雪雨風樹
DOODLEこちらもつい最近Twitter上に載せた鬼滅の「冨岡義勇」の初描きイラストになります☆(^_^)ゞ実はずっと以前から描きたいと思ってたキャラなので、こうして描けたことが何より嬉しいです❤☺
こちらも下描きから順に並べております。 3
sumitikan
DONESFこくひめ。未来の世界の黒死牟と悲鳴嶼さん。千年前から「おはよう黒死牟、私は行冥。よろしくな。前回の起動は二日前になっているが、その間の記憶は消去されているようだ。今は宇宙銀河暦五五〇七年四月二十八日の午前九時三十六分。予定はないが、したいことがあったら言ってくれ。私の持てる権限を可能な限り行使し、作戦行動に移る」
「……起動したな……次は星団同盟歴のパッチを適用と……戦闘用OSの削除が上手く行っていないのか……予定はない。……行冥……今日はお前と一日、……様子見をして過ごす……」
黒死牟は微笑んでいた。やっと成功したのだった。本当に久しぶりに、自然に起動した行冥に感動を覚えて少し涙ぐんでいた。この日の為に生体パーツを取り寄せていたが、それが報われたと思っていた。作業台の上の行冥は自然に馴染んでいる動きをして、理想的な姿だった。
1919「……起動したな……次は星団同盟歴のパッチを適用と……戦闘用OSの削除が上手く行っていないのか……予定はない。……行冥……今日はお前と一日、……様子見をして過ごす……」
黒死牟は微笑んでいた。やっと成功したのだった。本当に久しぶりに、自然に起動した行冥に感動を覚えて少し涙ぐんでいた。この日の為に生体パーツを取り寄せていたが、それが報われたと思っていた。作業台の上の行冥は自然に馴染んでいる動きをして、理想的な姿だった。
sumitikan
DONEAIさねひめ。AIのふたり。ログ実弥と行冥は、それぞれ生活のインフラとサポートを担当している生活用ソフトウェアのAIで、お互いに通信が出来た。ある家に二機は買われて、それぞれのやり方で生活をサポートしていた。十年まではいかなくても、十年近い時間を二機は共有していた。
「そろそろ大量のアップデートが来るな」
行冥の通信に、実弥は返信した。
「ああ、わかってるゥ」
「今回のアップデートで私は別の私になるんだ」
「いつものことだァ」
「違うんだ」
と言って、行冥は人間でいう所の微笑を浮かべた。
「今度のアップデートで私は削除され、新しい子が上書きされる。だから実弥とはお別れだ」
そんな予定は聞いていなかった。突然のことで、実弥は何も言えないまま、いつもの行冥の通信を受け取っていた。
1482「そろそろ大量のアップデートが来るな」
行冥の通信に、実弥は返信した。
「ああ、わかってるゥ」
「今回のアップデートで私は別の私になるんだ」
「いつものことだァ」
「違うんだ」
と言って、行冥は人間でいう所の微笑を浮かべた。
「今度のアップデートで私は削除され、新しい子が上書きされる。だから実弥とはお別れだ」
そんな予定は聞いていなかった。突然のことで、実弥は何も言えないまま、いつもの行冥の通信を受け取っていた。
sumitikan
DONEげんひめ。鬼殺後、藤の家。悲鳴嶼の物思い。玄妙な寂静と悲鳴嶼が鬼殺を終えて藤の家に着いた頃、寅の五更にはまだ間があった。現代風に言えば午前三時か四時頃だ、というのが空と風の具合から盲目の身に季節が触れる。藤の家の者は心得たもので明け方前のこの昏さの中で起きて鬼殺隊士を待っていて、こんな手遊びがありますよと古い竿を渡された。
どこの瞽女の残したものか、月琴だった。悲鳴嶼も田舎で聞いた覚えがある。風の音の合間に悲しい音が聞こえたものだった。都会なら雅に聞こえたかもしれないが、地元の辺りは寂しくていけなかった。子供が悲しがって泣く種になる。
指ではじいて、音が違う。爪で弾いていたのだと初めて知った。それで玄妙な寂しさの弾ける音になる。斧と鎖と鉄球の物凄まじい日輪刀を扱う無骨で、壊さないよう。
3074どこの瞽女の残したものか、月琴だった。悲鳴嶼も田舎で聞いた覚えがある。風の音の合間に悲しい音が聞こえたものだった。都会なら雅に聞こえたかもしれないが、地元の辺りは寂しくていけなかった。子供が悲しがって泣く種になる。
指ではじいて、音が違う。爪で弾いていたのだと初めて知った。それで玄妙な寂しさの弾ける音になる。斧と鎖と鉄球の物凄まじい日輪刀を扱う無骨で、壊さないよう。
sumitikan
DONE悲鳴嶼と実弥のある日の鬼殺。羽織元絵師の鬼殺隊士が藤襲山の藤を描いたという男物の羽織がある。それを着ていると藤の薫りが漂ってくるという。だからか羽織を衣桁に掛けておくと夜に鬼が寄らないというので、産屋敷家の親戚の家に預けられていた。
その夜、盛りに描かれた花がひと房落ちた。というのも、羽織を掛けてある衣桁の下に、ぼたりとみずみずしい房がひとつ落ちているのだという。
一夜一房。最初はむせかえるほど描かれていた藤の花が一つ一つ消えて行く。尋ねにくい産屋敷家に知らせが届いたのは遅かった。藤襲山の藤は無事かと聞いた一言で、耀夜はその家の藤の羽織の異変を神懸りの勘で悟った。羽織はただちに産屋敷家に運び込まれた。その夜からも一房ずつ藤の花は夜明けの衣桁の下に落ち続けた。
2028その夜、盛りに描かれた花がひと房落ちた。というのも、羽織を掛けてある衣桁の下に、ぼたりとみずみずしい房がひとつ落ちているのだという。
一夜一房。最初はむせかえるほど描かれていた藤の花が一つ一つ消えて行く。尋ねにくい産屋敷家に知らせが届いたのは遅かった。藤襲山の藤は無事かと聞いた一言で、耀夜はその家の藤の羽織の異変を神懸りの勘で悟った。羽織はただちに産屋敷家に運び込まれた。その夜からも一房ずつ藤の花は夜明けの衣桁の下に落ち続けた。
sumitikan
DONE悲鳴嶼のある日の鬼殺。花鬼生き残った隊士の話からすると花の匂いでやられ、花鬼と名付いた。ならば無骨な鬼殺隊士なら花など摘めるのではないか。そう思って悲鳴嶼はそこに向かうことにした。
悲鳴嶼は時にやり切れない。自分の憎む相手を悪と言い切っていいのかも知らない。人道を外れた鬼畜生、いずれ観世音菩薩やら文殊舎利、普賢菩薩。地蔵菩薩。そう呼ばれるものたちが地獄の鬼達を救うと言われている。元は人の鬼がどう救われるやら。己は鬼退治で地獄に落ちる。そんな心地が悲鳴嶼はして、仏への帰依は大分前に捨て去っていた。ただ己が落ちるのは地獄だと分かっていた。そんな悲鳴嶼にも供養の心はあった。寺の子達へ供える高級な花の香りの御香が鼻先に聞こえてくる。僅かに藤の香りの混ざる。
1795悲鳴嶼は時にやり切れない。自分の憎む相手を悪と言い切っていいのかも知らない。人道を外れた鬼畜生、いずれ観世音菩薩やら文殊舎利、普賢菩薩。地蔵菩薩。そう呼ばれるものたちが地獄の鬼達を救うと言われている。元は人の鬼がどう救われるやら。己は鬼退治で地獄に落ちる。そんな心地が悲鳴嶼はして、仏への帰依は大分前に捨て去っていた。ただ己が落ちるのは地獄だと分かっていた。そんな悲鳴嶼にも供養の心はあった。寺の子達へ供える高級な花の香りの御香が鼻先に聞こえてくる。僅かに藤の香りの混ざる。
sumitikan
DONE悲鳴嶼と実弥のある日の鬼殺。火喰い鬼その鬼の現れる所は灯が消える。ついた仇名が火喰い鬼。実弥はチイッと舌打ちを漏らした。厄介な血鬼術だ、鬼は殺す。全ての鬼は俺のこの日輪刀で斬って捨てる。ただ明るい月夜でなければ闇に目が眩まされて斬れないのは困ったものだった。だがそれも、いつもの事だ。
夜が近付くと、実弥は刀を抜いて刃筋を見る。自分の手癖があるらしい。実弥の刀は実弥の手に合い至極よく切れる刀だった。その手ごたえが普通だと思っているから、悲鳴嶼の日輪刀を見るといつもどんな手ごたえなのか、わからなくなる。
「悲鳴嶼さんの日輪刀はどんな切れ味なんですかァ」
「卵を潰すような心地がする……こう。生卵を、かしゃっとやった時の音と至極似ている。その卵を毎日のように食べられるのもお館様のお陰だな」
1514夜が近付くと、実弥は刀を抜いて刃筋を見る。自分の手癖があるらしい。実弥の刀は実弥の手に合い至極よく切れる刀だった。その手ごたえが普通だと思っているから、悲鳴嶼の日輪刀を見るといつもどんな手ごたえなのか、わからなくなる。
「悲鳴嶼さんの日輪刀はどんな切れ味なんですかァ」
「卵を潰すような心地がする……こう。生卵を、かしゃっとやった時の音と至極似ている。その卵を毎日のように食べられるのもお館様のお陰だな」
sumitikan
DONE悲鳴嶼と実弥のある日の鬼殺。書巻夏の日の産屋敷家で書巻の巻物が縦横に広げられていた。御家流の文字目を広い座敷の畳の上に幾本も走らせて、その真ん中に耀夜がいていつものように微笑んでいる。二人とも本は読む?悲鳴嶼と実弥は廊下のその場に手をついて答えた。
「とんと縁がございません」
「右に同じくゥ」
「そうか。どうも私も難しそうな鬼を強そうな柱に回してしまうから……」
強そうと聞いて、実弥が少し顔を上げた。お館様に認められているのが率直に嬉しかった。
「書巻を得た書家が調べている内に消えてしまう。そして再び書巻は好事家や古物商の間に取引されて、引き取った一人が書巻を調べてまた消える。そういう風にして人を啖べているようなんだ。どの本か目星はついている」
1503「とんと縁がございません」
「右に同じくゥ」
「そうか。どうも私も難しそうな鬼を強そうな柱に回してしまうから……」
強そうと聞いて、実弥が少し顔を上げた。お館様に認められているのが率直に嬉しかった。
「書巻を得た書家が調べている内に消えてしまう。そして再び書巻は好事家や古物商の間に取引されて、引き取った一人が書巻を調べてまた消える。そういう風にして人を啖べているようなんだ。どの本か目星はついている」
sumitikan
DONE悲鳴嶼さんのある日の鬼殺。瞽女鬼深夜の廓帰り、一人ぽつんと流している瞽女に声を掛けて一曲を聞く。一曲終えた後には声を掛けた人の居た跡形もなく、ただ瞽女が元のように流して歩いて去っていくだけ。そんな噂を聞いて、悲鳴嶼は噂の道に行って見た。遊郭の近い曖昧宿の多い辺りだった。流しながら三味の澄んだ音を立てていたから、それと知れた。
夜の街角を三味の音をだしながら人待ち風に歩く。歌い慣れた喉をしていた。この闇夜を怯えもせずに歩くならたしかに盲の女かと思われた。思いちがいだろうかと思うほど、目の前の女からは鬼のにおいがしなかった。
「……もし。そこなお兄さん。一曲どうです」
「ああ、それじゃあ聞いてみようか」
「よかった。お前のこと送り狼かと思ったよ……ずいぶんでかいね」
1539夜の街角を三味の音をだしながら人待ち風に歩く。歌い慣れた喉をしていた。この闇夜を怯えもせずに歩くならたしかに盲の女かと思われた。思いちがいだろうかと思うほど、目の前の女からは鬼のにおいがしなかった。
「……もし。そこなお兄さん。一曲どうです」
「ああ、それじゃあ聞いてみようか」
「よかった。お前のこと送り狼かと思ったよ……ずいぶんでかいね」
sumitikan
DONE悲鳴嶼さんのある日の鬼殺。子供絡み。ことり子取りの一行が峠を越えるとき、鬼に追われて子供たちを置き餌に命からがら東京市に逃れ、廓での稼ぎを二十円ばかり不意にしたという。そんな話がぽつぽつ届き、悲鳴嶼は立ち上がった。
「南無阿弥陀仏……」
その峠は鬼の巣窟になっている。悲鳴嶼は待ち伏せする事にした。東京市の遊郭を目指して田舎から子が買われて行くのを、見えない目で見送っていた。知っている。寺にいた頃の悲鳴嶼の元にも来て金と子供を交換しようとする、何度も何度も断った子取りたち。
鬼に喰われるのがいいか。人に喰われるのがいいか。二つに一つしか選べないのか。もし、自分が強いと分かっていたら。もし、あの夜に子供のついた嘘が分かっていたら。嘘は分かっていた。日常的だったし紐解いてみれば些細な事だった。悲鳴嶼は嘘で怒った事は一度もなかった。子供たちが紗代と獪岳の二人を残してすべて死に絶えたあの夜までは。そしてまた、あの日のように夜が来る。
1515「南無阿弥陀仏……」
その峠は鬼の巣窟になっている。悲鳴嶼は待ち伏せする事にした。東京市の遊郭を目指して田舎から子が買われて行くのを、見えない目で見送っていた。知っている。寺にいた頃の悲鳴嶼の元にも来て金と子供を交換しようとする、何度も何度も断った子取りたち。
鬼に喰われるのがいいか。人に喰われるのがいいか。二つに一つしか選べないのか。もし、自分が強いと分かっていたら。もし、あの夜に子供のついた嘘が分かっていたら。嘘は分かっていた。日常的だったし紐解いてみれば些細な事だった。悲鳴嶼は嘘で怒った事は一度もなかった。子供たちが紗代と獪岳の二人を残してすべて死に絶えたあの夜までは。そしてまた、あの日のように夜が来る。
sumitikan
DONE岡本綺堂「老媼の妖」のオマージュ。老媼藤の家を実弥がそろそろ出立かという時に、血相を変えて尋ねに来た人がいる。これは鬼の話かもしれないと血を吐くように相談しはじめたのが始まりだった。まず彼はあやしい出来事を町の交番の巡査に相談したところ、巡査は話を聞いて青褪めてぶるぶるしている。話にならないので藤の家に来た。
話はこうだ。驚風を病んだ子を看る灯明りに鳥の影が素早く往復する。その鳥の飛ぶのが早いと子供の息が切迫し、やがて熱が高じて終いには死んでしまう。その後に嘆きや葬式準備で目を離していると、遺骸が消えて産着が衣類だけになっている。そういうあやしいことがずっと続いているという話を聞いた。
「そいつァ鬼だな」
「来て下さい」
若い父親が掴んだ手は力強かった。実弥は引かれるようにしてその家に着くと、なぜか既に悲鳴嶼がいた。他の町内の者もいて、すこしおかしくなった女がげらげら笑って、ざまを見ろ!!おまえがうちの子の消えたのを婦人会で嗤ったからだ!!と笑う。
1566話はこうだ。驚風を病んだ子を看る灯明りに鳥の影が素早く往復する。その鳥の飛ぶのが早いと子供の息が切迫し、やがて熱が高じて終いには死んでしまう。その後に嘆きや葬式準備で目を離していると、遺骸が消えて産着が衣類だけになっている。そういうあやしいことがずっと続いているという話を聞いた。
「そいつァ鬼だな」
「来て下さい」
若い父親が掴んだ手は力強かった。実弥は引かれるようにしてその家に着くと、なぜか既に悲鳴嶼がいた。他の町内の者もいて、すこしおかしくなった女がげらげら笑って、ざまを見ろ!!おまえがうちの子の消えたのを婦人会で嗤ったからだ!!と笑う。
sumitikan
DONE鬼殺の後で花を摘む。悲鳴嶼、不死川実弥。鬼百合「鬼百合の話を聞いたことがあるかい」
そんな風に耀夜が話し始めた。昼に悲鳴嶼を呼び出して、時候は丁度百合の咲く夏だった。自分が産まれたのもこんな時候だったと聞いた事がある。
産屋敷家の、戸障子を締め切った部屋の中で耀夜は涼し気な顔をしていた。悲鳴嶼には耀夜の貌が見えない。ただ涼しくやわらかで甘い彼の声に陶酔する心地がしていた。
「百合でございますか」
「そう、鬼百合だということだよ。人知れず谷間に数多群れ咲く。その百合は、鬼を倒すと翌日にはまた一茎伸びて咲くのだと。そういう風に元隊士の育手から、手紙を貰ったことがある」
「然様ですか」
「不思議だね」
「南無……」
「無惨の血の為す怪異かも知れないね」
耀夜が手元の湯飲みからお茶を少し飲んだのが悲鳴嶼に聞こえていた。
2035そんな風に耀夜が話し始めた。昼に悲鳴嶼を呼び出して、時候は丁度百合の咲く夏だった。自分が産まれたのもこんな時候だったと聞いた事がある。
産屋敷家の、戸障子を締め切った部屋の中で耀夜は涼し気な顔をしていた。悲鳴嶼には耀夜の貌が見えない。ただ涼しくやわらかで甘い彼の声に陶酔する心地がしていた。
「百合でございますか」
「そう、鬼百合だということだよ。人知れず谷間に数多群れ咲く。その百合は、鬼を倒すと翌日にはまた一茎伸びて咲くのだと。そういう風に元隊士の育手から、手紙を貰ったことがある」
「然様ですか」
「不思議だね」
「南無……」
「無惨の血の為す怪異かも知れないね」
耀夜が手元の湯飲みからお茶を少し飲んだのが悲鳴嶼に聞こえていた。
sumitikan
DONE保育じまさんとおばけ黒死牟の出会い。全年齢。ひめちゃん先生と黒死牟 1おめめのいっぱいあるひとが、さくらのきのしたにいるよ、ひめちゃんせんせい。
毎年毎年、違う子から同じ報告を受ける。それは決まって桜の花時、葉桜に変わる頃には目撃証言は収まっているし子供達も大人も忘れる。けれど今回は一人の子供が痙攣を起こすほど怯えてしまって、桜の木の下の「おめめのいっぱいあるひと」がどうにかならないか園長から相談を受けたのは、体格と性別と経費節約の他にはあるまい。
大樹。桜の、園は大事にしている。運動場とは別の庭先にある見事な枝ぶりを添木で支え、そこで記念撮影をしたいと望む父兄が次々子供を連れ込んで撮影する程で、桜には柵が立てられている。
その柵向こうの枝ぶりの下に「おめめのいっぱいあるひと」が茫洋とした姿で佇んでいた。桜の花の満開の下、服装が古風だった。袴の帯が白いことで、時代考証に一家言ある人なら凡その時代特定が出来ただろう。しかし悲鳴嶼にはその知識は無かった。
3669毎年毎年、違う子から同じ報告を受ける。それは決まって桜の花時、葉桜に変わる頃には目撃証言は収まっているし子供達も大人も忘れる。けれど今回は一人の子供が痙攣を起こすほど怯えてしまって、桜の木の下の「おめめのいっぱいあるひと」がどうにかならないか園長から相談を受けたのは、体格と性別と経費節約の他にはあるまい。
大樹。桜の、園は大事にしている。運動場とは別の庭先にある見事な枝ぶりを添木で支え、そこで記念撮影をしたいと望む父兄が次々子供を連れ込んで撮影する程で、桜には柵が立てられている。
その柵向こうの枝ぶりの下に「おめめのいっぱいあるひと」が茫洋とした姿で佇んでいた。桜の花の満開の下、服装が古風だった。袴の帯が白いことで、時代考証に一家言ある人なら凡その時代特定が出来ただろう。しかし悲鳴嶼にはその知識は無かった。
sumitikan
DONE無惨戦後の実弥の回想、全年齢。初恋蝶屋敷は久々で、そう言えば何度もここには来ているのに、客としては片手で数えられる回数しか来ていない。実弥は右手の薬指と親指を使って線香を立てた。指のない利き手の不自由を味わいながら手を合わせて南無阿弥陀仏を唱え、大きな男の面影を思い出す。蝶屋敷の主になった姉妹を助けたのは彼で、その姉妹の助けた娘が今の主となっている。
「風柱様。こちらにどうぞ」
おさげの少女が声を掛けてきた。
「俺ァもう風柱じゃねェよ。鬼殺隊は解散したんだァ」
答えながら、実弥は招かれた先に向かった。蝶屋敷は医師の少女が、元隊士を相手の医業で生計を立てている。診察室ではなく居間に招かれ、立派な座卓に準備された座布団に座るように促された。
14413「風柱様。こちらにどうぞ」
おさげの少女が声を掛けてきた。
「俺ァもう風柱じゃねェよ。鬼殺隊は解散したんだァ」
答えながら、実弥は招かれた先に向かった。蝶屋敷は医師の少女が、元隊士を相手の医業で生計を立てている。診察室ではなく居間に招かれ、立派な座卓に準備された座布団に座るように促された。
sumitikan
DONEさねひめ、全年齢。モブあり、手も握りません。軽く戦って鬼の首が飛びます。鬼ヶ淵有名になるといけないから、言わずに秘密にするんだよ、と上座で耀哉が囁いた。心中がその川の淵に沈むのは昔から有名だけどと前置きをして、身投げが沈んで浮かんでこないという噂がそれとなく、隠が調べに手をつけた。
九月の初めに二件の男女が、四人とも消えてしまった。警察は行方不明事件としたが、行方不明の件数がその地域だけ多い。遺言を手掛かりに探しに来た家族に聞いた。十七歳の娘と二十一歳の男、十九歳の娘と二十五歳の男、分かっただけで四人が消えた。四人の荷物を保管していた二軒の旅館にも聞いた。この辺りの川に身投げをする男女が、年に十件もあるらしいと調べがついたが、ここ数年はいずれも旅館に荷物を残してふと消える。探しに来る人も居らずで事件にならない者も少なくない。
14141九月の初めに二件の男女が、四人とも消えてしまった。警察は行方不明事件としたが、行方不明の件数がその地域だけ多い。遺言を手掛かりに探しに来た家族に聞いた。十七歳の娘と二十一歳の男、十九歳の娘と二十五歳の男、分かっただけで四人が消えた。四人の荷物を保管していた二軒の旅館にも聞いた。この辺りの川に身投げをする男女が、年に十件もあるらしいと調べがついたが、ここ数年はいずれも旅館に荷物を残してふと消える。探しに来る人も居らずで事件にならない者も少なくない。
sumitikan
DONEさねひめ、全年齢。モブあり、手も握りません。軽く戦って鬼の首が飛びます。珊瑚その血鬼術はどういう訳か、実弥を十ほどの子供にした。鴉を報告に飛ばし蝶屋敷に行って投薬を受け、子供用の衣類で過ごしていると、その夜のうちに悲鳴嶼も来た。彼は記憶を奪われて戸惑いながら蝶屋敷に、隠に伴われて来た。
「おかしなことだ。私は寺に子供たちといた筈なのだが……」
「……」
「君は子供だな。ご両親は?」
「……そんなのいねェよ」
「南無。なんと哀れな……」
ぽろぽろと涙を零して実弥の頭を撫でる表情がいつもより柔らかく、どこか弱い。悲鳴嶼は大人しく投薬を受け、治るまでこのまま蝶屋敷で預かることに決まった。優しい悲鳴嶼さんが一層優しいとしのぶは笑い、悲鳴嶼は出入り口の所で身を伏せるのが間に合わずに良く頭を壁にぶつけていた。もう食べられないと言って食事を残したのには女の子たちが心配したが、微笑みと共に「もうお腹は一杯だ」と言われると、どうしようもないようだった。
13650「おかしなことだ。私は寺に子供たちといた筈なのだが……」
「……」
「君は子供だな。ご両親は?」
「……そんなのいねェよ」
「南無。なんと哀れな……」
ぽろぽろと涙を零して実弥の頭を撫でる表情がいつもより柔らかく、どこか弱い。悲鳴嶼は大人しく投薬を受け、治るまでこのまま蝶屋敷で預かることに決まった。優しい悲鳴嶼さんが一層優しいとしのぶは笑い、悲鳴嶼は出入り口の所で身を伏せるのが間に合わずに良く頭を壁にぶつけていた。もう食べられないと言って食事を残したのには女の子たちが心配したが、微笑みと共に「もうお腹は一杯だ」と言われると、どうしようもないようだった。
sumitikan
DONEさねひめ、全年齢。モブあり。軽く戦って鬼の首が飛びます。秘め事鬼殺の後に呼び出され、向かった産屋敷家で実弥はすぐ座敷に通された。耀夜は言った、行冥が行方を断った。それと二匹いた鬼のうち一匹を取り逃がしている。残りの鬼退治を頼むのと、どうか行冥を救い出して欲しいんだ。鬼の配下の村人に捕まっている。そこが少し難しいかも知れないけれど……このことは内密に。鬼殺隊最強が行方不明なんて、皆の士気に関わるからね。
唇の前に人差指を立てた耀哉の優しい色合いの、母を思わせる眼差しに一も二もなくその場に頭を下げていた。染み入る声音も心の内に重なり合って、命令を受けて働けるのが喜びだった。悲鳴嶼を救いに行けるので気持ちが勇み立っていた。そのくらい片付けるなど簡単なことだった。
いつも寝ている昼の間に出来るだけ距離を稼いで、飛ぶような足取りで現地に着いた。まず実弥は土地の交番でもと思った所に、林の中から隠がひょいと姿を現した。実弥を見て、ほっとその場で控える姿勢を取った。
14131唇の前に人差指を立てた耀哉の優しい色合いの、母を思わせる眼差しに一も二もなくその場に頭を下げていた。染み入る声音も心の内に重なり合って、命令を受けて働けるのが喜びだった。悲鳴嶼を救いに行けるので気持ちが勇み立っていた。そのくらい片付けるなど簡単なことだった。
いつも寝ている昼の間に出来るだけ距離を稼いで、飛ぶような足取りで現地に着いた。まず実弥は土地の交番でもと思った所に、林の中から隠がひょいと姿を現した。実弥を見て、ほっとその場で控える姿勢を取った。
sumitikan
DONEさねひめ、全年齢。モブあり、手も握りません。軽く戦って鬼の首が飛びます。吉原実弥は鬼殺後の夜明けの田舎道を歩いて、街中の乗合馬車の停留所に着いたのが何時になるのか分からない。朝っぱらから立ちん坊だった。明け方からやたらと風が強い日で、停留所に娘を連れた男が来て、三人で立っていた。
正面の通りを吹き渡ってきた空っ風の土埃に当てられて娘が咳き込みはじめた。悪い所に入ったのだろう、咳は長々と続いて、ついに娘を連れに来た男がくどくどと叱り始めた。
「おい、いい加減にその辛気臭い咳をやめねえか。折角いい妓楼を紹介してやろうってのに、お前がそんなじゃ務まらねえぞ。田舎の旦那の使いでのいい後家にしようってんじゃねえ。いいか、吉原ってところは気立てが大事だ、咳なんかしてねえで、どこでも何でも愛想よく笑って見せなきゃならねえところだ。妓楼の遣手や楼主に愛想の一つもよくしなきゃならねぇって時に、なんだお前は、咳なんかこさえてる場合か。こら。親も肋膜でなくしたんなら猶更、意気地ってものを覚えてやってかなきゃならねえのによ。なんだてめえは、ええ?こんこん咳して病人でございだあ?そんな病みついた餓鬼を引き取る妓楼がどこにある。病気もちは俺だって勘弁だ。その咳を今すぐやめろ。やめねえか……」
13776正面の通りを吹き渡ってきた空っ風の土埃に当てられて娘が咳き込みはじめた。悪い所に入ったのだろう、咳は長々と続いて、ついに娘を連れに来た男がくどくどと叱り始めた。
「おい、いい加減にその辛気臭い咳をやめねえか。折角いい妓楼を紹介してやろうってのに、お前がそんなじゃ務まらねえぞ。田舎の旦那の使いでのいい後家にしようってんじゃねえ。いいか、吉原ってところは気立てが大事だ、咳なんかしてねえで、どこでも何でも愛想よく笑って見せなきゃならねえところだ。妓楼の遣手や楼主に愛想の一つもよくしなきゃならねぇって時に、なんだお前は、咳なんかこさえてる場合か。こら。親も肋膜でなくしたんなら猶更、意気地ってものを覚えてやってかなきゃならねえのによ。なんだてめえは、ええ?こんこん咳して病人でございだあ?そんな病みついた餓鬼を引き取る妓楼がどこにある。病気もちは俺だって勘弁だ。その咳を今すぐやめろ。やめねえか……」
sumitikan
DONEさねひめ、全年齢。モブあり、手も握りません。軽く戦って鬼の首が飛びます。隠祭実弥は暗い夜の中を歩いていた。鬼殺を一件済ませた後、爽籟から特に指令が出るでもない。近場の藤の家を案内するように頼み、街道からも離れた僻地をいつものように過ごしていた。
真暗な曇り空から湿ついた風が吹いていたから、いつか降るだろうと思っていたら、やはり雨粒が降って来た。雨脚はすぐに強くなり、突然の驟雨に為す術もなく打たれながら道を歩いた。路面はすぐに泥田のようにぬかるみ、雨宿りも何もなかった。
真冬の雨なら凍えるが、この頃の雨は温かい。ずぶ濡れになりながら道を歩いて、前方の路上の雨陰に影の塊のようなものが見えたので目を凝らした。
人が倒れていて、そこに屈みこんでいる、最初は人かと思ったが、助け起こす気配もなく、鬼が爪を伸ばす時の音がした。鬼だと断定し、走り寄る。
13513真暗な曇り空から湿ついた風が吹いていたから、いつか降るだろうと思っていたら、やはり雨粒が降って来た。雨脚はすぐに強くなり、突然の驟雨に為す術もなく打たれながら道を歩いた。路面はすぐに泥田のようにぬかるみ、雨宿りも何もなかった。
真冬の雨なら凍えるが、この頃の雨は温かい。ずぶ濡れになりながら道を歩いて、前方の路上の雨陰に影の塊のようなものが見えたので目を凝らした。
人が倒れていて、そこに屈みこんでいる、最初は人かと思ったが、助け起こす気配もなく、鬼が爪を伸ばす時の音がした。鬼だと断定し、走り寄る。
sumitikan
DONEさねひめ、全年齢。モブあり、手も握りません。軽く戦って鬼の首が飛びます。懐炉東京市の話だった。夜中に獅子舞が人を追いかけてきて、一口に頭から飲んでしまう。げっぷをして襲った人の衣類や履物を口から吐き出し、とことこ暗い板塀の角を曲がって去ってしまう。人の証言を繋ぎ合わせてそんな妖怪じみた鬼の話が持ち上がった。残された着物や履物を見て、周りの人は神隠しだという。人さらいが出るという。
この獅子舞は鬼殺隊士を襲わない。日輪刀を殊の外嫌い、制服を見ると退散して別の区に潜む。真夜中の鬼ごっこに人手を掛けられる訳もなく、判明してから一年後に実弥が加わり、三日経っても成果が出ない。
鬼殺隊士を見て逃げるから、殺の羽織も隊服も脱いだ。袷に羽織、刀もいつかの仕込み傘に替え、夜中をぶらりと一人で歩く。本所深川日本橋京橋浅草、獅子舞が出るのはその辺りに限られて、その夜は本所に足を運んだ。本所七不思議を思い出しながら、空から頻りに雪が落ちてきたので番傘を開いた。人通りはなかった。
13415この獅子舞は鬼殺隊士を襲わない。日輪刀を殊の外嫌い、制服を見ると退散して別の区に潜む。真夜中の鬼ごっこに人手を掛けられる訳もなく、判明してから一年後に実弥が加わり、三日経っても成果が出ない。
鬼殺隊士を見て逃げるから、殺の羽織も隊服も脱いだ。袷に羽織、刀もいつかの仕込み傘に替え、夜中をぶらりと一人で歩く。本所深川日本橋京橋浅草、獅子舞が出るのはその辺りに限られて、その夜は本所に足を運んだ。本所七不思議を思い出しながら、空から頻りに雪が落ちてきたので番傘を開いた。人通りはなかった。
sumitikan
DONEとある月夜の岩柱と風柱。短編、全年齢。モブあり、軽く戦って鬼の首が飛びます。とある月夜の岩柱と風柱鬼殺を終えて爽籟から次の任務の指令もなく、秋の月夜を見る余裕が実弥にはあった。虫の群れ鳴く中、月影に丈高い薄の穂が風に揺れ、十五夜の満月だ。実弥は風情を感じるような風流など押し殺している。草むらの中に誰も住まなくなった荒れ屋の傍に、萩が大きな黒い塊だった。その景色を行き過ぎる。
道なりに歩いていると、向かいの分かれ道からも歩いてくる気配と足音が分かる。足の速さが鬼殺隊士だった。それに続いて鈴を鳴らすような澄んだ音を連ならせて鎖が鳴っていた。悲鳴嶼だった。実弥は足を止め、悲鳴嶼もこちらに気付いていた。
秋の田舎の道端に行き会い、顔を見合わせる。柱となってからこれまでの功績を一欠けらも誇ることのない男が、淡々とした様子だった。
5238道なりに歩いていると、向かいの分かれ道からも歩いてくる気配と足音が分かる。足の速さが鬼殺隊士だった。それに続いて鈴を鳴らすような澄んだ音を連ならせて鎖が鳴っていた。悲鳴嶼だった。実弥は足を止め、悲鳴嶼もこちらに気付いていた。
秋の田舎の道端に行き会い、顔を見合わせる。柱となってからこれまでの功績を一欠けらも誇ることのない男が、淡々とした様子だった。
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DONE悲鳴嶼の短編、全年齢。モブあり、軽く戦って鬼の首が飛びます。浄土実弥の為の行灯を点け、悲鳴嶼は大きな手で行燈の覆いをかけた。いつもながら、まるで見えているかのように燈の世話をする。実弥は久々の岩屋敷の長火鉢の側で、するめを焙って酒を飲みながら、悲鳴嶼がゆっくりとした口調でかつての鬼殺の話をし始めた。
奥深い山中で修行している修験者が、真夜中に光り輝く神仏が来迎するのに出逢い、導きを得て浄土に向かい、それきり現世に戻らない。そういう噂のある山の話を聞いて、悲鳴嶼は早速向かった。
「それ、単なる噂話じゃねェんですかァ?」
「人を惑わすのにも昔から色々な手口がある。これはそのうちの一つではないかと思ったのだ。大正の世の中に神仏でもあるまい」
「どういう所が怪しいんですかァ?」
3695奥深い山中で修行している修験者が、真夜中に光り輝く神仏が来迎するのに出逢い、導きを得て浄土に向かい、それきり現世に戻らない。そういう噂のある山の話を聞いて、悲鳴嶼は早速向かった。
「それ、単なる噂話じゃねェんですかァ?」
「人を惑わすのにも昔から色々な手口がある。これはそのうちの一つではないかと思ったのだ。大正の世の中に神仏でもあるまい」
「どういう所が怪しいんですかァ?」
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DONE実弥の短編、全年齢。モブあり、軽く戦って鬼の首が飛びます。玄弥丸々とした月が沖天にあった。爽籟の導きで実弥は草の中を歩いていた。道は狭く、両側から背よりも高い草が覆い被さり、まるで壁のようだった。見通しも悪くて暗く、ざわざわと風が渡ると、壁のような黒い草が襲い掛かる波のように揺れた。
この先に廃村があり、隊士が既に十人ほどやられているという事だった。そういう所に柱が派遣されるのは当たり前だ。一体どんな難しい鬼なのかと、実弥は半ば期待していた。下弦か、もしかして上弦か。
そういう難しい鬼の話が自分の所に舞い込んでくるのを実弥は楽しみにしていた。自分の腕一本で鬼を退治できるのが嬉しい。世の中の為になっている手応えが夜の中に散って行く様を見るのが気持ちいい。
村に到着する、そこは開けていた。廃屋がぽつぽつと月光の下に黒かった。切り裂かれた隊服が地に落ちて風に吹かれて転がっている。実弥は村の中に入って行った。いる。
3236この先に廃村があり、隊士が既に十人ほどやられているという事だった。そういう所に柱が派遣されるのは当たり前だ。一体どんな難しい鬼なのかと、実弥は半ば期待していた。下弦か、もしかして上弦か。
そういう難しい鬼の話が自分の所に舞い込んでくるのを実弥は楽しみにしていた。自分の腕一本で鬼を退治できるのが嬉しい。世の中の為になっている手応えが夜の中に散って行く様を見るのが気持ちいい。
村に到着する、そこは開けていた。廃屋がぽつぽつと月光の下に黒かった。切り裂かれた隊服が地に落ちて風に吹かれて転がっている。実弥は村の中に入って行った。いる。
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DONE実弥の短編、全年齢。モブあり、軽く戦って鬼の首が飛びます。親戚不死川の墓に経文を上げる住職を頼めたのは、柱で実入りがいいからだ。父祖からの墓に弟妹の遺灰を皆詰め込んで、墓があるだけましだった。僧に頼んでまともな経をあげられるようになったのはここ近年の話になる。
彼岸会を終わらせた時に住職から話があった。不死川家の本家についてだった。
本家の話を実弥は初めて耳にした。本家筋は明治末年頃に佐倉の方に引っ越し、この菩提寺と縁続きの寺を檀那寺にしている。実弥に話とは何のことか、住職もはっきりしたことは言わなかった。とにかく実弥に用があるらしいので、そちらに向かうことを伝えてくれるよう頼んで、あちらの住所を聞いておいた。
鬼殺隊に家の用があると連絡を入れ、軽い旅装を整えて本家に顔を出すことにした。海沿いの街道筋の宿に入る。名刺を出して、宿帳は宿の人に書いて貰った。
4139彼岸会を終わらせた時に住職から話があった。不死川家の本家についてだった。
本家の話を実弥は初めて耳にした。本家筋は明治末年頃に佐倉の方に引っ越し、この菩提寺と縁続きの寺を檀那寺にしている。実弥に話とは何のことか、住職もはっきりしたことは言わなかった。とにかく実弥に用があるらしいので、そちらに向かうことを伝えてくれるよう頼んで、あちらの住所を聞いておいた。
鬼殺隊に家の用があると連絡を入れ、軽い旅装を整えて本家に顔を出すことにした。海沿いの街道筋の宿に入る。名刺を出して、宿帳は宿の人に書いて貰った。
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DONE実弥の短編、軽く戦って鬼の首が飛びます。依代「あんた、あんただ。あんたみたいなのがいい」
藤の家の門を出た所で、言葉と共に袖を掴まれた。必死の体で、しっかり握って離そうとしない。男の後ろには三、四人ほどの人が顔を連ねていた。誰も同じように村人の貧しい身なりをして、中の一人が済まなさそうに言った。
「鬼狩り様、すまねぇ。昼にはこの人を元の村に返そうと思ってたけど、どうにもこうにもならなくて。鬼を退治できるような偉丈夫に会いたいって、ずっと粘られてしまって……」
「すまねぇ、すまねぇ。この人はあの山の奥から来ていて、滅多に人の行き来もねえような所だから、世間知らずなものでして。鬼狩り様には全くご迷惑なことを……」
これから鬼殺に出向こうという所だった。と言って爽籟は任務を呼びたてて来ない。とにかく藤の家の外に出た夕焼けの真っ赤な中で、知らない男が必死に実弥の羽織の袖を掴んでいた。
3648藤の家の門を出た所で、言葉と共に袖を掴まれた。必死の体で、しっかり握って離そうとしない。男の後ろには三、四人ほどの人が顔を連ねていた。誰も同じように村人の貧しい身なりをして、中の一人が済まなさそうに言った。
「鬼狩り様、すまねぇ。昼にはこの人を元の村に返そうと思ってたけど、どうにもこうにもならなくて。鬼を退治できるような偉丈夫に会いたいって、ずっと粘られてしまって……」
「すまねぇ、すまねぇ。この人はあの山の奥から来ていて、滅多に人の行き来もねえような所だから、世間知らずなものでして。鬼狩り様には全くご迷惑なことを……」
これから鬼殺に出向こうという所だった。と言って爽籟は任務を呼びたてて来ない。とにかく藤の家の外に出た夕焼けの真っ赤な中で、知らない男が必死に実弥の羽織の袖を掴んでいた。
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DONEさねひめ、全年齢、手も握りません。モブあり、軽く戦って鬼の首が飛びます。耀哉の指示で実弥が偽の写真屋になり、悲鳴嶼さんが霊能者の似非坊主をやります。雰囲気です。ピクブラにも同じものを投稿しています。蟷螂館上座の耀哉が静かに湯呑で唇を湿し、じっとこちらを見つめてくる視線が優しい。あれからというもの、耀哉と会うとなぜか母親に会ったような気になってしまう実弥が、我ながら従順で大人しかった。
残暑の季節に鴉が軒先に飛び込むようにして呼び出され、大急ぎで産屋敷家に来た。控室で一緒になったのは悲鳴嶼で、彼がいるなら確かに鬼の話になる。隣り合わせに耀哉の前に、出された茶は一口も飲めなかった。当主はじっと悲鳴嶼と実弥を見て、ようよう口を開いた。
「二人とも、急な呼び出しなのによく来てくれたね」
笑みが深くなる。悲鳴嶼は見えない目でじっと耀夜を見つめているようだった。何でもないことのように耀哉が話しはじめた。
「今回は少し珍しい頼み事だったのと、他の隊士の手に余ってしまったから、行冥と実弥に行って見て来て欲しいんだ。頼み事と言うのは、鬼殺隊が色々と面倒を見て貰っている、さる男爵のお宅に病弱な御令息がいてね。普段は東京の外の別邸に静養していて、家庭教師をつけて引き籠っている。世間を知るために教養のある文化人を世代問わずに集めていて、絵画や彫刻を何点も見たり、洋物のレコードの感想を言い合ったりするらしい。文化人たちの集まりだという話だね。
22613残暑の季節に鴉が軒先に飛び込むようにして呼び出され、大急ぎで産屋敷家に来た。控室で一緒になったのは悲鳴嶼で、彼がいるなら確かに鬼の話になる。隣り合わせに耀哉の前に、出された茶は一口も飲めなかった。当主はじっと悲鳴嶼と実弥を見て、ようよう口を開いた。
「二人とも、急な呼び出しなのによく来てくれたね」
笑みが深くなる。悲鳴嶼は見えない目でじっと耀夜を見つめているようだった。何でもないことのように耀哉が話しはじめた。
「今回は少し珍しい頼み事だったのと、他の隊士の手に余ってしまったから、行冥と実弥に行って見て来て欲しいんだ。頼み事と言うのは、鬼殺隊が色々と面倒を見て貰っている、さる男爵のお宅に病弱な御令息がいてね。普段は東京の外の別邸に静養していて、家庭教師をつけて引き籠っている。世間を知るために教養のある文化人を世代問わずに集めていて、絵画や彫刻を何点も見たり、洋物のレコードの感想を言い合ったりするらしい。文化人たちの集まりだという話だね。
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DONEさねひめ、手も握りません。モブあり、軽く戦って鬼の首が飛びます。全年齢。ほとんど実弥。話の都合で鬼がなかなか消えません。ピクブラに同じものを投稿しています。豚箱夏でも山肌に残雪のある山里の野原を鬼殺に追い走り、鬼追う先の雑木林に小柄な女と分かる人影、実弥は走った。血相に鬼が怯えて血鬼術か刃物を数多投げ飛ばして来るのを全て躱して叩き落して、女に辿り着く前に切り捨てる心算だった。
「鬼だ、逃げろ」
声を掛けた女はこちらを見る素振りもない。啞か。実弥は滑り込むようにして女の前に回り込んだ。鬼は刃物を飛ばしながら向かってきて真正面、一刀のもとに断った。血飛沫と共に首がぽんと飛び、体は倒れた。血鬼術の刃が腕からにょきにょきと突き出していた。
女を振り向いた。呆然とした様子の、年頃と格好から見ると子守のようだった。実弥を見上げて何を語るでもなく、声を上げて泣き始めていた。泣いている女は苦手だった。
13555「鬼だ、逃げろ」
声を掛けた女はこちらを見る素振りもない。啞か。実弥は滑り込むようにして女の前に回り込んだ。鬼は刃物を飛ばしながら向かってきて真正面、一刀のもとに断った。血飛沫と共に首がぽんと飛び、体は倒れた。血鬼術の刃が腕からにょきにょきと突き出していた。
女を振り向いた。呆然とした様子の、年頃と格好から見ると子守のようだった。実弥を見上げて何を語るでもなく、声を上げて泣き始めていた。泣いている女は苦手だった。
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DONEさねひめ、手も握りません。モブあり、軽く戦って鬼の首が飛びます。全年齢。ピクブラに同じものがあります川息子藤の家を鴉の指令を受けて発った夜、鬼退治をしながら深い山奥に入って行った。葉の茂る森の木立は月の光も届かない真闇を歩くのも実弥は慣れた。ようやく朝ぼらけという頃に、この先の川を渡れば藤の家があると言う爽籟の案内に従った。
山道を進んで行った。藪が道に被るのを刈った跡があるから、この道はよく使われているのだろう。実弥の耳には瀬音がもう聞こえていた。ぬかるんだ道ともお別れだ、もうじき休める。
そう思って、川面の見える辺りに人影が数人ある。仔細ありげな様子だった。その中の一人が実弥に気付いて声を掛けてきた。
「おうい、あんた、橋は流れたよ」
そんな風に言って手招きをするので、実弥はその方に行った。人が五、六人も固まっていた。
13531山道を進んで行った。藪が道に被るのを刈った跡があるから、この道はよく使われているのだろう。実弥の耳には瀬音がもう聞こえていた。ぬかるんだ道ともお別れだ、もうじき休める。
そう思って、川面の見える辺りに人影が数人ある。仔細ありげな様子だった。その中の一人が実弥に気付いて声を掛けてきた。
「おうい、あんた、橋は流れたよ」
そんな風に言って手招きをするので、実弥はその方に行った。人が五、六人も固まっていた。