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    宝島

    mame

    TRAINING千ゲ(宝島帰還中、ペルセウスにて)白い髪が沈む夕日でうすきはだ色に透けていた。眼下に広がる波の動きと連動してゆらゆらと揺れている。あの柔らかそうな髪は、潮風で軋むことはないのだろうか。
     そもそも目線の先にあるのはツートンカラーと言う不思議な髪だ。髪の毛の染め粉など千空は作っていないし、作り方を指南したこともないので科学王国の人間で染めてる人間は千空が把握している限りではいない。大体千空の記憶にあるクソみたいな心理本の表紙といま現在目に映っている髪の毛は違うわけで──石化前最後にテレビを通して見たときはおそらく現在と一緒だ。
     出会って年単位になるくせに、本当に今更ながらどういうわけなのか気になってきて、しかしおそらく別にいま話を聞き出すことでもないこともわかっていて、千空は小さく舌打ちをした。まあ、そのうち。気になることは答えを導き出すところまで持っていかなければ気持ち悪いので。急ぎではまったくないが、そのうち。多分近々。
     そんなことを思考の隅で考えながら、爪先をその背中に向けて歩を進める。
    「落ちるなよ、メンタリスト」
     落下防止柵にである手すりに両肘をついて夕日を眺めているらしい藤色の背中に声をかけた。
    「だい 3776

    mame

    TRAINING千ゲン(宝島:石化中、千ゲ未満のゲのつらつら)もう二度と味わいたくないと思っていた、意識が底無し沼へ沈んでいくような、そんな感覚。ああ、そうだった。すっかり忘れていたけれど三七◯◯年前もこんな感じで、最初は意識があったのだ。やだなあ、この感覚。
     そんなことを考えながら、ゲンはきっと陣営でひとり残してしまった歳下の男の子のことを思う。大丈夫だろうか、千空ちゃん。
     絶対に大丈夫だと、あの子が残りさえすれば、みんな大丈夫だと本気で思っている。ゲンだってそうだ。きっと千空本人も。
     それでも、それでも。やはりあの子はまだ子どもだ。大層な夢を抱いているだけの、ただの科学が大好きな少年だ。その少年の心は、果たして大丈夫だろうか。
     ゲンの視界は既にまっくらだ。腕を上げて石化したはずだが、その感覚すらわからない。やはり油断すればずぶずぶと意識が沈みそうだった。必死で意識を繋ぎ止める。
     あの子の心に寄り添えずとも、もし少しでも影が差すことがあればそこに電気でも照らしてあげれるような、そんな存在でありたい。もうあれから随分時間が経ってしまったけれど、綺麗な冬の星空のもと、目隠しをした布の下で見せた千空のあの表情を見た時から。科学王国の心理担当 1358