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    12月18日

    関東礼

    PROGRESS12月18日発行予定のジュオカルカル新刊冒頭です
    神様、はじめての夏休み 故障していない電話がそこにあるのは、砂漠でオアシスを見つけるより幸運だった。モリアーティが背中を向け、スパイラルコードをいじりながらそわそわと僅かに歩を進める。青で統一されたカウンターで、胸当て付きのエプロンを着たカルナが沸騰した湯でグラスを濯ぐ。アルジュナオルタの咽頭をウイスキーが過ぎる。心臓の代わりに氷を抱いたきついアルコールは、汚すように刹那彼の粘膜を焼き、真っ逆さまに腹へと溜まる。酔いは回らない。彼は味覚が夢みたいに淡い。天井近くの棚に据え付けられたテレビでは、モルディブのリゾートの映像が流れている。白い砂浜、光と影を列挙する青い海、島を横断する二百メートルのプール、三角屋根の連なるホテル、浜辺に一粒置かれた透明な、泡を模したベッドルーム。楽園のイメージはなみなみと高い気温の中を溢れんばかりに高まって、アルジュナの思う故郷の雨季を隠した。胸に注がれた土砂降りの雨はカルナがグラスをくぐらせる冷水と重なり、白い指の印象を濡らす。ボウルへ積まれた葡萄を一粒口に含めば、舌が熱烈に果汁を歓迎した。貧しい言い方をすると、アルジュナはまだ赤ん坊で、カルナは彼の食べかけのおもちゃであり親だ。恋人でもある。年末恒例となった閻魔亭での休暇をキャンセルし、常夏の南の島へ赴く。その誘いをした。
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