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    kanbu_yfsy

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    kanbu_yfsy

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    #ゼファアレ
    zephyr

    木々が陽光を遮り、影を落とす鬱蒼とした森の奥地。人が寄り付かなくなって久しい家屋は壁面のひびを気にも留めず、帰ることのない家人を待ち続けている。かつて小さな村があった面影をどこか残しつつも、そこは以前の風景である自然溢れた場所に姿を戻そうとしていた。
    がさりと地面を埋め尽くさんとする落ち葉を踏み締めながら歩を進めれば、ぽつんと寂しく佇む教会があった。

    「こんなところに教会なんてあったんだな。放棄されて数十年ってところか」

    「けど、それにしては綺麗だね。もしかしたら誰かが管理してるのかな」

    二人が訪れたその教会はあちこちを自然に侵食されているが、それでもどこか人の手が加えられているように見えた。不自然に切り取られた蔦、僅かに片付けられた名残のあるガラスの破片。心当たりがあるとすれば、ここから少し離れた町に滞在している敬虔な一人の神父だ。
    無垢な純白に覆われていた建物はすっかり変色し、壁面に飾られている絵画は色褪せ今にも落ちてしまいそうなほど傾いている。所々崩れた天井からは陽光が差し込み、その光景は寂寥感が漂っていた。
    今もなお整然と並んでいるベンチには、割れた窓の隙間から舞い落ちた葉が人間の代わりに腰を下ろす。朽ちて砕けた柱からは破片が散らばり、この教会を象徴するであろう人の形をした彫刻から生えている羽は、無残にも砕け落ちていた。二階へと続くはずの階段は跡形もなく崩落しており、もはや二階へ行く術はない。
    こつこつ、と足音が静寂な教会に反響する。埃を被った祭壇には、一冊の本が置き去りにされたままだ。アレンがそれを手に取って埃を払うと聖書の文字が現れる。劣化した聖書の表紙は所々が破けており、中身は黄ばんでしまっていた。
    意味を成さなくなった教会に、今はただ二人の足音だけが響く。踏み締められた破片が、ざり、と音を立てた。

    「ここで、いろんな人たちが祈りを捧げてたのかな」

    「村の規模に対してこれだけの教会だ。さぞ敬虔な人間達がいたんだろうな」

    不気味であり、神聖でもある。かつての面影を残しながらも、人々から忘却された教会は今も静謐に祈りを待ち続けている。
    一通り内部の様子を見た二人はまるで吸い込まれるように祭壇の前に立った。廃墟と化した村が魔獣の巣窟になっていると話を聞き周囲に蔓延っていた魔獣を蹴散らしたが、どうやらこの教会の内部は侵されずにいたらしい。教会の朽ち果て方は、あまりに自然のものだった。
    空高く作られた天井は崩落した一部を除き残ったままだが、どこか物悲しい。
    ――人間達が祈りを捧げる神が実在していることを、天より遣わされた御使いの二人は当然知っている。だが、思想や進化に影響を及ぼしてしまうこともあり得るため、神の存在は人間達には口外無用の真実だ。
    人間の可能性を信じたい――神王の慈悲は深すぎる。当初、災厄の種を浄化する任務を受け持ったゼファーは腑に落ちなかったが、今ならわかる。人間達には、確かに可能性がある。聖なる心を、正しい道への進化へ導ける可能性が。
    そしてそんな人間達の尊い祈りが確かに届いていることも、二人は知っていた。
    眩しいほどの、光が当たる。原型を保ったままのステンドグラスを透かす陽光が、見上げるアレンを煌々と照らし出す。幻想的で美しいその姿は、この地に舞い降りた救世主のようだ。彼を見つめるゼファーに光は届かず、暗い影が落ちていた。
    ゼファーは視線を正面に戻し、口を開く。

    「そういや、人間達はここで愛を誓い合うらしいな」

    「みたいだね。実際に見たことはないけど……きっと、すごく幸せに満ちた光景なんだろうなぁって思うよ」

    笑顔溢れる人間達が集う光景を想像したアレンは、静かに微笑みを落とす。
    かつて、いろんな人が祈りを捧げ、救いを求め、愛を誓ったこの場所。花が舞い、笑顔が溢れた日々を、様々な人々が見届けてきたのだろう。

    「……せっかくだ。俺達もやってみるか?」

    ゼファーのその一言に、アレンがきょとんと目を丸くした。今の声がやけに響いた気がして、背けたままのゼファーの顔に徐々に熱が帯びてくる。返答のないアレンを横目で見て、誤魔化すように頭をがしがしと掻いた。

    「何だよ。悪いモンは食ってねぇぞ」

    「……うん、知ってるよ。お昼はハンバーグだったよね」

    真面目な相棒に真面目に返されてしまった。柄じゃないって言いたいのか、と気恥ずかしさが増したゼファーの言葉を遮り、アレンが微笑む。

    「ううん、そうじゃなくて。……嬉しいなって、思ったんだ」

    けど、確かに柄じゃないね。続けてどこか可笑しそうに顔を綻ばせた相棒に、一言余計だと返して肘で軽く突く。

    「一緒に誓おう、ゼファー」

    こちらを真っ直ぐに見つめながらそう告げられると、まるで愛の告白をされたみたいだ。ああくそ、こんなつもりじゃなかったってのに。やっぱり相棒には敵わない。悪態を吐きながら、ゼファーはアレンと向かい合った。
    こういった場では大概、神や参列者に誓うらしいが生憎ふたりぼっちの誓いの儀だ。神――レオーネ様が脳裏を過ぎったが、なんだかそれも少し違う気がして――

    「じゃあ、お前に誓うよ」

    「うん。僕も、ゼファーに誓う」

    互いの手を出していつものように拳をぶつけ合う――のではなく、二人は互いの手を祈りを捧げる形にして、そっと包み込むように重ね合わせた。

    「俺は……あー、病める時も、健やかなる時も、……それから、何だ?」

    照れ臭さを誤魔化しながら言葉を紡ぐゼファーに、アレンは微笑みながら答える。

    「確か、富める時も、じゃなかったかな? 文献で読んだことがあるよ」

    「どんな文献を読んでるんだよ、お前は……」

    人間に負けず劣らず地上の本に対して探求心の高いアレンのことだ。人間の暮らしについての書物でも読んだのだろうか。そんな文献を熱心に読み進めているアレンの姿を想像して、呆れるやら愛おしいやら入り混じった感情を抱いてゼファーは堪らず降格を吊り上げた。
    そんなお前だからこそ、俺は――

    「……富める時も――いつも無茶しがちで、本当にすごい奴なのに褒められ慣れてない、誰よりも優しいお前を愛し、アレンとこの道を……ずっと一緒に歩いていくことを、誓う」

    ゼファーの手に、力が込められる。光を反射する紫水晶の嵌められた瞳から放たれるその眼差しは、あまりにも真っ直ぐだった。
    彼の嘘偽りのない言葉と瞳の奥に灯る熱に、僅かに頬を染めたアレンがにこりと笑んだ。ゼファーの気持ちを噛み締めながら瞳を閉じたアレンは緩やかに瞼を押し上げると、次は僕の番だね、とゼファーを真っ直ぐな眼差しで射抜く。

    「僕は、病める時も、健やかなる時も、富める時も。駆け抜けていく背中が頼もしくて、僕のことばかり褒める、照れ屋で、とても優しい君を愛し――どんな時も、ゼファーの手を離さないことを誓うよ」

    きらりと光る綺麗な翠緑の瞳には、柔和な微笑みに対して強固な意志が宿っていた。
    雲間から蒼空が顔を出し、陽光が降り注ぐ。影が落ちていたゼファーの身体に、光が射した。
    誓いを結んだ彼らはお互いにふっと笑って、どちらからともなく口付けを交わす。ほんの数秒、唇を重ね合わせた二人は、幸福に満ちた表情を浮かべていた。

    「……それじゃ、そろそろ行くか」

    「うん、そうだね」

    彼らは手を繋いだまま、教会を後にする。平然とした様子のゼファーの耳が赤く染まっていることに気付いて、アレンもまた頬を染めながらひとつ笑いを零した。
    頬を撫でる風が吹く。崩れた扉が開け放たれたままの教会の中に、どこからか運ばれてきた花弁が舞った。
    彼らを祝福する拍手も歓声もない。けど、それで十分だ。秘められた誓いの言葉は彼らだけのもの。未来永劫破られることのない彼らの誓いを聞き届けたものは、誰一人して存在しなかった。
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    ありさ

    MEMO去年ゼファアレこれ1本しか書いてない(汗)
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    『占有と嫉妬』

     アレンは治癒術に長けている。それは周知の事実で、何人もの怪我人がアレンの治癒術を受けようとやってくる度に、優しい俺の恋人は多少疲れていてもにっこりと微笑み、怪我をしている箇所に手を翳して治癒術を施す。いつか、勘違いする奴や、変な気を起こす輩が出てくるのではないか、心配で仕方がない。
     今日も治癒術を施すアレンの背中をじっと見つめ、腕組みをしながらずっとそんなことを考えていた。

    「…ちょっと、ゼファー!」
    「…ぁ?」

     気付くとこちらを振り返ったアレンが眉を吊り上げながら睨んでいた。怒っている姿も可愛い、などとは、本人には言えないが。普段にこやかにしていることが多いアレンの、そんな表情やあられもない姿を自分だけが知っている事実は嬉しいものだが、他者に向けられる慈しみは少しばかり嫉妬しても仕方ない。

    「なんでそんなに怒ってるの?」
    「は?怒ってねぇって」
    「…まぁ、なんとなく理由は分かってるけど」

     アレンはそう言うと、ゼファーの手を取った。

    「ゼファーも怪我してたのに、後回しにしてごめんね」
    「んなの擦り傷だって。舐めときゃ治る」
    「駄目だよ」

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