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    kth_0831

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    kth_0831

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    刀/鶴さに
    ※女審神者
    2015年に書いた過去作

    おりづる 彼女の指先が小さく動くたび、その白い紙はくるくると姿を変える。最初は何の変哲もないただの正方形の紙だったものは彼女が折り目をつけると三角形になり、かと思えば最初より一回り小さな正方形になり、そんなことを繰り返しているうちに何かよくわからない形になった。
     細長いひし形のような、複雑な形へと姿を変えたその白い紙は、どうやらそれで完成系のようだ。ただの紙が折り目をつけるだけでこうも形を変えるものかと、その事実には単純に驚いたが、果たしてこれが何を意味しているのかはわからない。
     そんな鶴丸の思いを表情から読み取ったのか、主は薄く笑ってその紙を鶴丸に差し出した。
    「それは何だ、という顔をしていますね」
    「ご明察だな。それは何だ?」
     主がまるで心の内を読んだかのように鶴丸の思っていたことを代弁する。その言葉をそっくりそのまま声に出して純粋な疑問を投げかければ、彼女は小さな悪戯をしかける子どものような、どこか幼い顔で笑った。見ていてくださいね、と鶴丸の瞳を見上げるとぱっと手を閃かせる。次の瞬間には、彼女の手の上には一瞬で姿を変えた白い紙が乗っかっていた。
    「こりゃ驚いた」
     白い翼を広げた鳥の姿をしたそれは、とても元は一枚の紙だったとは思えない。主がまた小さく折り目をつけるとくちばしが出来上がり、完全な鳥の姿になった。
    「ふふ。これ、折り鶴、と言うんです」
     鶴。そう言われれば、それはまさに鶴だった。白く大きな翼を優雅に広げ、そのままどこかに行ってしまいそうにも思える。
     紙に折り目をつけながら形を変え、最終的に鶴の形へと成す。そのことから、折り鶴と呼ぶのだろう。とはいえ、鶴丸にとっては少々縁起が悪いとも思える響きである。
     鶴を折る。それを、主はどういう思いで鶴丸に教えたのだろうか。そんな、最もと言えば最もな疑問を含んだ視線を投げかければ、彼女は手の中の小さな鶴を畳んで先ほどのひし形のような形に戻すとそれを鶴丸の手に握らせた。
    「あなたにあげます」
    「君は、俺にこれをどうしろと?」
     小さな手をつたって掌におさまった小さな紙の鶴を軽く握ってからそう言うと、主は何を言うこともせず、ただ力が抜けたかのようにぽすっと鶴丸の胸に倒れ込んでくる。そのまま背に回された腕がきゅっと彼の白い着物を握りしめた。
     わかっている。この主が、何を考えてこんなものを作ったのか。それをこの手に託したのか。けれどもそれは、できれば彼女自身の口から聞きたいことであった。
    「お守り。……鶴丸が、無事に帰って来てくれるように」
     ぽつりともらされた声は、ともすれば障子から吹き込んでくる風の音に溶け込んでしまいそうなほど小さい。それでも、そんな風さえ入る隙間もないほどに主と距離を埋めている鶴丸の耳にはしっかりと届いて鼓膜を震わせた。
     彼女は鶴丸にとって愛を傾ける相手であり、己にこの身を与え繊細な感情の彩りを与えた主でもある。審神者として、戦う彼らをまとめる立場である彼女は鶴丸の出陣を止めることはできないし、鶴丸もこの刃を振るうことをやめるつもりはない。それは刀としての性でもあり、また、そうすることで彼女の力になりたいという思いから来ているものでもある。
    「そりゃどうも。……なあに、そんなに心配することはないさ」
     きゅっと、背に回された腕に力がこもった。
     部隊を送り出すときは、こんな動揺を表に出すわけにはいかない。主としての顔でいってらっしゃいと言わなければならない。そうとわかっているからこそ、自分の前でだけ、こんな弱さをさらけ出す主を愛おしいものだと許してしまう自分も、もう引き返せないところまで溺れているのだろう。
     それでも、刀を振るうのをやめようとは思わない。きっとそれは、仮に彼女が止めたとしても揺るがない思いだ。
    「鶴なら私が何度でも折ります。だから、あなたは折れないでください。ここに、私のそばに、戻ってきてください」
     主はきっと、この先も鶴丸を止めるようなことはしないだろう。そしてただ、こんな小さな紙に縋って彼の帰りを待つのだろう。
     なんと弱くて、愛おしい。
     そしてそんな感情が様々な色を持って自らの中で渦巻くことが、退屈など忘れてしまいそうなほどに面白い。
    「ああ。驚きの結果を君にもたらそう」
     主の元に戻ってくることなど、至極当然のこと。それに加えて彼女の驚くような結果でも持ち帰ることができれば上々だ。
     そんな言葉にしない思いまで聞き取ったかのように、主が笑った気配がした。
    「はい。お待ちしております」
     顔を上げ、こちらに瞳を合わせた彼女は、薄く笑っていた。主としての強い意志を秘めた視線に、鶴丸も思わず目を細める。
    「鶴丸国永。出陣をお願いします」
     迷いも揺らぎも見えぬ声で告げられた出陣要請に、鶴丸も彼女に仕える刀として笑みを返した。
    「任せておけ。先陣切って空気を掴むぜ」
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