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    海風

    JLqgn8

    PASTぽっせアンソロジー「海風に踊らせて」に
    寄稿したものです。カプ要素はありません。

    三人がバラバラになった未来のお話です。
    限りなく透明に近いブルー■飴村乱数
    「すべ、ての、いの、ちは」
    「うみ、から、うま…れる」
    「せい、めいの、ゲンリュウ、とも、いわれ、ます」
    「よう、すいは、うみ、のせいぶん、とおなじ、と、いわれて、おり……」
    「にんげん、は、うみで、うまれ、はぐくまれ、そ、して、また、うみに、かえ、る…」
    自分の口が静かに紡ぐ言葉の、あまりのスローさに溜息しか出ない。
    ──まったく、どうなってんの、ぼくの頭。こんなにバカだったっけ?
    僕は頭を揺らし叩いてみたが、目の前の文字がスムーズに目と頭に入らずに、口に乗せるまでに矢鱈と時間がかかってしまう。
    溜息。
    普段人との会話に困ったことなんてないのに、こうした小難しい文章を読むには脳の処理速度が遅くなるのか、時々錆びついた歯車のように思考が鈍くなる。飴を多量に舐めてみればアドレナリン的なものでも出るのかと思ったのに、そんなこともない。白い飴の棒が僕の横に増えていくだけになった。幻太郎の言葉を借りると、「そんなに飴を食べたら糖尿になりますよ」ってやつくらい?糖尿ってのが僕にはよくわからないけど、幻太郎いわく「飴やら甘いものが食べられなくなりますよ」だって。それが本当に僕にもなるものなのかちょっぴり、ほんのちょっぴり興味はあったりする。だってね、人間の病気だよ?そんなものがこの僕の身体に起こり得るのか、ちょっと気になるよね。でもまあ数十本食べても相変わらず頭の奥は鈍い感じがそのまんまあるし、糖尿がどんな病気か知らないけど、飴を食べてもなんら変わりはないし、まあ、うん。僕にはあまり意味がなさそう。ってことは多分、僕が今この薄暗い部屋でこんな分厚くて小難しい本を読んでいることは、この体にとっては、意味がないのかもしれない。
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