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    APH

    Tonya

    MOURNING「破竹の夢」
    APH 菊耀
    おいでおいでと白い手が招いている。青々としたさざ波に垣間見える色染めの裾が手招きするたびゆらゆらする。天上から光が燦々と差し込み、緑の葉が擦れてさらさら鳴る。
    私は嬉しくなって招かれた方へ駆け出す。あの人が隠れていた場所まで着いて、周囲を見回したが誰もいない。はてと首を傾げていると先の方でまたさらさら竹が鳴る。ずっと先の方でまたあの手が揺れている。細い手首が陽に透けてぼんやり輝いている。私はまた駆け出す。さっきよりも随分走って、もうよかろうと立ち止まったらまた竹林の奥から手招きするのが見えた。
    周囲には足跡のひとつもなく細長い葉ばかりが繁っている。翠緑を透かした向こうであの人がからから笑っているような気がして、気恥ずかしいと同時に悔しくなった。今度こそと私は湿った土を蹴る。息が切れるまで行っても着いた所はやはり伽藍としている。奥の方では相変わらず白い手がゆらゆらしている。
     何度も駆け出し、立ち止まっては失望するのを繰り返した。私の狭い歩幅ではあまりに遅々として追いつけない。自分の小さな体躯が嫌になった。まっすぐ延びた竹さえ羨みながら、諦めることはできずにまた走る。
     そのうち日が傾き 1285

    Tonya

    MOURNING「goodbye」を訳すと「貴方の帰りを待っています」になりました。
    shindanmaker.com/732889

    APH 蘭菊
    「……妙なことを言うけえの。」
    煙管から口を離し、揺蕩う煙の向こうに男の丸い頭がある。
    「ですから、貴方の帰りを待っています。」
    繰り返して、菊は顔を上げる。帳の落ちかけた室内に白い輪郭がぼんやりと浮かぶ中で、瞳だけが墨を落としたように黒い。
    いや、暗い。
    「ここはおめぇんちげ。」
    だからですよ、と菊は微かに口端を上げる。
    付き合いが長くなるにつれ、国のことだけでなくこの男個人についても色々わかるようなった。
    表情の起伏が少なくとも中身は決してそうでないこと。腹の内や本音を、ひどく婉曲したやり方でしか表に出さぬこと。細やかな所作の様々。
    出会った頃の自分ならばきっと見落としていた。
    まして、勢い盛んなあの男になど。
    「国を開いた以上、もう西洋の流れと無関係ではいられません。」
    遅かれ早かれだったかもしれませんがね。目を細め、しばし口を閉じてからこう聞いた。
    「私は変わるでしょう。それでも、またここへ帰ってくれますか。……わっ!」
    返事の代わりに煙を吹きかければ、菊は袖で覆った顔を背ける。抗議の声を聞き流しながらわしわしと黒髪を荒らす。
    人が真面目に尋ねているというのに…。ぽこぽこ怒る瞳 595

    Tonya

    MOURNING「迷惑な隣人」
    APH フェリクス

    昔書いた微ホラー
    何年くらい前かな。仕事の都合で地方の支部へ半年間異動することになって、引っ越ししたときの話。
    そんとき入居したのは七階建てマンションの角部屋。すぐ真横にもう一つ大きなビルが並んでて、頑張って通路の突き当たりの柵を越えれば、映画みたく向こうに渡れそうなくらいだった。
    メトロが近くて交通の便もいいし、食料品店が歩きで行ける距離にあってなかなかいい立地条件だったし。部屋も広くて、暇ができたらトーリス呼ぼかなとか思ってた。
    とはいえ、引っ越してしばらくは引き継ぎだの何だのと忙しくて、夜遅くにやっと解放されたらすぐ帰宅してベッドに転がり込むような日々だったんだけど。



    問題が起こりはじめたのは、引っ越しからひと月くらい経って、異動のゴタゴタもひとまず落ち着いた頃。
    夜も更けてきて、そろそろ寝る準備しよかなと思ってたら、玄関からガチャッとドアノブを回す音がしたんよ。
    様子を見に玄関へ行くと、俺がドアスコープを覗くのと入れ違いに、外からバタンって扉の閉まる音がした。そんときは、ああ他の住人が部屋を間違えたんだなって程度にしか考えなかった。
    でも、それからほぼ毎晩、それは起こるようになった。夜中に 3712