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    ホセ

    haruki032

    DOODLEホセノト
    『僕は王子様になれない』


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    いつも通りの、静かな夜だった。
     紅い布張りのソファ、細かい模様の入った厚いカーテン、自室のそれらとは少しデザインの異なる家具たちは、ノートンにとって既に見慣れた風景の一部になっていた。ローテーブルに並んだ深いグリーンの酒瓶とグラスも、反射した淡い橙色の光がテーブルに複雑な模様を落としている様も、全部そうだ。
     もっとも、初めてこの部屋を訪れた時はこれらが自分の日常の中のひとつになるとは思ってもいなかったけれど。
     隣に座っている、部屋の主の指先がグラスをつまみ上げる。光と影の模様は微かに揺れて、消えた。
    「……飲み過ぎじゃないですか」
     ノートンが諌めるように言うと、ホセはグラスに唇を付けたまま笑った。
    「そんなことないよ」
     緩んだ目元と少し縺れた声は明らかに酔っていることを示していたが、ホセはそのままウイスキーを舐めるように飲む。ノートンは黙って、その喉の隆起が動くのを見ていた。

    ―眠りにつくために飲んでいる酒。

     以前彼が随分と酩酊した際、消え入りそうな声で「もう味の善し悪しも分からない」と零していたことを思い出す。今夜は一体どんな気持ちで、この琥珀色の液体を飲み下している 1635