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    坂井

    dentyuyade

    DONE矢野くんと坂井くんのちょっと先の話。坂井克樹、矢野葵に負けないでほしい。
    世界心中願望にさよならを息をすることは容易いことだと、生きとし生けるものすべてが思っている。それは今を生きる存在は皆等しく呼吸をしているからであり、それが難しくなるというのは即ち、死に近づいているという事実を意味するからだ。だから、肺というのは実のところ心臓よりもずっと生に密接した器官であり、それを損なわんとする行為は自殺と呼ぶに等しいのである。そう、それは例えば煙草であったりだとか。
    「あー、まっず……」
    一度たりともこの人生において煙草の煙を美味いと思ったことは、矢野にはなかった。ではなぜそれを欲するのか。ニコチンへの依存と言ってしまえばそこまでかもしれないが、あえて言うならば、そこに安心を覚えるからと表現するほかない。肺を汚染することは緩やかな自死で、希死念慮を満たすにはもってこいの小道具なのである。それを思うたび矢野は、大人になってよかったと唯一感じるのだ。フェンスに寄りかかり、マンションの一室から街並みを眺める。知らぬ街からそれなりに知った街になったそこには、いくつもの光が息づいては湛えられていた。いつまでここにいるべきか。そんな答えのない問答に、静かに火蓋が切られたのを矢野は肌で感じ取る。
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