kanbu_yfsy
DONE小さな町を照らす、淡く優しい光が金の髪を透かしている。静寂の暗闇を響かせるのは鳥に代わって虫達の声。窓から溢れる光を灯す家から、人々の声が微かに聞こえる。それらをどこか遠くに感じながら見上げれば、そこには微笑む月と煌々と輝く星。
少しの間彼らを眺めていた彼は視線を戻し、片足の爪先で地面をとんとんと軽く叩く。そのまま足を軽く動かしたかと思えば、繰り広げられたのは風を切る音を乗せた華麗な足捌き。目にも止まらぬ足技は虚空を静かに裂く。片足でとんっとその場で跳躍し、くるりと横に回る大振りの蹴りが風を起こした。
「……っ」
着地したと同時に地面に付いた彼の手が途端にぴきりと痛み、僅かに呻く。そんな彼の姿を密かに見守っていた、小さな庭園に生い茂る木々が風に揺られてざわざわと音を立てる。まるで、笑っているかのようだ。
10294少しの間彼らを眺めていた彼は視線を戻し、片足の爪先で地面をとんとんと軽く叩く。そのまま足を軽く動かしたかと思えば、繰り広げられたのは風を切る音を乗せた華麗な足捌き。目にも止まらぬ足技は虚空を静かに裂く。片足でとんっとその場で跳躍し、くるりと横に回る大振りの蹴りが風を起こした。
「……っ」
着地したと同時に地面に付いた彼の手が途端にぴきりと痛み、僅かに呻く。そんな彼の姿を密かに見守っていた、小さな庭園に生い茂る木々が風に揺られてざわざわと音を立てる。まるで、笑っているかのようだ。
kanbu_yfsy
DONEいらっしゃいませー。声を発すると、店内のあちこちから同様の文言が木霊する。
控えめな音量の入店音に開かれた自動ドアの方へ視線を向ければ、目に飛び込んできたのは眩しいくらいに煌めく金の髪。真っ黒なTシャツを身に纏い、すらりとモデルのように長い足を包むジーパン。ただそれだけの恰好なのに、ひどく様になる。そんな、いつもの派手な風貌のお客さんだった。
視線を自分の手元に戻し、中断していた仕事を再開する。傍らで積み重なるコンテナの中には、居場所を移りたがっている商品達が鎮座していた。
入店音が鳴り響いては決まり文句を口にして、時折品出し中の自分の背後を通っていくお客さんに留意したり、自分の眼前の棚を見たそうな雰囲気を放つお客さんを感じ取っては手を止め、仕事を進めていく。
3805控えめな音量の入店音に開かれた自動ドアの方へ視線を向ければ、目に飛び込んできたのは眩しいくらいに煌めく金の髪。真っ黒なTシャツを身に纏い、すらりとモデルのように長い足を包むジーパン。ただそれだけの恰好なのに、ひどく様になる。そんな、いつもの派手な風貌のお客さんだった。
視線を自分の手元に戻し、中断していた仕事を再開する。傍らで積み重なるコンテナの中には、居場所を移りたがっている商品達が鎮座していた。
入店音が鳴り響いては決まり文句を口にして、時折品出し中の自分の背後を通っていくお客さんに留意したり、自分の眼前の棚を見たそうな雰囲気を放つお客さんを感じ取っては手を止め、仕事を進めていく。
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DONE木々が陽光を遮り、影を落とす鬱蒼とした森の奥地。人が寄り付かなくなって久しい家屋は壁面のひびを気にも留めず、帰ることのない家人を待ち続けている。かつて小さな村があった面影をどこか残しつつも、そこは以前の風景である自然溢れた場所に姿を戻そうとしていた。
がさりと地面を埋め尽くさんとする落ち葉を踏み締めながら歩を進めれば、ぽつんと寂しく佇む教会があった。
「こんなところに教会なんてあったんだな。放棄されて数十年ってところか」
「けど、それにしては綺麗だね。もしかしたら誰かが管理してるのかな」
二人が訪れたその教会はあちこちを自然に侵食されているが、それでもどこか人の手が加えられているように見えた。不自然に切り取られた蔦、僅かに片付けられた名残のあるガラスの破片。心当たりがあるとすれば、ここから少し離れた町に滞在している敬虔な一人の神父だ。
3221がさりと地面を埋め尽くさんとする落ち葉を踏み締めながら歩を進めれば、ぽつんと寂しく佇む教会があった。
「こんなところに教会なんてあったんだな。放棄されて数十年ってところか」
「けど、それにしては綺麗だね。もしかしたら誰かが管理してるのかな」
二人が訪れたその教会はあちこちを自然に侵食されているが、それでもどこか人の手が加えられているように見えた。不自然に切り取られた蔦、僅かに片付けられた名残のあるガラスの破片。心当たりがあるとすれば、ここから少し離れた町に滞在している敬虔な一人の神父だ。
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TIREDちりんと鈴の音の鳴るような軽やかな声が耳を揺らす。音の方に視線を向ければ、二人の女性が口元を抑えてくすくすと笑みを零していた。そこに交わるのは爽やかでどこか清涼感のある耳に馴染んだ声。そうして彼もまた呆れた顔をしながらも笑う。人の良い笑みを浮かべた彼の腕を、女性が楽しげにぱしりと叩いた。ずきり。アレンの胸元が何らかの異常を知らせる。そっと胸に手を当ててみるが、未知なる感覚は掴めない。胸中が淀み、何かが喉元に引っ掛かっているような。加えてゼファーの笑い声が随分と遠い気がする。自覚できる異変はそれだけだ。
思い当たるのは、治癒術を多用した先日のこと。きっとその疲労のせいだから、ひと眠りすれば治るだろう。そしてアレンは、ゼファーに声を掛けることもせず背を向けた。アレン、と声を投げ掛けるゼファーに気付くこともなく。
「ゼファー。相談があるんだけど、いいかな?」
「ん? おう、なんだ」
振り向けば、不安な表情を浮かべる相棒がいた。何か心配事だろうか、とゼファーはアレンの言葉を待つ。
「その……ここ最近、身体がおかしいみたいなんだ」
「身体が? 調子でも悪いのか」
「体調が悪いわ 1130
kanbu_yfsy
DONEある日、相棒の髪型が可愛らしくなっていた。「……どうした、相棒。随分斬新なアレンジだな」
「あ、ゼファー」
ベンチに腰を下ろしていたアレンはゼファーの声に肩越しに振り返る。彼は眉尻を下げ、困ったように苦笑を浮かべていた。
彼の後頭部では、純白のフリルが付いた真っ赤なリボンの髪飾りが存在を主張している。鮮烈に咲き誇り焔を宿す花は、見る者の目を容赦なく奪うだろう。ふわりとした栗色の髪もサイドテール――と表現するには随分と短いが――にされている。極めつけに前髪も綺麗に分けられこれもまた可愛らしいヘアピンで留められており、額が少し顔を覗かせていた。
どうしてこうなったのか、と尋ねずとも粗方想像は付く。そんなゼファーの期待を裏切らず、アレンの口から語られたのはゼファーの脳裏に描かれていた通りの展開だった。
アレンの髪ってふわふわしてて素敵よね、とじっとアレンを見つめていたカナが言い出し、時々君が羨ましいよ、とサラが羨望の眼差しを向けて同意し、確かに、とリッピも深々と頷いて。そこからあれよという間に髪を遊ばれることになったらしい。瞳に星々の輝きを宿してすっかり乗り気になっている彼女達を止め 1910
ありさ
MEMO去年ゼファアレこれ1本しか書いてない(汗)ゼファアレ本通販のおまけをポイポイしておきます。
ザレイズ時空のお話。『占有と嫉妬』
アレンは治癒術に長けている。それは周知の事実で、何人もの怪我人がアレンの治癒術を受けようとやってくる度に、優しい俺の恋人は多少疲れていてもにっこりと微笑み、怪我をしている箇所に手を翳して治癒術を施す。いつか、勘違いする奴や、変な気を起こす輩が出てくるのではないか、心配で仕方がない。
今日も治癒術を施すアレンの背中をじっと見つめ、腕組みをしながらずっとそんなことを考えていた。
「…ちょっと、ゼファー!」
「…ぁ?」
気付くとこちらを振り返ったアレンが眉を吊り上げながら睨んでいた。怒っている姿も可愛い、などとは、本人には言えないが。普段にこやかにしていることが多いアレンの、そんな表情やあられもない姿を自分だけが知っている事実は嬉しいものだが、他者に向けられる慈しみは少しばかり嫉妬しても仕方ない。
「なんでそんなに怒ってるの?」
「は?怒ってねぇって」
「…まぁ、なんとなく理由は分かってるけど」
アレンはそう言うと、ゼファーの手を取った。
「ゼファーも怪我してたのに、後回しにしてごめんね」
「んなの擦り傷だって。舐めときゃ治る」
「駄目だよ」
もう片方 1073