小さな町を照らす、淡く優しい光が金の髪を透かしている。静寂の暗闇を響かせるのは鳥に代わって虫達の声。窓から溢れる光を灯す家から、人々の声が微かに聞こえる。それらをどこか遠くに感じながら見上げれば、そこには微笑む月と煌々と輝く星。
少しの間彼らを眺めていた彼は視線を戻し、片足の爪先で地面をとんとんと軽く叩く。そのまま足を軽く動かしたかと思えば、繰り広げられたのは風を切る音を乗せた華麗な足捌き。目にも止まらぬ足技は虚空を静かに裂く。片足でとんっとその場で跳躍し、くるりと横に回る大振りの蹴りが風を起こした。
「……っ」
着地したと同時に地面に付いた彼の手が途端にぴきりと痛み、僅かに呻く。そんな彼の姿を密かに見守っていた、小さな庭園に生い茂る木々が風に揺られてざわざわと音を立てる。まるで、笑っているかのようだ。
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