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    spring10152

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    spring10152

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    教祖アイリスちゃんの話

    #彼女の箱庭
    #信仰の箱庭

    あなたのための演目 どんなに泣いてもわめいても私の命乞いの声は届かず、私の愛する教師様は民衆に焼き殺された。全ては彼が信じ愛した神の裏切りのせいだ。かの神は人々を救う善なるものなどではなかったのだ。それを彼女自身の口から聞かされた。
     「楽しい見世物だったわ」絢爛豪華な調度品の揃った屋敷に連れ去られ、嫌がるのを無理やり綺麗に整えられ、ソファの上で膝を抱える私に向かって彼女はしれっと言ってのけた。散々に喚き散らし、ありとあらゆる語彙を用いて彼女を罵倒しても響かぬ様子に涙も枯れ果て、これ以上怒りを露わにする気力も無くなろうとしていた。
     「私から見たら貴女達は暇つぶしに遊ぶお人形なの。ずっと退屈しているのよ、私。だから彼を焼いたの。貴女と彼の絶望する顔が見たかったから」
     母親に捨てられ極寒の中、住むところも無くボロ布を纏って日々食べる物にも困りゴミ箱を漁っていた私に衣食住を与えてくれた教師様。愛情深く自ら私の面倒を見てくれた教師様。日々人々の幸福を祈り続けていた教師様。ずっと他人のために身を捧げていた教師様。あんなにも素晴らしいお方の命は目の前のこの女の退屈しのぎのために奪われたのだ。こんな酷い話があるだろうか。テーブルの上に用意された美しいティーカップを乱雑に掴み彼女に投げつけるも、それは彼女に触れる前に景色の中に溶け込み、消えた。
     「貴女にいい知らせと悪い知らせがあるわ。どちらから聞きたい?」彼女はティーカップを投げつけられても動じることなく、優雅に脚を組み紅茶を楽しんでいる。意味を成さない抵抗に拳を握りしめて立ち尽くす私に向けて彼女は穏やかに問いかけてきた。「どちらでも」私がテーブルを蹴り上げようとしながら答えるとお行儀が悪いわと、彼女は指先をちょいと振って私を乱暴にソファーに縫い付けた。
     「それじゃあ悪い方から。貴女のことは死なせてあげない。彼の後追いは許さない。貴女はこれからも私の加護の下生き続けなければならない」わざわざ言われずとも分かっていることを改めて断言される。ここに連れてこられてからというもの、彼女の屋敷内にあるあらゆるものを使って死のうとしたが、ただただ痛く苦しいだけで死ねなかった。そういう体にされたのだ。こうして苦しみもがく姿を眺めることが彼女の目的なのだろうと悟ると、私は何もしないことによってささやかに反抗することを決めた。
     「いい方は、貴女はやり直せるということ。私を満足させられたら彼と平穏に暮らしていた日々に帰してあげる」思いがけない知らせに、俯いていた私は僅かに視線を上げる。そんなことが可能なのだろうか。そもそもこの女が約束を守るだろうか。
     「簡単なことよ。壊した人形を直して、配置しなおすだけ。私にはできるわ」考えを声に出したつもりは無かったが、彼女の前では脳内のプライバシーすら守られないのだろう。彼女はティーカップを静かにテーブルに置き、黒く長い睫毛に縁どられた赤い目を細めて薄く笑った。「私が約束を守ろうと守るまいと、貴女の生活は変わらないわ。だったら私が約束を守る方に賭けた方が得じゃないかしら」彼女の心地よいアルトの声が私の鼓膜を揺らし、その揺れは脳をも揺らすような感覚を覚えた。彼女の言う通りだ。どうせ死なせてもらえないのなら教師様との再会という希望を胸に生きた方がマシだ。
     「……何をしたらいいんですか」睨みつけるように視線だけ彼女に向けて問いかければ、彼女は花のように美しい笑顔でゆったりと答えた。

     「あなたの愛する彼を奪った恩知らずな民衆への復讐劇を」


    ――――

     
     「皆様お聞きください」

     彼女と約束をしてから10年ほどが経った。教師様亡き後、私達が住んでいた町とその周辺は作物の不作に見舞われ、慢性的な食糧難に陥り、人々の暮らしは苦しいものとなっていた。これは彼女が仕立て上げてくれた舞台だ。私は黒い修道女の服に身を包み、町の広場の中心でパンとスープを民衆に配りながら話を聞くよう呼びかけた。
     「皆様は覚えておいででしょうか。かつて神の加護をこの地にもたらしていた人がいたことを。そして彼が皆様とのすれ違いから火刑に処されてしまったことを。それ以来神の加護は無くなりこの地が荒れ果てていることを」食料を配り終えた私が、かつて教師様が焼かれたその場にあった壇上に上がりこう問いかけると私の声を聞いた民衆がどよめいた。
     「彼を信じれば良かった。そうすれば今こうして苦しい生活をせずに済んだのに、と思ったことはございませんか。その思いを救うため私はやってきました」民衆のざわざわとした声は少しずつ静まっていき、視線が私に集まる。

     「私はアイリス。神からのよい知らせを皆様にお届けするようにと教師オトギリから名を頂いた、彼の後継者です」

    民衆の中からすすり泣きが聞こえ始めた。教師様のお世話になったにも関わらず彼を焼き殺した者共の後悔の涙だろう。

     「皆様の罪は私が赦します。私と共に神に祈りましょう。神は寛大でいらっしゃいます。信じる心を思い出せば皆様を救ってくださいます。毎日食べ物に困らず、暖かい服を着て隙間風の吹き込まない家で過ごせる日が帰ってくることでしょう」

     人というのは現金なものだ。実際にパンとスープを受け取り、これからの生活を保障するという言葉を聞けば皆拍手でもって私を迎えた。
     さあ、これより聖女アイリスの人生の幕開けでございます。壇上から見下ろせば民の群れの後ろの方に彼女がぽつんと立って微笑みながら拍手をしていた。


    ――――


     私が『聖女』となるのは簡単だった。私が祈れば雪は止み、農村へ赴き畑に私の血を一滴垂らせば作物が良く実った。町の食糧難が解決し始めるに従って私への信仰は篤くなった。私はかつて教師様と過ごした地に再び教会を建て、信者を集めて神の愛を説いた。そして男女問わず伝道師を育て上げ、信者をどんどんと増やしていった。
     だが全ての人がそれを受け入れたわけではなく、私の恩恵を受けながらも私のことを怪しいと嘯く恩知らずも居た。そういった輩はこっそり殺して回った。私には彼女の加護があったから、それが民衆に知られることも無かった。
     不信心な者は皆畑の肥やしになり、町は一層豊かになり、誰も彼もが私と神を信じた。
     そろそろ頃合いだ。民衆が今の生活に満足してしまっては信仰が薄れてしまう。私は始まりの広場に民衆を集めるとそれぞれに一杯の葡萄酒を配って回った。
     
     「神は皆さまの祈りに応えて皆様を今よりももっと幸福にしたいと仰せです。この葡萄酒は皆さまの行く先を祝福する神よりの贈り物です。さあ、深い神の愛に乾杯いたしましょう」
     広場に集まった民衆は歓声を上げ、隣人とグラスを合わせて葡萄酒をあおった。
    数分は談笑が飛び交っていたが、その中に悲鳴が混ざり始めた。人々が地面に倒れていき、それに巻き込まれた者も立ち上がることは無く苦しみ呻いてそのまま事切れた。バタバタと人が倒れていく中、葡萄酒に毒が入っていたと気づき逃げ出す者もいたがそれも片っ端から銃で撃った。私が全ての元凶だと襲い掛かってくる者もいたがそれも銃で撃った。彼女から手渡された銃は弾切れを起こすことなく無限に弾丸を発射した。
     悲鳴もうめき声も銃声も止み、やがて広場には静寂が訪れた。

     「いかがでしたか」

     死体の山の中に佇む彼女に問いかければ、彼女はいつもの感情の読めない微笑みを浮かべて拍手をした。

     「これにて閉幕です。約束ですよ、必ず私を教師様の下へ帰してくださいね」

     やっと苦しみが終わる解放感、きっと教師様に会えるという喜びから私の顔は綻び、穏やかな気持ちで銃口をこめかみにあてて引き金を引いた。
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    spring10152

    DONE烏丸さんが芽衣ちゃんを育てて食べようと決意する話
    捕食者と被食者の出会い「おじさんあたしを隠して!」
    彼女との出会いはこの一言だった。私は彼女の通う小学校の学校医で、職務を終えて自分の病院へと帰ろうと丁度車のドアを開けたところに彼女が飛び込んできたのだ。何事かと事情を問おうにも彼女はしっかりと車に入り込んでしまい後部座席の足元に姿を隠して早く発車しろと怒鳴るばかりで取り付く島もないので、仕方なく私は彼女を車に乗せたまま出発した。
     到着するとひとまず彼女を病院に上げて事情を聴くことにした。何でも担任が気に食わなくて鋏で刺してきて追われていたところを私は保護してしまったらしい。そういえば健康診断の時に問題児が居るから怪我を負わされないよう注意しろと言われていたが、もしやこの子の事だったか、と面倒事を抱え込んでしまった事にため息を吐いた。食べて隠蔽しようかとも思ったが、事前準備もなく連れてきたのでは警察に捕まってしまうかもしれないし、聞いてみれば4年生だという彼女は食べるにはやや大きい。どうしたものか、とりあえず学校に帰そうかとすると「どうせ明日には処分が決まるんだから今日はここに居させてよ」とふてぶてしい態度の彼女は病院内の備品に張り付いて離れない。しぶしぶ私は彼女を病院に置いたままその日の診察を終わらせた。
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    spring10152

    DONEひなたに彼氏の肉を食わせる静さんの話
    幸福な食卓私はルームシェアをしているひなたの為に毎日食事の用意をする。それが私達の役割分担だったから。私は正直料理の腕には自信がある。毎日一汁三菜、ほかほかと湯気を立てる温かい食事を、愛を込めて用意していた。そう私は彼女の愛していた。
    私が彼女の愛していたというのは、友愛や親愛ではない。恋愛感情だ。私は彼女が欲しいと思っているし、彼女が他人と話していれば嫉妬する。正真正銘欲を持って愛していた。
    けれど彼女が同性愛者でない事は分かっていたし、私はこのルームシェア生活が続きさえすればそれで良かった。想いを伝えるつもりなどなかった。あの日までは。
    彼女が男の恋人を作ってきたのだ。今まで恋愛にはあまり興味が無い、彼氏はいらないと言っていた彼女が。私の見知らぬ男の隣で幸せそうに笑っていたのだ。許し難かった。そんな男の何がいいのだ。背なら私だってひなたよりも高いし、性格だって女の子に好かれやすい。顔だって悪くないはずだ。私の方がひなたの事を何でも知っていて気遣いができて最高の恋人になれる筈なのに。それなのに、あいつは男というだけで私からその座を奪い取ったのだ。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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