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    masasi9991

    DONEまだ蛙の姿の小さい大ガマさんと土蜘蛛さん天気予報


     雨の匂いがすると言う。わらかぬでもない。確かに天候の変わる前、彼方より雨雲を押し運んでくる風の匂い、それは水気を含んだ彼方の土地の匂いとして、わずかに感ぜられる。
    「ヘン」
     と咳払いをした。蛙が咳払いとは不思議なものだ。蓮の葉の上に座って、小さな身体でふんぞり返る。
    「まだまだだな」
     蛙の喉から、人らしき声が。いややはり人とは少し違っている。まだうまく舌を回して言葉にするのが難しいらしく、音の一つ一つが舌っ足らずな。それに小さな身体に釣り合って、微かで、跳ねるように高い。
     その声を聞き漏らさぬために、こちらも池の淵にしゃがみ込む。
    「まだまだとはどういうことだ」
    「雨の匂いについて、まだちっともわかっちゃいないってことさ。仕方ねえな。人間てぇ、そんなもんか」
    「吾輩は妖怪だが」
    「どっちも一緒だ。どう違うのかよくわからん。少なくとも蛙じゃない」
    「蛙は特別か」
    「そうだ、特別だ。こんなに雨に親しいのは蛙だけだ」
    「それはそうかも知れぬな」
    「うん、あんたはよくわかっている。いいか、雨の匂いというのは、水の匂いや土の匂いだけを嗅いではだめだ。それだけじゃねえ、ええ、 1190