spring10152
DONE教祖アイリスちゃんの話あなたのための演目 どんなに泣いてもわめいても私の命乞いの声は届かず、私の愛する教師様は民衆に焼き殺された。全ては彼が信じ愛した神の裏切りのせいだ。かの神は人々を救う善なるものなどではなかったのだ。それを彼女自身の口から聞かされた。
「楽しい見世物だったわ」絢爛豪華な調度品の揃った屋敷に連れ去られ、嫌がるのを無理やり綺麗に整えられ、ソファの上で膝を抱える私に向かって彼女はしれっと言ってのけた。散々に喚き散らし、ありとあらゆる語彙を用いて彼女を罵倒しても響かぬ様子に涙も枯れ果て、これ以上怒りを露わにする気力も無くなろうとしていた。
「私から見たら貴女達は暇つぶしに遊ぶお人形なの。ずっと退屈しているのよ、私。だから彼を焼いたの。貴女と彼の絶望する顔が見たかったから」
3172「楽しい見世物だったわ」絢爛豪華な調度品の揃った屋敷に連れ去られ、嫌がるのを無理やり綺麗に整えられ、ソファの上で膝を抱える私に向かって彼女はしれっと言ってのけた。散々に喚き散らし、ありとあらゆる語彙を用いて彼女を罵倒しても響かぬ様子に涙も枯れ果て、これ以上怒りを露わにする気力も無くなろうとしていた。
「私から見たら貴女達は暇つぶしに遊ぶお人形なの。ずっと退屈しているのよ、私。だから彼を焼いたの。貴女と彼の絶望する顔が見たかったから」
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DONE烏丸さんが芽衣ちゃんを育てて食べようと決意する話捕食者と被食者の出会い「おじさんあたしを隠して!」
彼女との出会いはこの一言だった。私は彼女の通う小学校の学校医で、職務を終えて自分の病院へと帰ろうと丁度車のドアを開けたところに彼女が飛び込んできたのだ。何事かと事情を問おうにも彼女はしっかりと車に入り込んでしまい後部座席の足元に姿を隠して早く発車しろと怒鳴るばかりで取り付く島もないので、仕方なく私は彼女を車に乗せたまま出発した。
到着するとひとまず彼女を病院に上げて事情を聴くことにした。何でも担任が気に食わなくて鋏で刺してきて追われていたところを私は保護してしまったらしい。そういえば健康診断の時に問題児が居るから怪我を負わされないよう注意しろと言われていたが、もしやこの子の事だったか、と面倒事を抱え込んでしまった事にため息を吐いた。食べて隠蔽しようかとも思ったが、事前準備もなく連れてきたのでは警察に捕まってしまうかもしれないし、聞いてみれば4年生だという彼女は食べるにはやや大きい。どうしたものか、とりあえず学校に帰そうかとすると「どうせ明日には処分が決まるんだから今日はここに居させてよ」とふてぶてしい態度の彼女は病院内の備品に張り付いて離れない。しぶしぶ私は彼女を病院に置いたままその日の診察を終わらせた。
1654彼女との出会いはこの一言だった。私は彼女の通う小学校の学校医で、職務を終えて自分の病院へと帰ろうと丁度車のドアを開けたところに彼女が飛び込んできたのだ。何事かと事情を問おうにも彼女はしっかりと車に入り込んでしまい後部座席の足元に姿を隠して早く発車しろと怒鳴るばかりで取り付く島もないので、仕方なく私は彼女を車に乗せたまま出発した。
到着するとひとまず彼女を病院に上げて事情を聴くことにした。何でも担任が気に食わなくて鋏で刺してきて追われていたところを私は保護してしまったらしい。そういえば健康診断の時に問題児が居るから怪我を負わされないよう注意しろと言われていたが、もしやこの子の事だったか、と面倒事を抱え込んでしまった事にため息を吐いた。食べて隠蔽しようかとも思ったが、事前準備もなく連れてきたのでは警察に捕まってしまうかもしれないし、聞いてみれば4年生だという彼女は食べるにはやや大きい。どうしたものか、とりあえず学校に帰そうかとすると「どうせ明日には処分が決まるんだから今日はここに居させてよ」とふてぶてしい態度の彼女は病院内の備品に張り付いて離れない。しぶしぶ私は彼女を病院に置いたままその日の診察を終わらせた。
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DONEひなたに彼氏の肉を食わせる静さんの話幸福な食卓私はルームシェアをしているひなたの為に毎日食事の用意をする。それが私達の役割分担だったから。私は正直料理の腕には自信がある。毎日一汁三菜、ほかほかと湯気を立てる温かい食事を、愛を込めて用意していた。そう私は彼女の愛していた。
私が彼女の愛していたというのは、友愛や親愛ではない。恋愛感情だ。私は彼女が欲しいと思っているし、彼女が他人と話していれば嫉妬する。正真正銘欲を持って愛していた。
けれど彼女が同性愛者でない事は分かっていたし、私はこのルームシェア生活が続きさえすればそれで良かった。想いを伝えるつもりなどなかった。あの日までは。
彼女が男の恋人を作ってきたのだ。今まで恋愛にはあまり興味が無い、彼氏はいらないと言っていた彼女が。私の見知らぬ男の隣で幸せそうに笑っていたのだ。許し難かった。そんな男の何がいいのだ。背なら私だってひなたよりも高いし、性格だって女の子に好かれやすい。顔だって悪くないはずだ。私の方がひなたの事を何でも知っていて気遣いができて最高の恋人になれる筈なのに。それなのに、あいつは男というだけで私からその座を奪い取ったのだ。
1581私が彼女の愛していたというのは、友愛や親愛ではない。恋愛感情だ。私は彼女が欲しいと思っているし、彼女が他人と話していれば嫉妬する。正真正銘欲を持って愛していた。
けれど彼女が同性愛者でない事は分かっていたし、私はこのルームシェア生活が続きさえすればそれで良かった。想いを伝えるつもりなどなかった。あの日までは。
彼女が男の恋人を作ってきたのだ。今まで恋愛にはあまり興味が無い、彼氏はいらないと言っていた彼女が。私の見知らぬ男の隣で幸せそうに笑っていたのだ。許し難かった。そんな男の何がいいのだ。背なら私だってひなたよりも高いし、性格だって女の子に好かれやすい。顔だって悪くないはずだ。私の方がひなたの事を何でも知っていて気遣いができて最高の恋人になれる筈なのに。それなのに、あいつは男というだけで私からその座を奪い取ったのだ。
spring10152
DONE八重ちゃんの過去の話黒いスケッチブックねぇ、おとーさん、おかーさん、みてみて。うさぎさんかいたの。
『あら上手ね』
『八重は絵のセンスがあるな』
きっかけはほんの些細な事だった。幼い子供ならば誰しもきっと絵を描く機会があることだろう。画用紙にクレヨンで拙い絵を描き、それを親に見せたがったことがあるだろう。
私は愛されていた。そんな拙い絵を持ってくる私を両親は優しい笑顔で迎え、温かい手が私の頭を撫でる。私はそれが大好きだった。だから絵を描くことが好きになった。そして私は毎日毎日飽きもせずずっと絵を描き続けていた。何年も、何年も。
ねぇ、お父さん。今日はね、お父さんのにがおえをかいたの。お父さんのためにかいたの。だからあげるね。
『いらないよ』
2897『あら上手ね』
『八重は絵のセンスがあるな』
きっかけはほんの些細な事だった。幼い子供ならば誰しもきっと絵を描く機会があることだろう。画用紙にクレヨンで拙い絵を描き、それを親に見せたがったことがあるだろう。
私は愛されていた。そんな拙い絵を持ってくる私を両親は優しい笑顔で迎え、温かい手が私の頭を撫でる。私はそれが大好きだった。だから絵を描くことが好きになった。そして私は毎日毎日飽きもせずずっと絵を描き続けていた。何年も、何年も。
ねぇ、お父さん。今日はね、お父さんのにがおえをかいたの。お父さんのためにかいたの。だからあげるね。
『いらないよ』
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DONE姉の心を折ってしまった妹の告白千優の告白もっと優秀にならなければ。テストではいつだって学年一位。中学で履修すべき範囲は大体自力で学んだ。次は高校の履修範囲へ手を出さなければ。もっと、もっと、優秀にならなければ。
そう言って机に向かう姉の後ろ姿はとても哀れだった。何故なら私は真実を知っていたから。私は姉が好きだから、この真実を早めに伝えてあげるべきだと思った。
「お姉ちゃん。最近お父さんとお母さんが素っ気ないのは、お姉ちゃんの努力が足りないからじゃないよ」
ひっきりなしに動いていたシャーペンの動きがぴたりと止まる。彼女は此方を向かないが、私は続ける。
「お姉ちゃんが賢くなりすぎて自分たちの手に負えなくなったから、嫌になっちゃったんだよ」
「……根拠は」
1928そう言って机に向かう姉の後ろ姿はとても哀れだった。何故なら私は真実を知っていたから。私は姉が好きだから、この真実を早めに伝えてあげるべきだと思った。
「お姉ちゃん。最近お父さんとお母さんが素っ気ないのは、お姉ちゃんの努力が足りないからじゃないよ」
ひっきりなしに動いていたシャーペンの動きがぴたりと止まる。彼女は此方を向かないが、私は続ける。
「お姉ちゃんが賢くなりすぎて自分たちの手に負えなくなったから、嫌になっちゃったんだよ」
「……根拠は」
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DONE白衣組の痴話喧嘩この衝動は殺意に似ている「千智、俺は冗談や悪戯で言っているわけじゃない」
背後から私の両肩に手を置き、彼は私の耳元でいつもなく真剣な声で言う。そうは言っても同じ言葉をもう何年も聞き続けているのだから私の耳には本気には届かない。彼の戯言に割く時間など一秒たりともありはしないと私は彼の方へは視線も向けない。
「今まで何度も言い続けたのだって、冗談なんかじゃない。いつだって本気だ」
彼は彼を無視して読書を続ける私の左手を手に取った。すると薬指にひやりと何か冷たい物が触れる感触があり、そこへ視線を向ければシンプルなデザインの指輪が室内灯の光をはじいてその存在を主張していた。
「結婚しよう」
彼が私の手をそっと両手で握り、床に膝をついて真摯な眼差しを此方に向けながら静かに一言言い放った。
9591背後から私の両肩に手を置き、彼は私の耳元でいつもなく真剣な声で言う。そうは言っても同じ言葉をもう何年も聞き続けているのだから私の耳には本気には届かない。彼の戯言に割く時間など一秒たりともありはしないと私は彼の方へは視線も向けない。
「今まで何度も言い続けたのだって、冗談なんかじゃない。いつだって本気だ」
彼は彼を無視して読書を続ける私の左手を手に取った。すると薬指にひやりと何か冷たい物が触れる感触があり、そこへ視線を向ければシンプルなデザインの指輪が室内灯の光をはじいてその存在を主張していた。
「結婚しよう」
彼が私の手をそっと両手で握り、床に膝をついて真摯な眼差しを此方に向けながら静かに一言言い放った。
spring10152
DONE烏丸さんに好意のアピールをする芽衣ちゃんいつまでも子ども扱い「ねぇ、宗司ってさ、独身だよね?」
「ええ、そうですよ」
「宗司って何歳だっけ」
「39歳です」
暴行事件を起こしすぎて親に見捨てられたあたしの実質的な保護者、烏丸宗司。あたしは彼の事が好きだ。彼に保護されたのは小学校中学年くらいの時だったから、最初は純粋に義理の親として好きだったけれど、最近はそうではない。彼のどの手にも指輪が嵌っていない事、家の中にあたしと宗司以外の生活用品が無い事を確認して問いかける。こんな質問をすれば彼の歳なら好意があることくらいわかるだろうに、あえて無視しているのか、あたしを子供としてしか見ていないからそういう発想に至らないのか、ニュースを見ながら淡々と返事をする。
「彼女とかいるの?39で独身って結構婚期逃してない?」
1655「ええ、そうですよ」
「宗司って何歳だっけ」
「39歳です」
暴行事件を起こしすぎて親に見捨てられたあたしの実質的な保護者、烏丸宗司。あたしは彼の事が好きだ。彼に保護されたのは小学校中学年くらいの時だったから、最初は純粋に義理の親として好きだったけれど、最近はそうではない。彼のどの手にも指輪が嵌っていない事、家の中にあたしと宗司以外の生活用品が無い事を確認して問いかける。こんな質問をすれば彼の歳なら好意があることくらいわかるだろうに、あえて無視しているのか、あたしを子供としてしか見ていないからそういう発想に至らないのか、ニュースを見ながら淡々と返事をする。
「彼女とかいるの?39で独身って結構婚期逃してない?」
spring10152
DONE千智さんに恋するモブの話主役になれない男の片思いそれは大学の入学オリエンテーションの時だった。偶然隣に座っていた女子に俺は一目惚れをした。
透き通るような白い肌に綺麗に切りそろえられたショートカット、やや神経質そうな知的な瞳によく似合う眼鏡。大人しめな印象に反して意外と大きさがありシャツを押し上げる胸。そのどれもがとても魅力的に見えた。
「あ、あの、君名前は?俺は佐々木優斗」
「文月千智です」
「出身は?俺は千葉から来たんだけど」
「私は地元です」
打っても響かない会話に焦りを感じるが、きっと人見知りなのだろうと好意的に解釈し、今は彼女の落ち着きある凛とした声を聞くことができたことに興奮していた。
それからも授業の度に彼女の姿を探して近くの席に座ってみたりして慣れてきた頃には彼女の隣の席に座ってみたりして声を掛けてみた。
2045透き通るような白い肌に綺麗に切りそろえられたショートカット、やや神経質そうな知的な瞳によく似合う眼鏡。大人しめな印象に反して意外と大きさがありシャツを押し上げる胸。そのどれもがとても魅力的に見えた。
「あ、あの、君名前は?俺は佐々木優斗」
「文月千智です」
「出身は?俺は千葉から来たんだけど」
「私は地元です」
打っても響かない会話に焦りを感じるが、きっと人見知りなのだろうと好意的に解釈し、今は彼女の落ち着きある凛とした声を聞くことができたことに興奮していた。
それからも授業の度に彼女の姿を探して近くの席に座ってみたりして慣れてきた頃には彼女の隣の席に座ってみたりして声を掛けてみた。
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DONE博士とマリアナを見て愛について考える千智さん愛とは智彰の誕生日が近く迫っていた。私は奴を愛してこそいないが、日頃世話になっていること自体には深く感謝しており、出来る限りの礼はしたいと考えている。故に祝い事は忘れずまめに贈り物をしているつもりだ。
けれど付き合いが長くなってくれば贈る品のバリエーションも尽きてくる。そもそも私は男に興味がないのだから、男性はなにを貰えば嬉しいのか分からないのだ。
そこで今年は人嫌いの私が不思議と嫌悪感を抱かず、自然に懐に入ってきて会話を引き出してくれる、比較的好ましく接しやすい上司に相談する事にした。すると休日に一緒に選びに行ってくれるという。
上司は妻と思しき女性を伴ってやってきた。美しいブロンドに長い睫毛、深い海のような色の瞳。一目で日本人ではないと分かる容姿だった。
1183けれど付き合いが長くなってくれば贈る品のバリエーションも尽きてくる。そもそも私は男に興味がないのだから、男性はなにを貰えば嬉しいのか分からないのだ。
そこで今年は人嫌いの私が不思議と嫌悪感を抱かず、自然に懐に入ってきて会話を引き出してくれる、比較的好ましく接しやすい上司に相談する事にした。すると休日に一緒に選びに行ってくれるという。
上司は妻と思しき女性を伴ってやってきた。美しいブロンドに長い睫毛、深い海のような色の瞳。一目で日本人ではないと分かる容姿だった。