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    GoodHjk

    DONE【巽零】雰囲気La MortAU|本編後捏造|最初から最後まで妄想
    夜半噤む果実 残寒余寒と言うにふさわしい季節のはずが、その夜はひどく吹雪いて、文字どおり一寸先も伺えぬような荒天が行手を塞いでおりました。日中はほろほろと、暗澹たる風情で肩に積もる程度だった氷雪が、俄かにその勢いを増しはじめたのは、まだ日が暮れて間もない時分だったと記憶しています。或いは、目的地である教会で、日没を報せる鐘が遠く、重々しい間隔をあけて、厳かに鳴り響いたのを耳にしてからでしょうか。それとも、首都より遠路遥々旅をしてきた俺が、ようやくこの町へ足を踏み入れたのと殆ど同刻か──それは言うなれば、まるで、町自体が侵入者を阻もうとでもするかのように。
     元が寒冷な土地であるゆえに、居並ぶ家屋は黒々として硬質な、分厚い木材を隙間なく組んで建てられていて、それがまた取りつく島もない怜悧な趣を感じさせます。道の端には掻き分けられた泥混じりの雪が膝ほどの高さに固まっており、俺が町の門をくぐった頃には、道路にも歩道にも見境なく積雪しだして、たちまち足首までもが雪中に沈んでしまいました。不幸なことに、俺の靴は防水靴でも防寒靴でもなく、法衣と揃いの革靴でしたから、下衣の裾も靴下も無惨に、凍てる水気にやられ、歩くごとに痛みさえ覚える始末でした。町人はみな、この悪天候を察していたかのように息をひそめて、暗夜迫る通りには影ひとつ、灯りひとつ見受けられません。
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