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    kanbu_yfsy

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    #ゼファアレ
    zephyr

    いらっしゃいませー。声を発すると、店内のあちこちから同様の文言が木霊する。
    控えめな音量の入店音に開かれた自動ドアの方へ視線を向ければ、目に飛び込んできたのは眩しいくらいに煌めく金の髪。真っ黒なTシャツを身に纏い、すらりとモデルのように長い足を包むジーパン。ただそれだけの恰好なのに、ひどく様になる。そんな、いつもの派手な風貌のお客さんだった。
    視線を自分の手元に戻し、中断していた仕事を再開する。傍らで積み重なるコンテナの中には、居場所を移りたがっている商品達が鎮座していた。
    入店音が鳴り響いては決まり文句を口にして、時折品出し中の自分の背後を通っていくお客さんに留意したり、自分の眼前の棚を見たそうな雰囲気を放つお客さんを感じ取っては手を止め、仕事を進めていく。
    すると突如、背後から控えめにすんません、と声を掛けられた。返事をしながら振り向けば、そこにはブロンズの髪。

    「あのー、ここにある商品、取っていいですか?」

    金髪のお客さんが指差したのは、コンテナの隅に追いやられていた商品だった。
    しまった。売り切れていた商品を優先して並べることを忘れていた。慌てて謝罪の言葉を並べながら彼に商品を手渡す。すると彼は、っす、と軽く会釈しながら商品を籠に入れてその場を後にした。
    彼――金髪のお客さんは、大体決まった時間帯に頻繁に訪れる。彼のお会計を担当した際に毎回ありがとうございますと良い声で言われることと、目立つ風貌に反して言動が丁寧なので覚えてしまった。偏見はよくない。
    空になったコンテナを畳んでしばらく品出しを熟していると、お客さん達がレジに並び始めたので作業の手を止め慌ててレジの方へ参戦する。レジ休止中のPOPスタンドを引っ込め、お次でお待ちのお客様どうぞ、と声高に言葉を投げ掛ければ、レジにやってきたのは彼だった。
    カウンターに置かれた籠の中に入っていたのは、毎日のように買われているハンバーグ弁当に冷凍食品、少量のお菓子と、少しの缶ビール。以上7点で1852円でございます。商品を袋に入れつつ、ポイントカードやアプリはお持ちでしょうか、と彼が持っていないことを知りつつも流れ作業で尋ねるが、やはり普段と変わらない返答をされたので、やっぱりな、と口には出さず呟いた。
    カードで支払いを済ませた彼にレシートを手渡せば、ありがとうございます、と感謝の言葉を去り際に述べて去っていく。うーん、やっぱりイケメンだ。イケメンはそんなさりげない言動も一段と格好よく見えてしまうので悔しくなってしまう。
    ありがとうございましたー。店員の声を背に、金髪の青年は闇へと消えていった。



    いらっしゃいませー。今日もまた、店員の声が連鎖する。
    そろそろ日付も変わろうかという時刻。閑散とした店内に姿を現したのは、例の金髪のお客さんだった。
    どんなお仕事をされているか見当もつかないが、今日は残業でもあったのだろうか。店内清掃を相方に任せ、カウンターから店内に僅かにいらっしゃるお客さんの動向を目で追いながら、そういえば、とふと思い出す。
    先程立ち読みされていた方が手に取っていた雑誌を乱雑に扱っていたので、後でレジを離れる際に確認しておかなければ。そのお客さんはあろうことかそのままいくつか商品を入れた籠をまだお会計中のお客さんがいるカウンターに我が物顔で割り込み置いたばかりか、会計を急いてきた。早くして、という余計な一言のおまけ付き。めでたくクソ客認定だ。そんなたった一人のせいでストレスが爆発してしまうので勘弁願いたい。コンビニ勤務である以上仕方がない、と言えばそれまでなのだが。虚無を見つめてしまうのも仕方がないと思ってほしい。
    お願いします、と投げ掛けられた声にはっと意識を戻す。金髪のお客さんがレジにやってきていたので慌てて返事をしつつ商品を通していく。
    いつものお弁当に菓子パン。インスタント麺。缶ビール。そして最後に、控えめなデザインのパッケージをした製品。一見すると煙草のようにも見えるサイズの箱だが、そこには0.03と主張された数字が書かれている。
    店員として長く勤めているので今更誰が何を買おうと動揺することなどない。ない、が。そうか、と深く納得している自分がいた。
    もしかして有名なモデルか俳優なんじゃないかと勘繰ってしまうほどの端正な顔付きとスタイルの良い体躯。普段の態度の良さに加えて新人のバイトの子が間違ったお釣りを渡してしまった時も、慌てて頭を下げる本人に対してさらりとフォローの言葉を述べて柔軟な態度で対応している。なるほど、よく考えなくても世界が放っておくはずがない。
    さぞ素敵な恋人がいるのだろう。同棲でもしているのだろうか。いやいや、個人の詮索は良くない、と少し伸びた前髪を振り払うフリをして首を軽く横に振った。
    こちらの邪な思考など露知らず。金髪のお客さんはいつもの流れでお会計を終えて踵を返す。
    ああ、くそう、イケメンめ。敵うはずもないのにどこか悔しさを胸に、しかし幸せを願う気持ちを抱きながら普段と変わりなく声に出す。ありがとうございました。またお越しくださいませ。



    いらっしゃいませー。何の変哲もない、誰もが聞き流しているであろう声がまた今日も木霊する。
    夜の帳が下り、仕事帰りの人達が押し寄せていた波もすっかり凪いだ頃。入店音を鳴り響かせる自動ドアの方へと視線を向ければ、恋人持ちと推測されるいつもの金髪の好青年のお客さん――が、なんと、人を連れてきているではないか。
    彼と肩を並べて来店されたのは、ふわりとした栗色の髪に、穏やかな雰囲気を纏ったこれまた好青年だった。金髪のお客さんとは異なり、多分あれはみんなに分け隔てなく好かれる感じだ。
    レジを担当していた自分は思わず近くの棚を整理していた後輩に視線を投げ掛ける。突然の展開に自分と同じく目を丸くしていた後輩は緩慢にこくりと頷いた。何の頷きだ。
    お連れ様と共に店内を練り歩く彼をちらちらと盗み見ながら、彼らの話に密かに聞き耳を立てた。自慢じゃないが自分は地獄耳だと称されている。先輩の前で悪口言えないっすねぇとこの場にいる後輩に言われた程だ。そもそも本人の目の前で悪口を言うな。
    どうやら距離感と話の内容からして、見た目的には相反する二人だが彼らは親しい友人同士であるらしかった。
    映画観るんだしポップコーンでも買うか、だとか、でも夕飯食べてないよね、だとか、これ前に食べたけど美味しかったよ、だとか。さほど広くはない静かな店内に彼らの会話が微かに響く。

    「あ、ゼファー。確かこのコーヒー好きだったよね。新作出てるよ」

    「へぇ、試しに飲んでみるか。アレンもアイスいるか? 二個買えば割引だってよ」

    大事件だ。とうとう彼らの名前を知ってしまった。いや、だからどうとかそういうわけではないのだが。好青年の二人が並んで歩いている光景はどこか眩しい、なんて思っている場合ではなかった。
    後輩がっしゃいませーと口にしながら二人の近くの棚の整理を始めた。あからさますぎる。後できつく言っておかねばならない。そして、少しだけ話を聞こう。少し。
    店内を一通り見た彼らはしばらくして商品が零れ落ちそうなほどに詰められた籠を持ってカウンターに訪れた。二人によるお願いします、の一言おまけ付きだ。駆け付けてきた後輩に袋詰めを任せながら次々と商品をレジに通していく。
    すると、視界の端で何かを目にした茶髪のお客さんが一瞬目を丸くしたのが見えた。その様子を怪訝に思った金髪のお客さんがどうした、と彼に声を投げ掛ける。

    「あ、えぇと……今ここで話すことじゃない、かな……」

    「……ああ、あれか。確かにそうか。また後で、な」

    ほとんどを袋に詰めてしまっているのでわからないが、何らかの商品を指して意味深な言葉を紡ぎつつ意地悪そうに笑う金髪のお客さんに、少し恥ずかしげに赤らめた顔を背けて押し黙ってしまった茶髪のお客さん。
    はて、何の話をしているのだろう。当人同士にしかわからない話だろうか。
    なんて呑気に考えていたのも束の間。あろうことか、自分はここ最近で一番の察しの良さを発揮してしまった。
    先程食品類に紛れてレジに通した0.02と書かれた小さな箱。恋人がいることがつい先日発覚した金髪のお客さん。顔を赤くした茶髪のお客さん。ここから導き出される答えは――いや待て、これ以上はいけない。
    今自分はきちんとお値段をお伝えできているのだろうか。脳が宙に浮いてしまっているが如くふわふわとしてしまっている。意識が完全に彼らに持っていかれてしまった。まずい、無心にならなくては。はっと我に返った自分は空へ飛び立とうとしている店員の己をどうにか引き摺り戻した。
    二つに分けた袋を二人に渡すと、金髪のお客さんはすんません、ありがとうございます、と普段より弾んだ声を返した。続いて会釈をしてお礼を述べながら去っていく茶髪のお客さんは人好きのする柔和な笑みを向けてくれたものの、どこか居心地が悪そうだ。
    激しい嵐のような、爽やかな夏風のような、そんな一時の名残をとどめて二人は肩を並べ、闇夜に姿を消した。
    ありがとうございました。末永くお幸せに。
    最後の一言が声に出てしまっていたかどうか、もはや今となっては記憶が定かではない。
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    ありさ

    MEMO去年ゼファアレこれ1本しか書いてない(汗)
    ゼファアレ本通販のおまけをポイポイしておきます。
    ザレイズ時空のお話。
    『占有と嫉妬』

     アレンは治癒術に長けている。それは周知の事実で、何人もの怪我人がアレンの治癒術を受けようとやってくる度に、優しい俺の恋人は多少疲れていてもにっこりと微笑み、怪我をしている箇所に手を翳して治癒術を施す。いつか、勘違いする奴や、変な気を起こす輩が出てくるのではないか、心配で仕方がない。
     今日も治癒術を施すアレンの背中をじっと見つめ、腕組みをしながらずっとそんなことを考えていた。

    「…ちょっと、ゼファー!」
    「…ぁ?」

     気付くとこちらを振り返ったアレンが眉を吊り上げながら睨んでいた。怒っている姿も可愛い、などとは、本人には言えないが。普段にこやかにしていることが多いアレンの、そんな表情やあられもない姿を自分だけが知っている事実は嬉しいものだが、他者に向けられる慈しみは少しばかり嫉妬しても仕方ない。

    「なんでそんなに怒ってるの?」
    「は?怒ってねぇって」
    「…まぁ、なんとなく理由は分かってるけど」

     アレンはそう言うと、ゼファーの手を取った。

    「ゼファーも怪我してたのに、後回しにしてごめんね」
    「んなの擦り傷だって。舐めときゃ治る」
    「駄目だよ」

     もう片方 1073