🫠 ぴ こ ぴ 🫠
DONE和解したけれどまだナチュラルではないおうちに遊びに行きます
シネマとポーク 中等部のころに何回か家には行った。彼の母親は忙しい人でなかなか会えなかったけれど、会えば優しい声を掛けてくれた。こんなふうに自然と会話ができる親子もいるのだな、と驚いたものだった。
人の家に遊びに行ったり、食事をしたり、というのはしたことがなかったから、もしかしたら自分は常識から外れた振る舞いもしていたかもしれない。だけれどいつも、嫌な顔もせずに迎えてくれていた。
「座って」
「懐かしいな」
親子二人で住んでいるのにどこも片付いていて、さっぱりしている。
「お母さん、忙しいだろうに家もきれいですごいな」
「家事は結構僕がやってるけどね」
「コウジも偉いよ。ありがと」
彼がオレンジジュースを目の前に置く。すっとストローとコースターを置く仕草が慣れている人間のそれで、つい感心してしまう。
4318人の家に遊びに行ったり、食事をしたり、というのはしたことがなかったから、もしかしたら自分は常識から外れた振る舞いもしていたかもしれない。だけれどいつも、嫌な顔もせずに迎えてくれていた。
「座って」
「懐かしいな」
親子二人で住んでいるのにどこも片付いていて、さっぱりしている。
「お母さん、忙しいだろうに家もきれいですごいな」
「家事は結構僕がやってるけどね」
「コウジも偉いよ。ありがと」
彼がオレンジジュースを目の前に置く。すっとストローとコースターを置く仕草が慣れている人間のそれで、つい感心してしまう。
60_chu
DOODLE金木犀と五線譜 ごめんと謝る声が聞こえて顔をあげると、深緑色のジャケットをはためかせながらヒロが駆けてくるのが見えた。薔薇園にいたのだろう。僕の前で息を整えているヒロからほのかな薔薇の香りがする。ベンチの真後ろで咲いている金木犀の香りと混じる。僕は腰を浮かせて横にいざった。座ったヒロは脚をぶらぶらさせて横目で僕を窺うように見つめた。
「待たせてごめん」
「全然待ってないよ。僕もさっき来たところ」
これは嘘で本当は少し、いや、だいぶ待ったかもしれない。でも、ヒロを待つ時間は苦痛でもなんでもなかった。今日はどんな話をしてどんなレッスンをしてどんな歌を歌おう。そればかりを考えていた。この瞬間を想いながら五線譜にシャープペンシルで書いて四小節分のメロディーを早く披露したくてたまらなかった。
626「待たせてごめん」
「全然待ってないよ。僕もさっき来たところ」
これは嘘で本当は少し、いや、だいぶ待ったかもしれない。でも、ヒロを待つ時間は苦痛でもなんでもなかった。今日はどんな話をしてどんなレッスンをしてどんな歌を歌おう。そればかりを考えていた。この瞬間を想いながら五線譜にシャープペンシルで書いて四小節分のメロディーを早く披露したくてたまらなかった。
60_chu
DOODLE過去作キンプリのコウヒロ
皮膚と窮屈 俺は半歩下がったのにコウジが一歩下がったから、さっきより密着する形になった。シャツ越しに右肩が扉に埋め込まれたガラスに触れる。無機質な冷たさと左腕のコウジの体温がアンバランスに染みこんでいく。また扉が開いた。車両内の人数が増えていく。そのたびに俺たちは反対側の扉へと追いやられて、コウジとの距離はまた近づいた。満員の弱冷車は人いきれと湿気であふれかえっている。
「辛くない、ヒロ」
「もう少し後の電車に乗ればよかったかな」
俺たちは彫像みたいなポーズで扉にすがりつく。コウジは上半身を俺の左腕に預けた。
「でも早く帰りたいでしょ」
この空気よりなにより湿ったコウジの声が耳朶で囁いた。体の芯から熱が這い上がる。スタジオの隅でこっそりしたキスの感触を思い出した。
1350「辛くない、ヒロ」
「もう少し後の電車に乗ればよかったかな」
俺たちは彫像みたいなポーズで扉にすがりつく。コウジは上半身を俺の左腕に預けた。
「でも早く帰りたいでしょ」
この空気よりなにより湿ったコウジの声が耳朶で囁いた。体の芯から熱が這い上がる。スタジオの隅でこっそりしたキスの感触を思い出した。
ak1r6
DOODLE何でも読める方向け/色々捏造改変速水ヒロじゃなかった どうやら、速水ヒロじゃなかったらしいんだ。俺の名前。産まれる前に、母さんが考えた名前は別にあったんだって。じゃあどうして「ヒロ」なのかって言うと、まぁ大した話じゃない。教会に送り届けられた赤ん坊の俺には手紙が添えてあったらしいんだけど、それがぐしゃぐしゃで、シスターは辛うじて読めた母さんの名前の一部を赤ん坊の名前だと思って、それで役所に届け出たんだって。それだけ。母さんは、どうして自分の名前なんか書いたんだろうな。連絡されても困るだろうに。母さんの名前のほかに、何が書いてあったかは分からない。
小学校で、自分の名前の由来を調べる宿題があっただろう。東京の学校に来たらその宿題が出て、母さんから『本当の名前』のことを聞いたんだ。少し経って母さんにその話をしたら忘れていたから、別にこだわりがある訳でもなさそうだけど。でも俺は覚えてるよ、母さんのくれたものだから。
1343小学校で、自分の名前の由来を調べる宿題があっただろう。東京の学校に来たらその宿題が出て、母さんから『本当の名前』のことを聞いたんだ。少し経って母さんにその話をしたら忘れていたから、別にこだわりがある訳でもなさそうだけど。でも俺は覚えてるよ、母さんのくれたものだから。
ak1r6
MENU▶︎web再録加筆修正+書き下ろし約40頁 (夭折した速水ヒ□の幽霊が、神浜コージの息子13歳のもとに現れる話)▶︎B6/66頁/600円 予定
▶︎再録は 下記3つ
酔うたびいつもするはなし(pixiv)/鱈のヴァプール(ポイピク)/せめてこの4分間は(ポイピク)
【禁プリ17】コウヒロ新刊サンプル「鱈のヴァプール」書き下ろし掌編「ヤングアダルト」部分サンプルです。(夭折した速水ヒロの幽霊が、神浜コージの息子13歳のもとに現れる話)
※推敲中のため文章は変更になる可能性があります
トイレのドアを開けると、速水ヒロがまっぷたつになっていた。45階のマンションの廊下には、何物にも遮られなかった九月の日差しが、リビングを通してまっすぐに降り注いでいる。その廊下に立った青年の後ろ姿の上半身と下半身が、ちょうどヘソのあたりで、50cmほど横にずれていたのだ。不思議と血は出ていないし、断面も見えない。雑誌のグラビアから「速水ヒロ」の全身を切り抜いて、ウェストのあたりで2つに切り、少し横にずらしてスクラップブックに貼りつけたら、ちょうどこんな感じになるだろう。下半身は奥を向いたまま、上半身だけがぐるりと回転してこちらを振り返り、さわやかに微笑む。
1931※推敲中のため文章は変更になる可能性があります
トイレのドアを開けると、速水ヒロがまっぷたつになっていた。45階のマンションの廊下には、何物にも遮られなかった九月の日差しが、リビングを通してまっすぐに降り注いでいる。その廊下に立った青年の後ろ姿の上半身と下半身が、ちょうどヘソのあたりで、50cmほど横にずれていたのだ。不思議と血は出ていないし、断面も見えない。雑誌のグラビアから「速水ヒロ」の全身を切り抜いて、ウェストのあたりで2つに切り、少し横にずらしてスクラップブックに貼りつけたら、ちょうどこんな感じになるだろう。下半身は奥を向いたまま、上半身だけがぐるりと回転してこちらを振り返り、さわやかに微笑む。
ak1r6
REHABILIKOPより後のコウヒロせめてこの4分間は ヒロの爪のぎざぎざに、もう長らく触れていない。青いプラスチックのベンチの上で、コウジは突然そのことに思い至った。
関係を修復してから、コウジはヒロの手に触れる機会があると、しばしば彼の爪を指先でなぞった。リアス海岸を思わせる繊細な凹凸を楽しんだ後、そっと指の腹を押し込むと、ハリネズミの牙のような尖りがコウジの肌に噛みついた。動物の子供がじゃれつくみたいに。そのうち、それがコウジの癖のひとつになった。自分のささくれを弄るのと同じ、無意味な手遊びだ。
あるとき、いつものようにヒロの爪のラインを撫でていると、カヅキがコウジの腕を取った。
「ヒロが痛がってるだろ」
コウジはずいぶん驚いた。だってヒロは、今まで一言もそんな事を言わなかったから。ヒロの顔を見ると、「深爪だからね」と苦笑してカヅキの言葉を否定しないので、コウジは静かにショックを受けた。どうやらカヅキの言うとおりらしい。カヅキが止めてくれなかったら、コウジの指先はいつかヒロの肉に到達して、無言のままヒロにひどい苦痛を与えたことだろう。
1674関係を修復してから、コウジはヒロの手に触れる機会があると、しばしば彼の爪を指先でなぞった。リアス海岸を思わせる繊細な凹凸を楽しんだ後、そっと指の腹を押し込むと、ハリネズミの牙のような尖りがコウジの肌に噛みついた。動物の子供がじゃれつくみたいに。そのうち、それがコウジの癖のひとつになった。自分のささくれを弄るのと同じ、無意味な手遊びだ。
あるとき、いつものようにヒロの爪のラインを撫でていると、カヅキがコウジの腕を取った。
「ヒロが痛がってるだろ」
コウジはずいぶん驚いた。だってヒロは、今まで一言もそんな事を言わなかったから。ヒロの顔を見ると、「深爪だからね」と苦笑してカヅキの言葉を否定しないので、コウジは静かにショックを受けた。どうやらカヅキの言うとおりらしい。カヅキが止めてくれなかったら、コウジの指先はいつかヒロの肉に到達して、無言のままヒロにひどい苦痛を与えたことだろう。
ak1r6
TRAININGRL後〜KOP前のコウヒロ鱈のヴァプール トーン。ビシャン。トーン。バシャン。
放課後アパートの扉を開けると、そこには上着を脱いだ制服姿のコウジが、新妻よろしく楚々としたエプロンを身に纏い、何やら神妙な面持ちで小さな玉ねぎを放ってはキャッチ、放ってはキャッチ、と[[rb:弄 > もてあそ]]びつつ思慮をめぐらせているところだった。
トーン。
コウジが手首を捻る。宙を舞った玉ねぎはその薄皮をピュンピュン震わせながらぎゅるぎゅる回転してまたコウジの手の平にビダン! と勢いよく着地した。
「早いな。もう夕飯の支度か」
「うん」
時計を見ると十六時を回ったところだった。カヅキが来るまで、まだ三時間もある。
カカカカカカ。いつにない機敏さで猛然と玉葱を切り刻むコウジはニコリともしない。というか俺を一瞥もしない。だが怒ってはいない、と、思う。たぶん。どうやら頭の中でレシピ検索を終え、作業に没頭しはじめたところらしい。
3320放課後アパートの扉を開けると、そこには上着を脱いだ制服姿のコウジが、新妻よろしく楚々としたエプロンを身に纏い、何やら神妙な面持ちで小さな玉ねぎを放ってはキャッチ、放ってはキャッチ、と[[rb:弄 > もてあそ]]びつつ思慮をめぐらせているところだった。
トーン。
コウジが手首を捻る。宙を舞った玉ねぎはその薄皮をピュンピュン震わせながらぎゅるぎゅる回転してまたコウジの手の平にビダン! と勢いよく着地した。
「早いな。もう夕飯の支度か」
「うん」
時計を見ると十六時を回ったところだった。カヅキが来るまで、まだ三時間もある。
カカカカカカ。いつにない機敏さで猛然と玉葱を切り刻むコウジはニコリともしない。というか俺を一瞥もしない。だが怒ってはいない、と、思う。たぶん。どうやら頭の中でレシピ検索を終え、作業に没頭しはじめたところらしい。