?」
     トールが尋ねると呂布は首を横に振った。
    「別に、雨が好きなわけではない」
     杯が空になったので、手酌で注ぐ。どん、と酒瓶を置いて、杯を煽る。呂布の目はずっと天を見上げていた。
    「雨ではないとすればなんだ? 虹か? しかし貴様にそんな情緒があるとは思えんが……」
    「虹でもない。勝手なことを抜かすな」
     呂布はぎっ、とトールを睨んだ。
    「では、な 1060

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    DOODLE髪を結んで欲しいトールと結んであげた呂布の雷飛 様々な結い紐や髪を整えるための道具を準備して、どうだとばかりの顔をするトールに、呂布はひくりと口の端を震わせた。たしかに、呂布は、トールに「その髪は邪魔ではないか」と言った。冗談のつもりで、「なんなら我が結ってやろうか」とも言った。だがトールは「いや、いい」と言ったではないか。まさかそれが「(今は準備がないから)いい」ということだったとは思わなかった呂布は天を仰いだ。きちんと櫛も、姿見も用意して待っていたトールに、断ることもできない。呂布はトールの髪をいじることになった。
    「我がそれほど器用だと思わないことだな」
     吐き捨てるように言った呂布に、トールは微笑んだ。
    「そんなことは承知の上だ」
    「わかっているなら、どうなっても知らんぞ」
    「ああ」
     なんだかんだ言って、呂布はトールに甘い。決して、決して、弱いわけではない。甘いだけなのだ。
     姿見の前に設置された椅子に座ったトールの髪に櫛を通せば、するするとなんの引っかかりもなく櫛が通る。いい櫛なのもそうだが、トールの髪自体もとてもいい髪質をしている。どちらかといえば、かたく融通が利かない呂布の髪とはだいぶ違う。結い紐が留まるといいのだ 2181

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    DOODLE言うのが遅いトールと欲しかった言葉がきた呂布の雷飛 いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。
     その結果、トールと呂布はセックスをする仲になった。別に、喧嘩という名の手合わせ、もしくは死合いとも呼べる殺し合いを欠かしていないが、なぜかそうなった。トールが手を出してきたのを、呂布が受け入れた形で始まった関係は、良くも悪くも――続いていた。
     それに対し、不満がないわけでもない呂布であったが、自分を熱く見つめてくるトールを思うと、なんだかうまく言葉がでてこなくなってしまう。絆されている、のだろうか。片手では足りない数、もうすぐ両手を越えてしまいそうなほど、体を重ねているけれど、いまだ気持ちの整理というものがつかないでいる。
     トールが、熱のこもった目で、声で、呂布を呼ぶ。戦いの合図ではないそれを聞くと、呂布はどうしていいのかわからなくなる。逃げないでほしいというように添えられた手は握ってくることはない。ただ、ゆるく添えられるだけである。それが逃げ道を塞ぐものだとわかっているのも、呂布だけなのだ。歯を剥き出しにして、唸る呂布は、否とは言えない。「いいか?」と深い声で尋ねられると、どうしようもできなくなる。どうしようもなく、逃げ場もな 2124

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    DOODLE記憶がない呂布と待ち望んでいたトールの雷飛 いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。
     そのいろいろあったという話を聞いても、呂布の脳には入ってこなかった。人類代表として神と戦って欲しい、と言われたことは覚えているが、それを了承してからの記憶が曖昧である。蘇る際に不具合が生じたのだろう、と言われたけれど、呂布にはどうでもよかった。死んだ、ということは負けた、ということだ。自分よりも強い相手がいる。それだけで、呂布の心は踊った。自分を負かした相手が見たい、と言うと説明をしていた者からは困惑が返ってきた。
    「相手は神です。あなたの要求が通ることはないでしょうが……一応は尋ねてみます」
     返答はまた後日になると思います、それまで待っていてください、と言われ、呂布は元いた居住区に返された。そんなことを言われたので、それなりの時間を要するのだろうと思われたが、思ったより早く――具体的には翌日に返答が来た。
    「会っても、良い」
     それが、神からの答えだった。
     呂布は自らを殺した神と会うことになった。場所の指定は相手の邸と言われたので、呂布はわざわざ足を運んだ。華美にならずともそれとわかる調度品を目にして、自分を殺した奴はそれなり 1710

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    DOODLE見なかったことにしたかった呂布と逃がさなかったトールの雷飛 恋人には倦怠期というものがあり、「もしかすると自分は恋人に愛されていないのではないか」と感じる時があるそうだ。しかし、呂布が最近思うことは逆である。「もしかして自分はトールに愛されすぎているのではないか」と感じるのだ。倦怠期からは程遠いということではあるが、問題があった。その問題というのが深刻だ。
     呂布は、誰とも、付き合っていないのである。そう、誰とも付き合って、いないのだ。
     無論ではあるが、呂布はトールとも付き合っていない。好きだとも言われたことがない。愛しているとも告げられたことがない。
     しかし、何故か、言葉の端からお前が好きだ、とか、行動の隅からお前を愛している、とかがにじみ出ている気がするのだ。強靭な精神を持っているはずの呂布でも、気が狂いそうだった。トールは好敵手である。初めての、友である。そうであるはずの存在が、もしかして、自分を愛しているだとかいう、勘違いをしているかもしれない、とそう思うだけで、呂布の頭はおかしくなりそうであった。戦っている最中はいいのだ。武器を交わし、地を蹴り、戦況に心躍らせるだけで済む。しかし、しかしながら、それ以外のときがよろしくない。
      1673

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    DOODLE夜中に起きた呂布と星を見ていたトールの雷飛 呂布は、ふと真夜中に目覚めた。ここはどこだっただろうか、と後ろ頭を掻きながらあたりを見回すと、整えられた調度品が目に入る。ということは、トールの邸であろう。何故かトールは自らの邸に呂布の部屋を作っていた。「部屋は余っている。今後も泊まることがあるのだからあってもいいだろう」というわかるかわからないか微妙な理屈だった。まあ、呂布としても誰が使ったかわからない客間よりは自分の部屋を用意されている方がよかったので、とくに疑問というものを感じないまま、泊まるときには作られた部屋を活用することにしていた。もう一度寝ようと目を瞑るが、どうにも寝付けない。水でも飲もうかと思ったが、置かれた水差しは空になっていた。そういえば、寝る前に飲み干してしまったことを思い出す。ベルを鳴らせば寝ずの番の使用人がやってくる、とは聞いているが、どうにもそういう気になれず、呂布は水差しを片手にペタリ、と寝台から降りた。そして部屋を出る。水が置いてある場所は、大体把握しているつもりだ。

    「迷ったな」
     呂布は迷っていた。まったくここは無駄に広い、と舌打ちする。自分がどこから来たのかくらいはわかっていたが、せっかく部屋 1924

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    DOODLE神生をめちゃくちゃにされたトールと人生をめちゃくちゃにされた呂布の雷飛 呂布のせいで、トールの神生はめちゃくちゃだ。
     呂布ことを知らなければ、この退屈な世界の中で、この世とはそんなものだと受け入れて生きていけた。ずっと、つまらなかった。退屈していた。それでもそんなものだと思っていたから耐えられた。いつか、この神生を変えてくれる存在が現れることなどまったく望んではいなかった。けれど、トールは出会った。呂布という存在に、出会ってしまったのだ。つまらない世界が動き出した。この世も捨てたものではない、と思えた。無色だった世界に色がついた。全てが、楽しかった。最後に、呂布が向かってきたときにも、トールはできることならばそれを受け入れたかった。歓喜の中で死にたい、と思うのは、誰しもの幻想(ゆめ)だろう。だから、殺した。
     楽しい時間が終わったあと、トールに訪れたのはとても巨大な虚脱感だった。自分を傷つける力を持った者でも、自分を殺すことはできなかった。どちらも全力だった。ただ、トールの方が強かった。まだ生きているということはそういうことなのだ。殺されてやってもよかった。このつまらない世の中をまた生きていかねばならないのならば、それでもよかった。呂布と対峙し、武器を 2052

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    DOODLE髪が気になった呂布と気にしたトールの雷飛「お前、髪を括ろうとは思わんのか」
     呂布からそう言われ、トールは首を傾げた。どういう意味で言われたのかがわからなかったからだ。呂布が無造作に手を伸ばしてきたのをトールは受け入れる。他の者であればその手を叩き落としているところであったが、呂布ならば、許せた。長く垂れた前髪をすっと後ろに流される。前髪がなくなると、トールの整った顔がよく見えた。呂布はしげしげと眺めては、不思議な色をした目だな、と思う。
    「これだけ長いと視界に入って邪魔だろう」
     トールの赤毛はそれは美しく戦っているときも鮮烈に映える。しかし、それはそれだ。何の気なしに気になった呂布はトールに尋ねることにしたのであった。
     呂布も髪を伸ばしてはいるが、それは切るのが面倒だからである。視界の邪魔になる前髪は後ろに流し括っていた。呂布が自身がそうであるだが、世話をやく者がいるトールが、切りもせず髪を伸ばしている理由が、呂布にはわからなかったのだった。呂布が手を離せば、ばさり、と前髪はいつもの位置に戻った。
    「邪魔だと思ったことがないからな」
     トールはそう言った。神にとって髪の毛は力を溜め込む電池のような役割を果たしている者も 1476

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    DOODLE対応に追われるトールと絡まれる呂布の雷飛このつまらない世界に呂布がいる、という喜びを、トールは噛み締める。
     一度失われたと思ったそれは、なんの因果であるか再び今世に戻ってくることとなった。それはラグナロクで失われた他の魂も同様であったが、この次はないことが証明されている。次はない。次は、ないのである。
     トールと呂布は名実共に友、と呼ばれるあるいは好敵手と呼ぶ存在になった。神と人類という種は違えども、トールが友であると認め、呂布もそれに頷いたため、関係が築かれるようになった。反対するものも出るだろうが、説き伏せればいい。ただ――トールは言葉は不得手であった。だから、行動で示した。
     ミョルニルを掲げひと睨みすれば、反対する者は黙るか、死ぬかの選択肢を示されたと思っただろう。その大抵が黙ることを選んだ。下級とはいえ神であっても命は惜しいものだ。トールはその結果に満足した。
     だからトールは失念していた。相手は愚かであっても狡猾である。トールが譲らないというのであれば、呂布に何かしらの働きかけをしてくる、ということを忘れていたのであった。
     トールとの予定に遅れてやってきた呂布は渋い顔をしていた。遅れてきた非礼を責めるわけでも 1864

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    DOODLE折ったトールとまだ折れない呂布の雷飛べきん、と。トールがしまった、と思ったときにはもう遅かった。
     ――鉄の手套を外したトールの握力は凶器だ。それを、トール自身も理解していたが、あろうことか少し冷静さを欠いていたのだ。
     痛みはあるだろうに、呻き声ひとつ上げず、呂布は自らの折れた腕を見た。ぷらりと関節ではない、変な部分で曲がったそれは明らかに折れている。戦いの最中に折れることはあっても、こうして普通に過ごしているときに折る、というのは初めてのことだった。
     呂布はぶらんとした腕を見て、トールを見た。トールはたじろぎ、そしてがくり、と頭を下げた。
    「すまない……私は少しばかり我を忘れていたようだ」
    「だろうな」
     呂布は無事な方の手で首を掻いた。しかし物の見事にへし折ってくれたものだ、と呂布は感嘆する。トールが静かにヒートアップしている様子だったのでまさかとは思ったが、本当に握られただけで折れるとは思っていなかった。トールの握力の凄まじさを感じ、常のトールの行動を省みて、自分がだいぶ気を遣われているのだと知る。
    「取り敢えず我は医者に行くが、その前にいいか」
    「ああ。なんだ?」
     赤い頭をあげたトールの顔面に、呂布は折れて 1100

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    DOODLE不味そうに食べるトールとうまそうに食べる呂布の雷飛「貴様は実にうまそうに食べるな」
     スープを音を立てて啜っていたのでイヤミかと思ったがどうやら違うらしい。トールの言葉に裏はない。言葉そのままの意味だろうな、と呂布は思った。
    「そういうお前は不味そうに食うな」
     イヤミではない、とわかった上だが、口に出たのはそんな言葉であった。
     トールに招かれた食事の席である。呂布は多少薄味なところはあるが美味い料理を、遠慮などせずばくばくと食い荒らしていた。会話も少なく、本当に空きっ腹を埋めるだけのそれである。今日の呂布は腹を空かせていたので、それはもう、豪快に皿を空けていったのだった。
     トールは不味そうに食べる、と言われたことで少し目を見開いた。他人からどう思われていようが関係ないが、関係ないはずなのだが、呂布からそう見られていたというのは、あまり好ましくなかったのだろう。顔を顰めたトールは「しかたないだろう」と言った。
    「神にとって、食事とはあまり必要がない。うまいもの――珍しいものであればたしかに楽しむこともあろうが、こう言った日常のものは大抵飽きていることが多いのだ」
    「ふぅん?」
     呂布は興味なさげに相槌を打った。これが不味く感じる、 1546

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    DOODLE気づいてしまったトールと断る呂布の雷飛「私は、貴様が好き……なのかもしれん」
     トールから捻り出された言葉は、呂布を唖然とさせるには充分だった。ぽろ、と肉がこぼれ落ちたのを下につくまでに拾い上げることになんとか成功した呂布は、それを口に放り込みもぐもぐと噛み締めてからごくりと飲み込んだ。
    「なんだ、それは。どういうことだ」
    「そのままの意味だ。私は、お前が好きなのかもしれん」
     トールはもう一度言った。一度言ったからか、次には絞り出すようにではなく随分とスムーズに言葉に出していた。
    「それはどういった意味の好きだ?」
    「……愛おしいと思ったり、慈しみたいという気がしたりする、それだ」
     呂布はうっかり杯を取り落とすかと思った。トールから愛おしいだの慈しみたいだのという言葉がでてきたことに驚いたが、それ以上にそう言われているのが自分であることに、驚愕したのであった。
    「待て。相手は誰だ? 本当に我か?」
    「ああ。貴様だ」
     肯定されて、呂布は頭痛がしてきた。まさか自分が? という気持ちでいっぱいであった。しかもそれが友と認めた、友だと思っている、友として扱っているし、向こうも友として扱ってきているはずの、トールから言われてい 1659

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    DOODLE自分の感情に悩むトールとめんどくさがる呂布の雷飛愛、という言葉は、二人の間にはあまりにも似合わないものだ。だから、決してこれは愛ではない、とトールは定義していた。わかっていた。わかっている。わかって、しまっている。これは愛などではないと。愛と呼べるほど甘やかではなく、激しく、燃えるように、苛烈で、暴力的な、それは愛などでは決してないのだと、そう、理解しているはずだった。
     けれど呂布を見るたびに、感じるたびに、思い返すたびに、弾ける胸の内を表せる言葉を、トールは知らなかった。友に向けるには凄絶過ぎるそれを、どう定義していいのか。その問題は詩情を理解したことがないトールには難しすぎた。
     この胸の内を、どう表していいのか。困って、困って、困って。
    「それで我に尋ねてどうするんだ」
     トールよりも詩情というものを理解しないであろう友、呂布本人に尋ねるまでに至った。
     呂布は此奴混迷し過ぎだろう、という感想を持った。それでもこの頃には聞くだけは聞いて放置というわけには行かず、一緒に考えてやる程度にはトールのことを突き放せなくなっていた。
    「激情ではダメなのか」
    「ダメだ。もっと好意的な解釈がしたい」
    「慈しみ」
    「そうではない。これはそこ 1222

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    DOODLE呂布に死んで欲しくないってしたトールと対応に追われた呂布の雷飛「貴様は、天でも、退屈したら死ぬのか?」
    「まさか。ここにはトール、お前がいるではないか。それだけで、我の日々は退屈からは程遠い」
     トールは眉間に皺を寄せたままその言葉を受けた。呂布の言葉に懐疑的なのはそれだけでわかった。面倒だな、と思いながら呂布は頭を掻いた。なにかの拍子に生前の呂布について見てしまったトールは、呂布が目の前から消えることを恐るようになった。なるべく目の届く範囲にいてほしい、と友に願われた呂布はしかたなしにそれに付き合っていたが、陳宮が近況を送ってくる頻度が高くなり、また赤兎馬の様子も気になっていた。そのため、この状況を打破しなくてはならないな、と思っていたところだった。
     喋るのはあまり得意ではない。全てを解決してきたのは武、であったから。言葉などは不要だった。武以外のことは陳宮やほかの配下に任せてきたこともあり、不得意であった。いくら頭を悩ませたところで武器を取る、以外の答えが見当たらない。顔を曇らせる友に、慰めの一言すらでてこない。体を動かすのは自由であった。軽い手合わせなら何度もした。呂布はどうすればいいのかと考える。…………。ちっともわからなかった。
     呂 1238

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    DOODLE稲妻に焦がれる呂布と人間に焦がれるトールの雷飛空を裂く一瞬の光。遅れてやってくる轟音。
     すべてを壊す空から降ってくるそれに、呂布は焦がれていた。
     ああ、そうきっと。初めてそれの起こした結果を目にしてから、ずっと。天にはすごいやつがいるのだ、と。そう、焦がれていたのだ。心の臓を昂ぶり揺らす、それを、ずっと待ち望んでいた、その感情は恋にも似ていた。
    「この世界に、雷神と呼ばれる存在は、私だけではなく複数いるのだがな」
     酒の席、呂布が語る話を聞いていたトールはぽつりとそう言った。それを聞いた呂布は、一瞬ぽかんとして、それの示すことを理解すると喉を鳴らして笑う。
    「お前、まさか妬いているのか?」
     呂布はククク、と笑いながらトールに尋ねる。するとトールはそれとわかる仏頂面で頷いてきたので、次こそ呂布は声をあげて笑った。
    「これは傑作だ! トールが他の雷神に嫉妬とは!」
    「貴様が変なことを言い出すからだろう」
     むっとしたままトールは盃を傾ける。呂布も笑ったまま酒を口にする。
    「心配せずとも、我にとって雷神とはお前だけだ、トール」
    「……それを聞いて安堵する自分が嫌だな」
     トールは眉間に皺を寄せる。雷を司るといえばギリシャ神のゼウス 1204

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    DOODLEくちづけがしたいトールとわからない呂布の雷飛くちづけを、トールが願ってくるとき。
     呂布はトールのことが一瞬わからなくなる。
     武器を交えれば、理解し合えたはずの相手のことが、わからなくなる。こんなことはいままでなかった。なぜなら、武器を交わした人間は、みんな死んだからだ。みんな、殺したからだ。けれど、相手は人間ではなく、神であるから。しかし、しかしそれだとて、わからないはずもないことなのに。
     くちづけを乞う、普段よりも柔らかで、甘やかな声が、呂布を苛んでいることを、トールは知っているだろうか。きっと知らないだろうな、と呂布は自嘲する。
     それを隠して、呂布はトールの願いを受け入れる。拒否してもいい。それを言う権利を、呂布は与えられている。けれど、そうはしない。何故だ、と誰に尋ねられることもないことを、呂布は自らの中で繰り返す。さて、何故だろうな、などと曖昧にして、呂布はトールの願いに、ああ、と肯定の返事をする。
     そっと、壊れ物を扱うかのように顎を掬うトールの手が嫌だった。
     逃げられないよう力任せに押さえ付けられた方が、遥かにマシだった。
     では、呂布はトールからくちづけを受けることが、嫌なのだろうか。拒絶している意思を示 1108

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    DOODLE呂布の死体を欲しがるトールとわからない呂布の雷飛「貴様が死んだあと、屍はどうなった?」
     今日の二人だけの飲みの席。トールから唐突にそう尋ねられ、呂布は首を傾げた。なぜそんなことを尋ねられたのかがわからないが、答えはひとつである。
    「死んだ我が知る由もなかろう。曹操にでも聞け」
     おそらく、おそらく、碌な扱いはされなかったと思う。徹底的に、蘇らないように壊し尽くされ、墓すらないのではないだろうか。
     それに加え、呂布が死んだのは千を重ねる昔の話だ。もし形が残っていたとしても、それは骨のひとかけらくらいのものだろう。たとえ、なにかの拍子にそれが見つかったとしても、呂布にはもうどうでもいいことだ。
    「なんだ、我の屍が気になるのか?」
    「ああ」
     トールは頷いた。
    「もっと早く貴様と出会えていれば、回収できたかもしれん」
    「お前もなかなか馬鹿なことを言う……回収してどうなるものでもなかろう」
     手酌で酒を注ぎながら、呂布は笑う。本当に、トールはなにを言っているのだろうか。
    「天で死ねば死体は残らん」
     トールは言う。天での死は魂の死。宇宙の塵芥となりただ消えいくのみ。
    「また、貴様が死なんとも限らんからな」
    「お前の慰みのために我の死体が 1240

    amei_ns

    DOODLEキスがしたいトールとそれを受け入れる呂布の雷飛「口づけがしたい」
     トールが深刻そうな顔で部屋に呼んだと思ったらそんなことであったので、呂布は大いにため息をついた。無駄に顔がいいこの神は、何故だか呂布のことが大好きなのだった。少し前にトールが呂布を真剣に口説いてきたこともあって、二人はいわゆる付き合っている、という状態になっていた。というかトールが粘った。渋る呂布に圧をかけ、粘ったり脅したり駄々をこねたりしながら了承させたのであった。呂布に対してそんな芸当ができるのはトールだけであることは間違いない。
     そういうことがあって、トールと呂布は付き合っていたのだが、別に変わったことはしていない。殺し合いはランドグリーズの暇を見て週に二度だし、たまに食事を共にし、またセックスをするくらいである。セックスは付き合う前からしていたので、なにが変わることがある、と思っていた呂布だったが、トールの態度が微妙に変わった。なんだか、こう、具体的にはどう変わったとは言いづらいのだが、変わったのである。よく呂布に微笑むようになったというか、視線があたたかくなったというか、二人きりのときには甘ったるい雰囲気を出すようになったというか……。正直、そんなトー 1772

    amei_ns

    DOODLE付き合ってることに固執するトールと別にどうでもいい呂布の雷飛いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。
     そのいろいろあった間にすったもんだがあり、その結果トールと呂布は付き合うことになった。交際を始めたのである。やることはすでにやっていたくせに交際までに結構な時間がかかってしまったのは、それこそ冒頭にあるようにいろいろあったからではあるが、まあ二人の現在がよければいいはずのことであった。
     ところが、ところが。二人の関係は暗礁に乗り上げていた。
     付き合うことになったところで、二人のやることと言ったら武器を交えるか、共に食事をするか、セックスをするか。この三つだけであった。それなら付き合う前と何も変わらないだろうと、なにかしようとしたのだが、なにも思い浮かばなかった。世間一般では付き合う、というのはいったいなにをする関係なのだろうか。とくに悩んでいない呂布はおいておいて、トールは尋ねて回った。
    「デートをしたらいいのではありませんか?」
     神に尋ねれば碌でもない意見しか出なかった中で、唯一まともな回答をしたのは、ラグナロクの四回戦を戦った、殺人鬼ジャック・ザ・リッパーであった。
    「デート?」
    「ええ。買い物にでかけたり、綺麗な景色を見に 1497

    amei_ns

    DOODLEちいさくなった呂布に我慢できずにキスをするトールの雷飛いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。
     その結果、トールは小さくなった呂布を膝の上に乗せていた。
     詳細は省くが、呂布は子供になっていたのであった。トールがその処理に当たろうと動けばおおごとになるため、呂布とともにおとなしくしていてほしい、と言われた。なのでそうしている。膝の上に乗るトールの好敵手は非常に軽い。ピン、と指で弾けば飛び散ってしまいそうなほどである。子供はこれまでの記憶をなくしているらしく、トールのことをいかづちと呼び、純粋な殺意を向けてきた。……殺意を向けてくるところは、呂布らしく、トールは嬉しく思った。
     しかしながら、どうにもこの状況はいただけない。さきほどまで殺意を向けてきていたとは言え、膝に乗った呂布はおとなしい。時折、振り返りトールと目が合ってはさっと前を向いてしまう。
     子供と触れ合う機会がないトールは、子供とはこんなものだっただろうかと思いながら、その小さな頭蓋骨を眺めていた。鷲掴めば、ぐしゃりと潰れるだろう。泡沫のように持ち上がる思考をぱちんぱちんと弾けさせていると、呂布が言葉を発した。
    「いかづちよ、その……聞きたいことがあるのだが」
    「なん 1969

    amei_ns

    DOODLE行為のとき首に噛み付こうとしてくる呂布を肩に誘導するトールの雷飛。いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。
     その結果、トールと呂布は、いわゆるそういうことをする仲になっていた。この話は二人が寝所を共にしているところから始まる。

     首とは急所である。それは人も神も同じだ。否、神にとって弱点であるから、神を模して作られた人間もそうなっているのだ、と言わなければならないだろうか。首は頭部と胴体を繋ぐ関節であり、また太い血管の流れる箇所である。そこに食いつかれようとするならば、危機を感じ、避けようとするのが普通の心情であろう。
     それは、北欧最強神であるトールもそうであった。首に食らいついてこようとする友の額を押さえそれを阻止する。
    「噛むなら肩にしろ」
     押さえた頭をそっと肩の方に誘導すると、呂布はおとなしく肩に齧り付いた。呂布の鋭い歯で噛まれたことにより、痛みが走るがその程度で表情を歪めるトールではない。がじがじと肩に歯型を付ける呂布に、ほどほどにしておけなどという言葉をかけようかと思ったが、やめた。どうせもう聞こえてはいないだろうことがわかったからだ。
     意識が朦朧とする中でもしっかりとトールに掴まり、肩に齧り付きながらも時折口を離し喘ぎ声 1774