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    ひとねむり

    DONE竹くく 室町
    久々知くんが護衛先の娘さんに気に入られちゃった話
    護衛任務「兵助、帰ってこないの?」

     己の口調から滲む不機嫌さは、これでも抑えたつもりなのに全然隠しきれていなくて、余計に不機嫌な気持ちになってしまう。勘右衛門は肩を竦めて「ご覧の通り」と少し笑う。そこにいるのは、勘右衛門一人。見たまんまの状況。つまり、兵助は帰ってきていない。まだ、任務の最中なのだ。
     それが、八左ヱ門は気に食わない。

     武家の姫さんが良からぬ輩に狙われているので護衛を頼みたい。
    い組がその任務に選ばれたのは、ただ都合よく身が空いていて、内容もちょうど良かったからだ。年頃の姫さんという対象に、いささか色めき立った者もいれば、高貴な血筋らしい身分に気後れする者もいたりと、様々な反応だったらしい中でも、八左ヱ門が「いってらっしゃい。気をつけて」と送り出した兵助は平素と変わりのない態度だった。むしろ、どちらかと言えば、前日に逢瀬の際に「しばらく会えなくなるなぁ」と呟いた消沈した声と、詫びしげな顔ばかりが残っている。二人だけの時に見せる顔は、日が昇ればすっかりと引っ込んで、切り替わる潔さと任務に据える心意気は、八左ヱ門が好ましいと思う兵助の一面でもある。だから、頑張れよ、と送り出した。あの時は本気で、本当にそう思っていた。
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    まさのき

    DONEアンデルセンの「雪の女王」をわりとまじめにパロったカイ潔(+糸師兄弟)です。藤田貴美さんの漫画版に多大なインスピレーションをいただいてます。中盤までカイザーの気配が皆無ですが、ちゃんとカイ潔です。

    ゲルダ→潔(と冴)、カイ→凛、盗賊の娘→カイザー
    花待ちの窓雪の晩に、枕べで聞く物語



    第一のお話 はじまり


     昔、むかしのお話です。ここではないどこか遠くの国の、知らない土地の、小さな箱庭の村に、ひっそりとよりそい合って暮らす、三人の子どもたちがおりました。三度の春と冬のあいだに生まれた彼らは、名前をそれぞれ冴、世一、凛といいました。赤髪の冴は、三人の中ではもっとも年長で、その下に世一と凛が続きます。泣き虫世一と、やんちゃな凛、面倒見のよい冴の三人組は、遊ぶときも、出かけるときも、眠るときでさえもいつも一緒でした。血をわけた兄弟である冴と凛は、となりの家に住む世一のことを、まるで本当の兄弟のようにたいせつに思っていました。世一だって、冴と凛の二人と血がつながっていないことなんて、つゆとも気にしたことはありません。だって、朝も昼も夜も、扉を開けばそこに冴と凛が立っていて、ふたりといれば、世一に怖いものなんて、なんにもなかったのです。三人は野を駆けて遊び、泥まみれになって眠り、手に手をとって、いつまでもいつまでも仲むつまじく暮らしていました。
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