Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    kanbu_yfsy

    @kanbu_yfsy

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    kanbu_yfsy

    ☆quiet follow

    #ゼファアレ
    zephyr

    ある日、相棒の髪型が可愛らしくなっていた。

    「……どうした、相棒。随分斬新なアレンジだな」

    「あ、ゼファー」

    ベンチに腰を下ろしていたアレンはゼファーの声に肩越しに振り返る。彼は眉尻を下げ、困ったように苦笑を浮かべていた。
    彼の後頭部では、純白のフリルが付いた真っ赤なリボンの髪飾りが存在を主張している。鮮烈に咲き誇り焔を宿す花は、見る者の目を容赦なく奪うだろう。ふわりとした栗色の髪もサイドテール――と表現するには随分と短いが――にされている。極めつけに前髪も綺麗に分けられこれもまた可愛らしいヘアピンで留められており、額が少し顔を覗かせていた。
    どうしてこうなったのか、と尋ねずとも粗方想像は付く。そんなゼファーの期待を裏切らず、アレンの口から語られたのはゼファーの脳裏に描かれていた通りの展開だった。
    アレンの髪ってふわふわしてて素敵よね、とじっとアレンを見つめていたカナが言い出し、時々君が羨ましいよ、とサラが羨望の眼差しを向けて同意し、確かに、とリッピも深々と頷いて。そこからあれよという間に髪を遊ばれることになったらしい。瞳に星々の輝きを宿してすっかり乗り気になっている彼女達を止められるはずもなく、抵抗する術も持たず、というよりアレンは抵抗することすら選択肢にはなかったのだろう。

    「みんな楽しそうだから好きにしてもらってたら、こうなっちゃって……」

    嫌だけど、という訳でもなく楽しそうだからという理由で好きにさせるのも相棒らしい。乾いた笑いを零すアレンを他所に自分が標的にされずに済んで良かったと密かに安堵の息を吐いた。

    「そりゃ災難だったな。まぁそれなりに可愛くなってるぜ、相棒」

    「ゼファー、声が笑ってるよ」

    窘める声色に軽く謝るが、アレンは困った笑みを浮かべて小さく溜息を吐く。
    そう見えるのはアレンの顔が幼いからなのか、それともゼファーが彼に対して特別な感情を抱いているからなのか。その問いに対して明確な答えを持つのは、この場にただ一人。

    「で、犯人達はどこに行ったんだ?」

    「もっと良い感じの髪飾りとかヘアピンを探してくるって、みんな意気込んで雑貨屋さんに向かったよ」

    どうやらまだ終わっていなかったらしい。リッピはお世話スイッチが入ってしまったのだとして、女子達のお洒落に関する執念には恐れ入る。いや、小さな町とはいえ人通りのある公衆の面前で、この大胆な髪型でたった一人待っていたアレンにも感服するが。
    アレンがこれ以上の惨状になるのも少しは見たい気もするが、さすがに可哀相だろう。アレンの前髪からするりとヘアピンを取り上げると、留められていた前髪がふわりと落ちる。

    「ほら、後ろのも取ってやるから前向けよ」

    「え、いいの?」

    「女子の買い物ってのは時間が掛かるもんだろ。ついでに自分達の分も選んでるだろうしな」

    「確かに……もしかしたらそっちが本来の目的かもしれないね。じゃあ、一度取ってもらおうかな」

    「一度って、まだ遊ばれるつもりでいるのかよ……自己犠牲が過ぎるっての」

    存在感を放っていたリボンを取り、次いでサイドテールも解いた。支えを失ったひと房がへたりと萎れるが元の形に戻ることはなく、癖が付いてしまっている髪を手癖で梳いてやる。
    彼の髪をよく観察すれば、恐らく彼女達が櫛を使って整えたのだろう。髪の一本も絡まっておらず、一度の引っ掛かりもなくするりと指を通す。細い髪質らしいアレンの髪は手触りが良く、指が擦り抜ける感覚が心地いい。なるほど、みんなが夢中になるのも理解ができる。
    特別なケアをせずとも艶を保っているアレンの髪が陽光に輝いている。暗めで落ち着いたブラウンの色を持つそれはふわりとしており、いつまでも触れていられそうだ。

    「ふふ、次はゼファーの髪もこうされるかもしれないね。もしかしたら二人一緒に好きにされるかも」

    「冗談。あんな強敵、さすがの俺もお前に相手を任せて逃げちまうぞ」

    ずるいなぁ、と言いながらも髪を弄ばれるゼファーの姿を想像したらしいアレンが肩を震わせてくすくすと笑いを零している。笑いすぎだ、と頭を軽く小突いてやれば、誠意の込められていない謝罪がゼファーの耳に届いた。
    そんな彼に嘆息しつつも整えるという名目で髪に触れ続ける。今思えば、こうしてアレンの髪にじっくり触れることはなかったかもしれない。おかげでまた相棒の好ましいところを見つけてしまったようだ。
    彼がこちらに振り向かないのを良いことに、愛おしさの衝動のまま――掬い上げたアレンの髪に静かに、口付けをひとつ。
    太陽の光を透かす髪が、何よりも輝いていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💕☺🙏💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    ありさ

    MEMO去年ゼファアレこれ1本しか書いてない(汗)
    ゼファアレ本通販のおまけをポイポイしておきます。
    ザレイズ時空のお話。
    『占有と嫉妬』

     アレンは治癒術に長けている。それは周知の事実で、何人もの怪我人がアレンの治癒術を受けようとやってくる度に、優しい俺の恋人は多少疲れていてもにっこりと微笑み、怪我をしている箇所に手を翳して治癒術を施す。いつか、勘違いする奴や、変な気を起こす輩が出てくるのではないか、心配で仕方がない。
     今日も治癒術を施すアレンの背中をじっと見つめ、腕組みをしながらずっとそんなことを考えていた。

    「…ちょっと、ゼファー!」
    「…ぁ?」

     気付くとこちらを振り返ったアレンが眉を吊り上げながら睨んでいた。怒っている姿も可愛い、などとは、本人には言えないが。普段にこやかにしていることが多いアレンの、そんな表情やあられもない姿を自分だけが知っている事実は嬉しいものだが、他者に向けられる慈しみは少しばかり嫉妬しても仕方ない。

    「なんでそんなに怒ってるの?」
    「は?怒ってねぇって」
    「…まぁ、なんとなく理由は分かってるけど」

     アレンはそう言うと、ゼファーの手を取った。

    「ゼファーも怪我してたのに、後回しにしてごめんね」
    「んなの擦り傷だって。舐めときゃ治る」
    「駄目だよ」

     もう片方 1073

    recommended works

    ありさ

    MEMO去年ゼファアレこれ1本しか書いてない(汗)
    ゼファアレ本通販のおまけをポイポイしておきます。
    ザレイズ時空のお話。
    『占有と嫉妬』

     アレンは治癒術に長けている。それは周知の事実で、何人もの怪我人がアレンの治癒術を受けようとやってくる度に、優しい俺の恋人は多少疲れていてもにっこりと微笑み、怪我をしている箇所に手を翳して治癒術を施す。いつか、勘違いする奴や、変な気を起こす輩が出てくるのではないか、心配で仕方がない。
     今日も治癒術を施すアレンの背中をじっと見つめ、腕組みをしながらずっとそんなことを考えていた。

    「…ちょっと、ゼファー!」
    「…ぁ?」

     気付くとこちらを振り返ったアレンが眉を吊り上げながら睨んでいた。怒っている姿も可愛い、などとは、本人には言えないが。普段にこやかにしていることが多いアレンの、そんな表情やあられもない姿を自分だけが知っている事実は嬉しいものだが、他者に向けられる慈しみは少しばかり嫉妬しても仕方ない。

    「なんでそんなに怒ってるの?」
    「は?怒ってねぇって」
    「…まぁ、なんとなく理由は分かってるけど」

     アレンはそう言うと、ゼファーの手を取った。

    「ゼファーも怪我してたのに、後回しにしてごめんね」
    「んなの擦り傷だって。舐めときゃ治る」
    「駄目だよ」

     もう片方 1073