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    60_chu

    @60_chu

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    過去作

    キンプリのコウヒロ

    #コウヒロ
    kouhiro.

    皮膚と窮屈 俺は半歩下がったのにコウジが一歩下がったから、さっきより密着する形になった。シャツ越しに右肩が扉に埋め込まれたガラスに触れる。無機質な冷たさと左腕のコウジの体温がアンバランスに染みこんでいく。また扉が開いた。車両内の人数が増えていく。そのたびに俺たちは反対側の扉へと追いやられて、コウジとの距離はまた近づいた。満員の弱冷車は人いきれと湿気であふれかえっている。
    「辛くない、ヒロ」
    「もう少し後の電車に乗ればよかったかな」
     俺たちは彫像みたいなポーズで扉にすがりつく。コウジは上半身を俺の左腕に預けた。
    「でも早く帰りたいでしょ」
     この空気よりなにより湿ったコウジの声が耳朶で囁いた。体の芯から熱が這い上がる。スタジオの隅でこっそりしたキスの感触を思い出した。
    甲高いブレーキ音がして、電車が揺れた。隣にいた女の人の剥き出しになった肌が右腕に触れる。生温かい感触に鳥肌が立ちそうになる。同じ人の肌なのにどうして違うと感じるのだろう。汗で濡れた肌同士が重なる。知らない汗、知らない香り、知らない体温。彼女も不快だったのか離れようとみじろぐ。また、電車が揺れる。次に右腕が触れたのはコウジのクラッチバッグだった。それは彼女との境界線のように、俺たち二人とそれ以外をわけるように、厳然とそこにあった。乾いたフェイクレザーが皮膚を撫でる。
    「ヒロ、眼鏡外して」
     左手でどうぞ、とでも言いたげにコウジは凭れていた体を起こした。扉とコウジに挟まれる形になる。どうしてそんなことを言うのか理由を聞くこともできるのに、なぜか疑問の言葉は口から出なかった。そのまま言われたとおりに外す。電車のスピードが上がる。快速だからあと三駅分は止まらないはずだ。
    「なんだか今日は疲れちゃったね」
    「でも、夕飯は作ってほしいな」
     窓ガラスに後頭部が触れる。乗客が増えてもいないのにコウジが距離を詰めるから。コウジの右手がキャップをずらす。鍔が浮いて汗ばんだ銅色の前髪が露わになる。クラッチバッグが腕から離れて顔の横に翳された。世界が狭くなった気がする。密度が急に大きくなったような。呼吸を止めなければいけないような気がして、その予感は半分あたった。
     こんなにも湿度が高いのに触れたコウジの唇は乾いていて、そして熱かった。フェイクレザーとガラスの壁が俺たちを車内から切り離している。頬に押し付けられたガラスの冷気とコウジの体温の違いに体がおかしくなりそうだった。今更になって外でこんなことをしているという羞恥に皮膚が粟立つ。薄眼を開けると向かいから電車が来るのがわかった。電車がすれ違う間、ガラスは音を立てて揺れ続けた。眼鏡を握る左手に力が入る。耳障りな走行音が消えたころ、触れた時と同じようなさりげなさでキスは終わった。
     ほんの一瞬だったはずなのに、何時間もこうしていたような気がしたけれど、過ぎ去った駅の看板を見てそれが違うことを思い知る。
    「何が食べたい」
    「……ハンバーグ」
    「いいよ。じゃあ次の駅で降りてスーパーによろっか」
     俺たちは何事もなかったかのように平然としている。ガラスに残った結露だけが吐息の跡をくっきりと残していた。目的の駅名がアナウンスされる。親指でそっと露を拭ってひといきれを後にした。
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    60_chu

    DOODLE過去作

    Pと諸星きらりちゃん

    THEムッシュビ♂トさん(@monsiurbeat_2)の「大人しゅがきらりあむ」に寄稿させていただいた一篇の再録です。佐藤心、諸星きらり、夢見りあむの三人のイメージソングのEPと三篇の小説が収録された一枚+一冊です。私は諸星きらりちゃんの小説を担当しました。配信に合わせた再録となっております。
    ハロウィンのハピハピなきらりちゃんとPのお話になっております!よろし
    ゴーストはかく語りき シーツを被った小さな幽霊たちがオレンジと紫に染められた部屋を駆け回っている。きゃっきゃっとさんざめく声がそこにいるみんなの頬をほころばせた。目線の下から聞こえる楽しくてたまらないという笑い声をBGMに幽霊よりは大きな女の子たちは、モールやお菓子を手にパーティーの準備を続けているみたい。
     こら、危ないよ。まだ準備終わってないよ。
     そんな風に口々に注意する台詞もどこか甘やかで、叱ると言うよりは鬼ごっこに熱中し過ぎないように呼びかけているって感じ。
     あ、申し遅れました。私、おばけです。シーツではなくてハロウィンの。私にとっては今日はお盆のようなものなので、こうして「この世」に帰ってきて楽しんでいる人を眺めているんです。ここには素敵な女の子がたくさんいてとても素晴らしいですね。
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