紫乃_24
DOODLE『暗がりとめぐる世界』のおまけSSです。※本に収録している書き下ろしの更にその後の話です。
少し遅れて待ち合わせ場所に着くと、そこには異様なオーラを放った相手が俯きがちに佇んでいた。
「……えぇと。お待たせ、瀬戸内くん」
あまりの淀んだ空気に、周囲にはひと気がない。初め、その重苦しい雰囲気に、待ち合わせ時刻に遅れたことを怒っているのだと思った。近づいて、恐る恐る謝罪の言葉を口にすれば、そこでようやくこちらに気付いた様子の瀬戸内がハッと視線を上げる。
その顔には――予想に反して――やけに弱々しく揺らめいた眼差しがあって。仁淀はぎょっと目を見開いた。
「えっ……ど、どうかした?」
瀬戸内のこの手の表情は、心臓に悪い。思わずどもりながら尋ねた声に、けれど相手はうろうろと視線を外してなにやら迷うそぶりを見せたのち、ぽつりと一言零すのみであった。
1929「……えぇと。お待たせ、瀬戸内くん」
あまりの淀んだ空気に、周囲にはひと気がない。初め、その重苦しい雰囲気に、待ち合わせ時刻に遅れたことを怒っているのだと思った。近づいて、恐る恐る謝罪の言葉を口にすれば、そこでようやくこちらに気付いた様子の瀬戸内がハッと視線を上げる。
その顔には――予想に反して――やけに弱々しく揺らめいた眼差しがあって。仁淀はぎょっと目を見開いた。
「えっ……ど、どうかした?」
瀬戸内のこの手の表情は、心臓に悪い。思わずどもりながら尋ねた声に、けれど相手はうろうろと視線を外してなにやら迷うそぶりを見せたのち、ぽつりと一言零すのみであった。
紫乃_24
DOODLETwitterに掲載していた、まとめ本ご購入お礼文です。『暗がりとめぐる世界』終章デート前の余談です。
「おーはよ〜っヒカル!」
どすんと体当たりをするみたいに、チヒロは眼前の肩に腕をかけた。それはいつもとなんら変わらない仕草であり――そして概ね自らの予想通り、弾かれるように顔を向けたヒカルが抗議の声を上げた。
「――チヒロッ! お前、なにか俺に言うことがあるんじゃないのか…っ⁉︎」
ギッと睨め上げてくる赤みがかった瞳には、ここしばらく見えなかった生気が溢れんばかりに漲っている。ようやっと、いつもの〝らしさ〟が戻ってきた。思惑通りに事が進んだことを確信して、チヒロはニヤニヤと上がる口角を抑えることなく訊き返した。
「え〜〜? 言っていいの〜〜?」
わざとらしく身体をくねらせてさえみせれば、素直に煽られたらしい相手はクワッと噛み付かんばかりに大きく口を開き――次いで、一転。今度は蝶番の錆び付いたドアみたいにぎこちなく閉じ直すのだった。
1837どすんと体当たりをするみたいに、チヒロは眼前の肩に腕をかけた。それはいつもとなんら変わらない仕草であり――そして概ね自らの予想通り、弾かれるように顔を向けたヒカルが抗議の声を上げた。
「――チヒロッ! お前、なにか俺に言うことがあるんじゃないのか…っ⁉︎」
ギッと睨め上げてくる赤みがかった瞳には、ここしばらく見えなかった生気が溢れんばかりに漲っている。ようやっと、いつもの〝らしさ〟が戻ってきた。思惑通りに事が進んだことを確信して、チヒロはニヤニヤと上がる口角を抑えることなく訊き返した。
「え〜〜? 言っていいの〜〜?」
わざとらしく身体をくねらせてさえみせれば、素直に煽られたらしい相手はクワッと噛み付かんばかりに大きく口を開き――次いで、一転。今度は蝶番の錆び付いたドアみたいにぎこちなく閉じ直すのだった。
紫乃_24
PASTまとめ本に収録していた小説です。本の方には、書き下ろしで後日談SS(仁淀告白編)も入れています。
通販⇒https://hoshikawa.booth.pm/items/4558934
暗がりとめぐる世界【序章】
「この後、時間ある?」
いつもの定例ライブ後の、いつもの握手会。今日も今日とて脳内にずらりと並べ立てた文句を直接ぶつけてやろうと思った矢先に、推しのそんな一言で出鼻を挫かれた。
「――…は?」
意気込んでいた延長線で滑り出た思いきり圧の強い声色に、眼前の男がビクリとたじろいだ。やや引いたその表情にハッとして、ひとつ咳払いをした後になんとか表情筋を和らげる。そうして瀬戸内が「なんだ、急に」と言い直すと、あー、とか、えー、とか、いまいち要領を得ない音が続いてから、仁淀が慣れない様子で後頭部を掻いた。
「あー、その…。この前、吉野くんのプレゼント選ぶの手伝ってくれたから、お礼…」
「え、」
予想外の返答に思わず声がまろび出る。
39730「この後、時間ある?」
いつもの定例ライブ後の、いつもの握手会。今日も今日とて脳内にずらりと並べ立てた文句を直接ぶつけてやろうと思った矢先に、推しのそんな一言で出鼻を挫かれた。
「――…は?」
意気込んでいた延長線で滑り出た思いきり圧の強い声色に、眼前の男がビクリとたじろいだ。やや引いたその表情にハッとして、ひとつ咳払いをした後になんとか表情筋を和らげる。そうして瀬戸内が「なんだ、急に」と言い直すと、あー、とか、えー、とか、いまいち要領を得ない音が続いてから、仁淀が慣れない様子で後頭部を掻いた。
「あー、その…。この前、吉野くんのプレゼント選ぶの手伝ってくれたから、お礼…」
「え、」
予想外の返答に思わず声がまろび出る。
UstanSG
PROGRESS※小説。パスワードはウィークエンドシトロン回の話数を英数字で。まだ書き途中なんですけど何度も読み返してるとわけがわからなくなってくるのでちょっとだけ公開する……!
オメガバパロなんですけどによせとは握手しかしてません。
公開部分は説明要素が多め。
由良ちゃん、ZINGSユニット愛要素、セリフのあるモブキャラ等が出てきます。 19955
misatokmkz
DOODLE吸血鬼パロでハロウィンです。Halloween Night10月31日23時ちょっと過ぎ。コンコン、と瀬戸内の部屋の窓が鳴った。
平日の深夜。人を訪ねる様な時間ではない。というか、窓は玄関ではないし、瀬戸内の部屋は2階にあって間違っても来訪者を想定するような事象ではない。
けれど。大変不本意なことに、瀬戸内にはノックの音の正体に嫌というほど心当たりがあった。
「…………」
それでも、素直に開けてやるのはやはり不本意というもので、殺気すら込めて自分の姿を映すガラス窓を睨みつける。すると再び、コンコンと軽いノックの音が響いた。
(一体なんだって……)
諦めるつもりも、自ら入ってくるつもりもない様子に頭痛すら覚えるが、無視して眠ろうとしたところでそれが叶う筈もない。仕方なく、簡素な錠を外して窓を開け放った。
1742平日の深夜。人を訪ねる様な時間ではない。というか、窓は玄関ではないし、瀬戸内の部屋は2階にあって間違っても来訪者を想定するような事象ではない。
けれど。大変不本意なことに、瀬戸内にはノックの音の正体に嫌というほど心当たりがあった。
「…………」
それでも、素直に開けてやるのはやはり不本意というもので、殺気すら込めて自分の姿を映すガラス窓を睨みつける。すると再び、コンコンと軽いノックの音が響いた。
(一体なんだって……)
諦めるつもりも、自ら入ってくるつもりもない様子に頭痛すら覚えるが、無視して眠ろうとしたところでそれが叶う筈もない。仕方なく、簡素な錠を外して窓を開け放った。
misatokmkz
DOODLE吸血鬼パロなによせと。何度か通ってるし、吸血以外も済ませております。
雨の夜に部屋の灯を落として窓を開ける。外は小雨が降りしきっていた。
(今日は……来ないか)
今日は満月の筈だったが、垂れ込める雨雲に遮られその姿は確認できない。
吸血鬼は流れる水を渡れないというが、雨がどれほど影響するのか瀬戸内は知らない。
けれど、きっと得意ではないのだろうし、飢えより面倒臭いが勝ってしまうような怠惰を極めた人外が、それを押してまで訪ねてくるとは思い難かった。
「待つ義理がある訳じゃないし…―」
もう寝よう、と窓を閉めかけた、その時―
べちゃ。
瀬戸内の顔面に、濡れそぼった何かが張り付いてきた。
「貴様というやつは……っ」
飛び込んできた物体Xはデカ目の蝙蝠。
その正体は満月ごとに瀬戸内に血を無心にくる、迷惑な吸血鬼の仮の姿であった。
2165(今日は……来ないか)
今日は満月の筈だったが、垂れ込める雨雲に遮られその姿は確認できない。
吸血鬼は流れる水を渡れないというが、雨がどれほど影響するのか瀬戸内は知らない。
けれど、きっと得意ではないのだろうし、飢えより面倒臭いが勝ってしまうような怠惰を極めた人外が、それを押してまで訪ねてくるとは思い難かった。
「待つ義理がある訳じゃないし…―」
もう寝よう、と窓を閉めかけた、その時―
べちゃ。
瀬戸内の顔面に、濡れそぼった何かが張り付いてきた。
「貴様というやつは……っ」
飛び込んできた物体Xはデカ目の蝙蝠。
その正体は満月ごとに瀬戸内に血を無心にくる、迷惑な吸血鬼の仮の姿であった。