2015
yede_kanamori
PAST2015年11月3日発行の陸+天本のweb再録です。第一部後のお話です。今読むと齟齬などもありますが、今からシナリオを読む方も、
すでにすべて読み終わった方も違った面白さがあるような気がします。
当時お手にとってくださった皆さま、ありがとうございました。
紙の本でご入用の方は以下からお求めいただけます。
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kth_0831
PAST刀/骨さに※女審神者
2015年に書いた過去作
約束 風のない夜だった。闇に喰まれたかのような月は残った半身で白く朧な光を放っている。それは少なくともまばゆい陽射しよりは安心するものだった。眩しすぎるものは、恐ろしい。とりわけ夕陽は嫌いだった。
この身体を与えられ、人の身として刀身を振るうようになってまだ間もない。この器を得たとき、骨喰には何もなかった。あったのは恐ろしい炎の記憶だけで、それは今も変わらない。
人間の身体というものは不便だった。睡眠を取らなければ否が応でも疲労を訴えるくせに、眠ろうとすれば嫌な夢ばかり見る。案の定今宵も眠れず、夜風に当たろうと庭に出てきたところだった。
ふと視界の端を白いものがよぎり、意識もしないまま手を伸ばした。図ったようにこの手のうちに降りてきた小さな花弁を見つめる。薄桃色の花びらは、この闇の中では白くぼうっと発色しているようだった。てのひらを傾け桜の花びらを逃がしたとき、歩み寄る気配に気付いてはっと振り向く。
2416この身体を与えられ、人の身として刀身を振るうようになってまだ間もない。この器を得たとき、骨喰には何もなかった。あったのは恐ろしい炎の記憶だけで、それは今も変わらない。
人間の身体というものは不便だった。睡眠を取らなければ否が応でも疲労を訴えるくせに、眠ろうとすれば嫌な夢ばかり見る。案の定今宵も眠れず、夜風に当たろうと庭に出てきたところだった。
ふと視界の端を白いものがよぎり、意識もしないまま手を伸ばした。図ったようにこの手のうちに降りてきた小さな花弁を見つめる。薄桃色の花びらは、この闇の中では白くぼうっと発色しているようだった。てのひらを傾け桜の花びらを逃がしたとき、歩み寄る気配に気付いてはっと振り向く。
kth_0831
PAST刀/ずおさに(鯰さに)※女審神者
2015年に書いた過去作
じゃあ、勝負しましょーか「あ」
引き抜かれたのはハートの10。手元に残ったジョーカーと見つめ合った瞬間、ぱしっとカードの山に二枚のハートが放り投げられる軽い音が響いた。
「俺の勝ち、ですね!」
空になった両手をぱっと広げて、鯰尾がにっこり笑う。心なしかトランプの中のジョーカーまで笑っているように見えて思わず苦笑いする。
「参りました。……何度やっても、鯰尾には勝てませんね」
ババ抜きという至極単純なゲームは、洞察力も必要だが運に左右される部分もある。何度もやっていればたまには勝てても良さそうなものだが、鯰尾と勝負して勝てたことは一度もなかった。
普段から表情の豊かな鯰尾だが、このゲームをしている最中、意外にもその表情から読み取れる情報は少ない。どれを引こうかとわざとらしくカードの上で手を彷徨わせてみてもにこにこしているだけでどれがジョーカーなのかわからない。そのくせ、こちらのジョーカーは綺麗に避けて当たりのカードばかり引き抜いていってしまうのだから、何度やっても負けるわけだ。
2609引き抜かれたのはハートの10。手元に残ったジョーカーと見つめ合った瞬間、ぱしっとカードの山に二枚のハートが放り投げられる軽い音が響いた。
「俺の勝ち、ですね!」
空になった両手をぱっと広げて、鯰尾がにっこり笑う。心なしかトランプの中のジョーカーまで笑っているように見えて思わず苦笑いする。
「参りました。……何度やっても、鯰尾には勝てませんね」
ババ抜きという至極単純なゲームは、洞察力も必要だが運に左右される部分もある。何度もやっていればたまには勝てても良さそうなものだが、鯰尾と勝負して勝てたことは一度もなかった。
普段から表情の豊かな鯰尾だが、このゲームをしている最中、意外にもその表情から読み取れる情報は少ない。どれを引こうかとわざとらしくカードの上で手を彷徨わせてみてもにこにこしているだけでどれがジョーカーなのかわからない。そのくせ、こちらのジョーカーは綺麗に避けて当たりのカードばかり引き抜いていってしまうのだから、何度やっても負けるわけだ。
kth_0831
PAST刀/骨さに※女審神者
2015年に書いた過去作
記憶の檻 その姿を初めてこの目に映したとき、まるで人形のようだと思った。
炎に焼かれた過去を持つ骨喰藤四郎、その刀は美しく、それを欲した多くの権力者の手を渡ったという。しかし、それらの過去すべてを失った哀れな付喪神は、喪失を知る者特有の儚さを纏い、失ったものさえ覚えていないという途方もない喪失から来る空虚さを持ち合わせていた。
(何て、綺麗な)
今にも陽に透けて消え入りそうな色素の薄い髪や白磁のような肌、そしてそれらにそぐわないほどの密かな熱を孕ませた瞳。記憶も過去もなく、空っぽであるはずの美しい人形の、その瞳だけが炎のように色を宿していた。
顔の造形だけで言うなら、同じ粟田口派の脇差である鯰尾藤四郎も骨喰に瓜二つで美しい。だが、鯰尾は人形ではありえなかった。よく笑い、くるくると変わるあの表情は生を感じさせた。鯰尾を生が放つ輝きを持った美しさだと表現するなら、骨喰は死を予感させる仄暗く儚い美しさだ。二振りは対極の存在といってもいい。
2958炎に焼かれた過去を持つ骨喰藤四郎、その刀は美しく、それを欲した多くの権力者の手を渡ったという。しかし、それらの過去すべてを失った哀れな付喪神は、喪失を知る者特有の儚さを纏い、失ったものさえ覚えていないという途方もない喪失から来る空虚さを持ち合わせていた。
(何て、綺麗な)
今にも陽に透けて消え入りそうな色素の薄い髪や白磁のような肌、そしてそれらにそぐわないほどの密かな熱を孕ませた瞳。記憶も過去もなく、空っぽであるはずの美しい人形の、その瞳だけが炎のように色を宿していた。
顔の造形だけで言うなら、同じ粟田口派の脇差である鯰尾藤四郎も骨喰に瓜二つで美しい。だが、鯰尾は人形ではありえなかった。よく笑い、くるくると変わるあの表情は生を感じさせた。鯰尾を生が放つ輝きを持った美しさだと表現するなら、骨喰は死を予感させる仄暗く儚い美しさだ。二振りは対極の存在といってもいい。
kth_0831
PAST刀/鶴さに※女審神者
2015年に書いた過去作
おりづる 彼女の指先が小さく動くたび、その白い紙はくるくると姿を変える。最初は何の変哲もないただの正方形の紙だったものは彼女が折り目をつけると三角形になり、かと思えば最初より一回り小さな正方形になり、そんなことを繰り返しているうちに何かよくわからない形になった。
細長いひし形のような、複雑な形へと姿を変えたその白い紙は、どうやらそれで完成系のようだ。ただの紙が折り目をつけるだけでこうも形を変えるものかと、その事実には単純に驚いたが、果たしてこれが何を意味しているのかはわからない。
そんな鶴丸の思いを表情から読み取ったのか、主は薄く笑ってその紙を鶴丸に差し出した。
「それは何だ、という顔をしていますね」
「ご明察だな。それは何だ?」
2019細長いひし形のような、複雑な形へと姿を変えたその白い紙は、どうやらそれで完成系のようだ。ただの紙が折り目をつけるだけでこうも形を変えるものかと、その事実には単純に驚いたが、果たしてこれが何を意味しているのかはわからない。
そんな鶴丸の思いを表情から読み取ったのか、主は薄く笑ってその紙を鶴丸に差し出した。
「それは何だ、という顔をしていますね」
「ご明察だな。それは何だ?」
過去ログ置き場
PAST浴衣のA!(シャーペンらくがき)※やや腐向けの傾向アリ※
ダイヤのAキャラに浴衣を着せてみたくなった去年の夏の発掘品。
クリス先輩が着付け出来ちゃったりなんかするといいな〜とか…
そこはかとなく好きCPだったり→クリ沢、降御、倉亮、純哲。
[2015.6] 7
過去ログ置き場
PAST倉亮で刑事パロで張り込み!#リプが来たCPごとに今思いついた描く予定なんてひとつもない漫画
…のタグで「倉亮」頂きましたので、この二人♪
CPっぽくはならなかった…orz
[2015.1]