チンモク
PROGRESS支部で公開してる鍾魈連載小説の続きです。洞天小話 2章 後編(1) 岩王帝君との邂逅以来、金鵬は自暴自棄になっていた。何もかもがどうでもいい。こんなに酷く落ち込むのは、数百年前に魔神に囚われた直後以来かもしれなかった。
「…それは、自傷行為ではない?」
雪山の麓の拠点から帰離原の方角を見下ろし、無心に雪を頬張っていたときだった。
金鵬の背から、グラシャの声が問い掛けた。
口を利きたくなかったが、自然と口は開き、答えていた。
「…否。好んで口にしている」
「……岩王帝君との出会い方が、そんなに気に入らなかった?」
「……」
それは、図星だった。金鵬が抱いていた夢は、この男に捕らえられたときに潰えてしまったが——それでも、あれは無かった。
元凶に痛いところを突かれ、湧き上がってきた激情を、目を閉じ抑え込もうとする。
2763「…それは、自傷行為ではない?」
雪山の麓の拠点から帰離原の方角を見下ろし、無心に雪を頬張っていたときだった。
金鵬の背から、グラシャの声が問い掛けた。
口を利きたくなかったが、自然と口は開き、答えていた。
「…否。好んで口にしている」
「……岩王帝君との出会い方が、そんなに気に入らなかった?」
「……」
それは、図星だった。金鵬が抱いていた夢は、この男に捕らえられたときに潰えてしまったが——それでも、あれは無かった。
元凶に痛いところを突かれ、湧き上がってきた激情を、目を閉じ抑え込もうとする。
つつ(しょしょ垢)
DONE身長差萌えの鍾魈ですが、逆になる状況とは? と考えれば自明の理。見下ろす背中に当たる風は冷たく、窓から差し込むわずかな光が夜明け前であることを知らせる。
空は紺色と薄紅をないまぜにしたようで、次第に星が消えていく。
しんと静まり返った部屋の中、翡翠の髪がわずかに揺れる。
音を立てずに行動するのは造作もない。気配を断つことも息をするようにできる。そっと寝台を抜け出して身支度を整え終え、別れの挨拶をその背中に送るべく振り返る。そして、今にいたる。
峻厳さ、厳かさ、冷徹さ・・・六千年近く璃月を収めてきた統治者が見せていた様相は彼にとって触れ得ざる美しさでもあった。
かつての近づくこともまして声をかけるなど烏滸がましく、畏れ多くてできなかったそれら。しかし「凡人だから」の一言で彼が作っていた壁は容易に砕かれた。
3071空は紺色と薄紅をないまぜにしたようで、次第に星が消えていく。
しんと静まり返った部屋の中、翡翠の髪がわずかに揺れる。
音を立てずに行動するのは造作もない。気配を断つことも息をするようにできる。そっと寝台を抜け出して身支度を整え終え、別れの挨拶をその背中に送るべく振り返る。そして、今にいたる。
峻厳さ、厳かさ、冷徹さ・・・六千年近く璃月を収めてきた統治者が見せていた様相は彼にとって触れ得ざる美しさでもあった。
かつての近づくこともまして声をかけるなど烏滸がましく、畏れ多くてできなかったそれら。しかし「凡人だから」の一言で彼が作っていた壁は容易に砕かれた。